#2397/5495 長編
★タイトル (ZBF ) 93/11/25 4:37 (175)
一遍房智真 魔退治遊行 悪党 西方 狗梓
★内容
一遍房智真 魔退治遊行−悪党− 西方 狗梓:Q-Saku/Mode of Fantasy
弘安三年の秋、一遍は祖父通信の墳墓を訪れていた。通信は承久の乱で幕府方
に敗れ、予州から遥か遠く、奥州江刺郡に流された。この地で没する。通信は剛
直にして武家らしい天性の覇気を有っていた。彼は罪人ながら配流の地で住民か
ら尊敬を集めた。その孫にして名高い遊行聖・一遍が訪れたとあって、近在の武
士、農民、商人、僧侶までもが結縁を求めて集まった。
一遍は顔も知らぬ祖父の墓を前に、深い思いに捉われていた。墳墓は流人にし
ては立派だった。六間四方の土壇の上に四間四方の壇が築かれている。更に直径
二間半の円墳が載っている。所謂上円下方墳である。罪人というより客人として
の待遇を受けたらしい。しかし、それが何になろう。一遍の祖父・通信は、武士
であった。武士は一所懸命の言葉通り、所領/土地に根ざした存在である。土地
に命を懸けた武士が、土地から引き剥がされ遠く奥州まで流されたのだ。断腸の
思いだったに違いない。一遍は通信の往生を祈った。心が暗く、しかし熱く濃縮
していく。
背後に集まった人々が一遍を伏し拝みながら南無阿弥陀仏を連呼する。何百も
の声が一つの流れとなって、一遍の周りを渦巻く。一遍は静かに恍惚感を味わっ
ていた。全身の毛穴が開き、自己が拡散していく。法悦の波にたゆたう。と、俄
かに両脇で風が起こる。驚き目を開けると白い法衣の袂を靡かせ超一、超二が踊
りだしていた。前に進み出て弧形に歩を進める。シナヤカな手が複雑な図形を形
作っている。指が空を切る度に、種々の印形を結んでいる。印形は、それぞれに
阿弥陀仏、観音など諸仏を象徴している。諸仏を法理に従い配置したものが曼荼
羅である。超一は胎蔵曼荼羅、超二は金剛曼荼羅を描きながら踊っている。
呆けた顔の一遍がフラフラと立ち上がる。静寂の中に動作だけがある。群衆が
突然現出した奇妙な光景に固唾を呑んでいる。一遍が超一と超二の間に割り込み
目茶目茶に手を振りながら踊り出だす。何処からともなく、遠近感を喪失した南
無阿弥陀仏の声が湧いてくる。微かに不思議な楽器の音がする。
一遍はジっと一点を見つめていた。超一の白く脂ののったウナジを見つめてい
た。薄く紅が差し汗が滲んでいる。熱気と成熟した女の匂いが一遍の体に纏わり
付いてくる。一遍は激しい欲情を感じた。股間が膨らみ固くなる。罪悪感に南無
阿弥陀仏と叫ぶ。叫び続け踊り狂う。
一人の娘が群衆から飛び出し、憑かれたように一遍らの外周で飛び跳ねる。二
人、三人、娘が続く。女たちが飛び出してくる。呆気にとられ見守っていた群衆
は互いに顔を見合わせる。誰からともなく頷き合い先を争って踊り出だす。南無
阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。熱狂した老若男女が念仏を叫びながら踊り狂う。興奮
が興奮に重なり、叫びが統合される。肉体が、物質が波となり融け合っていく。
南無阿弥陀仏の声が、群衆の中心で踊る超一に流れ込む。不思議が起こった。
超一の体が薄っすら輝いてきたのだ。よく見ないと感じないほどだが、確かに輝
いていた。ふと足下を見ると、僅かだが浮き上がっている。超一が浮き上がって
いるのだ。一遍は息を呑んだ。慌てて辺りを見回す。他に気付いている者はいな
いようだ。
一人の三十絡みが林の中から踊念仏を見つめていた。この土地の悪党・三河太
郎だ。不敵な視線が、輝くばかりに目を引く超一の上で留まる。視線のモードが
冷笑から獰猛に替わる。超一のヌメやかに汗ばみ桃色に上気した腮から喉を舐め
回す。すでに太郎は超一を裸に剥いていた。
うっすら青く静脈が透けた腿が跳ね上がり、揺れる。クビレた腰から張り出し
た尻へのラインが、クネる。振り上げた腕の下に濡れた脇の窪みが光る。小ぶり
に盛り上がった乳房が震える。押し倒し、のしかかる。もがく手を地に捻付ける。
顔を歪め泣き喚く女。太郎の魔羅が怒張する。憎々しげに睨み上げる女の、悪態
を吐き出す唇を塞ぐ。くぐもった悲鳴に鼓膜がザワめく。力任せに女の中に押し
込む。身を強張らせ、うち震え、仰け反る女。太郎は首筋に噛み付く。両手で乳
房を揉み上げ揉みしごく。細い腕が厚い肩を押し戻そうとする。背中に回って掻
き毟り目茶目茶に叩く。太郎は哄笑しながら根元まで突き入れ責め立てる。女の
固く閉じた瞼から涙が溢れる。拒絶と苦痛の絶叫を聞きながら、太郎は放つ。
太郎は欲望に濁った目を漸く超一から逸らせると身を翻し、ほくそ笑んで立ち
去っていった。
夜になる。一遍たちは在郷の武士の館で疲れを癒していた。皆、寝静まる。静
寂が重量を伴って垂れ込める夜半。白い影が動く。超一が音もなく館を滑り出し
ていく。
夜になる。太郎は超一を奪うべく郎党を引き連れ山道を急いだ。行く手に白い
影が浮かぶ。太郎は郎党に指図して道を外れ身を潜める。落ち着いた足どりで超
一が近付いてくる。太郎は驚いた。獲物が労せずして手に入るのだ。郎党たちを
振り返り合図を送る。
超一の前に郎党たちが立ちふさがった。突き飛ばし仰向けにした超一の腕を高
く押さえ付け胸をはだける。超一の脚を大きく拡げ押し屈める。乾いた女陰がパ
ックリと広がる。太郎が袴を下ろし既に固くなっている魔羅を宛う。
「どうした、怖くて声も出ないのか」太郎は超一を見下ろす。超一は常の如く、
薄く微笑んでいる。太郎が喚く。
「うぬうっ、女、俺を愚弄しておるのかっ。思い知らせてやるっ」太郎は大きく
膨らんだ魔羅を超一の女陰に力任せに押し込む。激しく腰を遣いながら、
「おらぁっ、泣けっ、喚けっ、叫べっ、許しを乞うのだっ」絶叫する太郎を超一
は変わらぬ慈愛で見上げている。
「ちっちきしょおっっ、泣き叫べっ、悶えろっ、のたうち回るのだっ」太郎は一
層激しく腰を遣う。超一は変わらぬ笑顔で見つめ返している。太郎は程なく獣の
如き叫びとともに射精し、失神した。
「太郎、裸になりなさい」全裸の女が床から声をかけた。
「し、しかし母上、何故して……」
「脱ぐのです。私の上に寝なさい」母親は十四の時に太郎を産んだ。まだ二十七
歳、匂い立つような肉体をユッタリと伸べ、震えながら服を脱ぐ太郎を見つめて
いる。太郎は全裸となり前を隠して立ち竦んでいる。
「さあ、逆になって私の上に、……違うわ、股に顔を入れるのよ」
命じられるままに戸惑いながらも太郎は母親の下腹に顔を埋め69(シックス・
ナイン)の体位をとる。母親は目の前にブラ下がったペニスを見つめ舌舐めずり、
包皮を乱暴にズリ下げた。
「ひっ、いっ痛いっ」顔を顰め太郎が腰を引こうとする。母親は空いた左腕で逃
げる尻を捕まえながら、
「ダラシない子だね。ふふ、生意気にオッ立てちゃって、ほら、太郎、股を舐め
るのよ」母親はチロチロと赤い舌で生白いペニスを撫ぜ始める。小さい叫びと
ともに太郎の肉体が仰け反る。ニヤリと笑った母親が細いペニスを口に含み吸い
上げ唇でしごきながら舐め回す。
「ああっはああっああっうわあああああっっっ」ビクビクと痙攣する太郎から濃
厚な液体が迸る。母親は飲み込んだ後、再び口で太郎を陵辱する。
「あうっやっヤだぁあっ、止めてよぉっ母上、母上っはうっくううっっ」頭を振
り立て腰を引こうとする。しかし程なく太郎は泣きじゃくりながら二度目の射精
を迎えた。
太郎の薄い肩が荒い呼吸と涙のために上下に揺れる。体は脱力し弛緩している。
「はうっ」太郎の肢体がビクつく。母親の手が小さな尻たぶを掴み乱暴に左右に
割った。
「うぎゃあああっっ」太郎は肉体を引き裂かれるような激痛と衝撃に絶叫した。
喘ぎながら後ろに顔を振り向ける。最近入道した父親が興奮しきった目をギラつ
かせ、自分を犯しているのが見えた。身悶えし、あがき逃れようとした。下から
母親に、上から父親に取り押さえられ陵辱された。不思議にも突き上げられる度
に太郎の肉棒も再び怒張し回復していった。母親は一層激しく小さなペニスを責
め立てた。三度目は父子が同時に果てた。
三年後、太郎は父と母を重ねて斬り殺した。まだ十一歳だった妹を強姦し、妻
にした。幕府への奉公を絶えさせ、非御家人/悪党として家を率いた。周囲の武
士と小競り合いを繰り返した。まだ青い田に馬を乗り入れ稲を踏み倒した。収穫
を掠めた。僧と見れば殺し、尼と見れば犯した。こうして二十年が過ぎた。子供
には恵まれた。性徴が現れると、娘も息子も犯した。娘は孫を産んだ。
回想から覚めると超一が目の前に立っていた。哀しい微笑みを浮かべている。
太郎は何者かに肩を押し付けられたかのように、ガックリと膝を着いた。超一が
柔らかく太郎の頭を抱き締める。
「母上っ、母上っ」太郎は超一の小さな体にムシャぶり付き泣きじゃくる。超一
は無言の侭に、少しだけ抱き締める力を強める。
「母上っ、母上っ」太郎は超一に、しがみ付き揺さぶり顔を埋め泣き続けた。
「お館っ、お館っ」郎党が太郎を揺り起こす。正気付いた太郎が呆けた顔で辺り
を見回す。超一がいない。慌てて
「あっ尼はっ、あの尼は如何したっ」
「実は、お館が済んだんで輪姦してやろうとしたら急に皆、気を失って……」
「お前らのコトなんか聞いていない。尼は、尼は何処だ」
「ですから、何処かに行って……。我等が気が付いたときには居ませんでした」
●
一遍らは江刺郡からやや南下し平泉に向かった。平泉には以前結縁した悪党・
九郎判官の館がある。悪党とは幕府に従わない武士である。大雑把に言えば、既
成秩序から独立した存在、となる。かえって幕府に従う武家領主に、支配に抵抗
する農民の耳を切り落とし鼻を削ぐような悪逆非道な”悪党”がいた。
幕府は武家法度として貞永式目を制定した。その冒頭で武士に対し神仏への帰
依を求めている。この場合、仏とは古代仏教を指す。浄土教系、日蓮宗は当時、
異端として迫害されていた。だからこそ、とは言えないが浄土教系の一遍には悪
党の信者が多かった。古代秩序が古代仏教を道連れに腐敗し朽ちていく中世に於
いて、新しい宗教が古い価値体系を嫌う悪党を惹き付けたのだ。当時、宗教は世
界観であり価値体系そのものであった。悪党の中には領内に、一遍一行の安全を
保障する高札を掲げる者までいた。
あだしごとはさておき、一遍一行は平泉に到着した。九郎に歓迎を受けた。此
処でも救いを求める人々が多く詰めかけ、忙殺された。名号の札を求める衆生が
後を絶たず、刷っても刷っても間に合わない。
九郎は五十路を越した老武士、無理な収奪をせず農民に慕われていた。信心も
篤い。寺社を建立し領内の治安にも心を配っていた。九郎は、その日も領内の見
回りに出た。村外れの小堂で休憩しようと馬から降りた。前に立ち合掌しようと
したとき、堂内に人の気配を感じた。足音を忍ばせ堂に上がる。ガバと扉を開け
一喝する。一人の僧侶が、汚れきった袂で顔を隠し座っている。不審に思いズカ
スカと近付いた九郎が顔を覗き込もうとする。僧は体を丸め顔を見せまいとする。
暫く考え込んだ九郎は「御免っ」と一言、僧の腕を捻じ上げた。押し殺した呻き
が僧の唇から洩れる。しかめた顔を見て、
「お前は悪太郎、何をしている」悪太郎とは太郎の通称だ。太郎は九郎の腕から
逃れようとモガきながら、
「離せ、俺は超一様に会うのだ。離せっ」
「超一様に会うだと。さては超一様を辱めようと……。許さぬ、この場で斬る」
「ま、待て、俺は……」
「うるさいっ、尼と見ては辱めるお前を、いつかは成敗してやろうと思っていた
のだ」
「待てっ、俺は、この通り僧になったのだ。出家したんだ」
「愚かな。僧に化け近付こうとは小賢しい。覚悟っ」
「待てっ、うぐっ、ちょっ超一様ぁぁ」太刀が太郎の腹を抉る。
「この期に及んで超一様の御名を口にするとは、不届きな奴」
「あぐうっっ、ちょっ超一様ぁぁ」何度も抉られ突き上げられる。
「うぬうっまだ言うかっ」
「ぐあああっっちょっちょぉ、い、ち……」腹部に十数度、太刀を刺し込まれ抉
り回され漸く太郎は死んだ。空を掴んだまま躯は、堂下に蹴り落とされた。
「ん、如何した。超一」名号の札を刷る手を休め、一遍は超一に声をかけた。い
つもと変わらぬ微笑みを浮かべた超一の頬を、涙が伝っている。微かに首を振り
超一は刷り上がった札を並べる。俯く。札の文字が少しだけ滲む。
(つづく)