AWC      「松山の白い天使さまへ」


        
#2330/5495 長編
★タイトル (MMM     )  93/ 8/28   5:42  (102)
     「松山の白い天使さまへ」
★内容
                            (手紙)


 中学2年の頃松山で見た…または高校3年のとき見た…僕の瞼の中の幻の天使さま
…白い白い天使さま…もう現実に実在しているのかそれとも天国へ旅立れているのか
解らない天使さま…僕の心の中だけに存在している天使さま…漠然とした生きること
への不安を抱えている僕を霊界か何処かからそっと眺め見守っていてくださる天使さ
ま…たしかに居ると思われる…きっと何処かに…たぶん今生きていて長崎の何処かに
…僕がかつて秋月町か○○町に住んでいると空想していましたけど…きっと今生きて
いて僕を見守っていて下さる天使さま…1年後か2年後…僕ときっと結婚して下さる
天使さま…。
 漠然とした生きる不安を日曜の朝抱えていて布団の中で苦しんでいる僕をじっと大
きな目で見つめて下さっている天使さま…きっときっと実在していて下さっている天
使さま。ちょっとぽっちゃりしていて目が大きくて色白で…とっても明るい天使さま
。孤独に打ちひしがれている僕をきっと救って下さる天使さま。今も僕と赤い糸で結
ばれていて僕をそっともう春になった青空から見つめている天使さま。今日にも会い
たいです。この孤独な日曜日にでも会いたいです。そして僕を救って下さい。僕をこ
のどうしようもない泥沼から救い出して下さい。お願いします。

 ――僕はこう手紙を書き終えてそっともう明るくなった空を見た。ああ、みんな何
のために生きているんだろう。人間って、何のために生きているんだろう…と僕は思
っていた。みんなみんな何のためにこんなにあくせくして生きているんだろう。生き
るための糧を稼いでいるのだろう。そして堕落した人たちがパチンコ屋にたむろして
いる人々。彼らも必死になって“不安”と戦っているのだろうか。
 ――僕の思考はここで止まった。そして再び青空から僕を見つめて下さっているき
っと秋月町かどこかに住んでいて来年か再来年僕と結婚して下さる白い美しい天使さ
まが今頃大きな目をぱっちりと醒ましてベットから起き出して顔を洗い始めている仕
草を思って僕は微笑んでいた。幸せに微笑んでいた。

 ――今なんだか霊界へ旅立ってきたようだった。いろんないろんな夢みたいなもの
を見た。僕の希死念慮は強く、クスリをまたたくさん飲んでこの日曜日、誰にも知ら
れずに霊界を探索して来たようだった。そしてやはり父や母の愛や悲しみによって僕
は現界へと帰ってきたようだった。
 霊界は決して楽な所ではないようだった。悲しみが部屋いっぱいに充満しているよ
うな(ちょうど僕の部屋のような)ものだった。そして僕はやっぱり生きようと思っ
て現界へ帰ってきたようだった。
 生きていることも辛ければ死ぬことも辛くて、つまり、僕は小さな箱の中に詰め込
まれているのだろう。生きていても死んでいても苦しいことが続くと箱の中に詰め込
まれていて知った。
 僕は“生きていても死んでも辛いことや苦しいことばかりが続く”という箱の中に
詰め込まれていた。どうしようもない、もうどうしようもない箱の中に。


 白い天使さまへ。
 もう消え果ててしまっているけど僕の胸の中にはまだしっかりと残っている中学・
高校時代に一度づつ出会った美しいちょっとぽっちゃりした天使さまへ。白い白い天
使さまへ。
 天使さま。僕をお救い下さい。僕は今日、アルバイト先を早く退してここへやって
来ました。バイクにくくられているバックの中にはしっかりとこのまえまた一本柔道
場から持ってきた柔道の黒帯があります。黒い蛇のようにとぐろを巻いて僕の首を締
めつけるのを今か今かと待っているようです。
 僕の憂愁の心は晴れません。もう5月も中旬となりすっかり春になったのに…また
あなたと出会った6月や9月の季節のようになってきたのに…僕の心は晴れません。
僕の心は重たくこの浦上川の黒い流れの中に沈み込んでゆくようです。
 天使さまが…本当にとっても美しく明るい天使さまが現れないことには僕のこの憂
欝な心は晴れないでしょう。僕は今にも泣き出してしまいそうです。
 親への罪悪感と、そして親の悲しみを思うと、僕は苦しくて苦しくて…
 僕は消え果ててゆきたい。この青い青い空の中へ…。
 この青い青い、なんだか天使さまがあの太陽で、悲しみに打ちひしがれている僕を
優しく抱きしめてくれるようなあの太陽の中へ。僕は消えて行きたい。


 夕暮れとともに僕の目にありありと浮かんでくる川縁を白い川縁を白いとても美し
い少女がもう二十二、三歳になって僕に微笑みながら歩いてくる光景。美しい美しい
光景だった。バイクの上で憂愁に沈む僕を財政的にも精神的にも救ってくれる白い天
使さまのような女性がこの川縁を歩いてくるのを僕はバイクの上で俯きなが見遣って
いた。

 なぜ僕はいつもこんなに孤独なんだろう。なぜ僕はいつもこんなについてないんだ
ろう。紅く溶けるように落ちてゆくまっ赤な太陽を眺めながらそう考えていた。

 そして僕をきっと救ってくれる、財政的にも精神的にも行き詰まっている僕を救っ
てくれる天使さまが現れるのを僕は赤いバイクの上で祈るように願っていた。


 白い天使さま
 僕はさっき家の周りを必死に掃除している自分の姿の夢を見た。僕は死に先立って
少しでも親孝行になるようなことをしようと必死に家の周りの掃除をしていた。
 白い天使さま
 僕はたぶんもうすぐ死ぬと思う。もうそろそろ限界のようだ。僕にとって生き続け
るのはもう限界に来てしまったようだ。
 塵埃に満ちた毎日の生活に疲れ果て、僕は何事にも楽しさとかそういったものを覚
えなくなってきた。僕は疲れ果て、白い天使さまが空から白馬に乗って僕を(中学・
高校時代に松山で見たあのとても美しい笑顔を僕に向けながら)降りて来るのをもう
すっかり春になり夏になりかけているこの頃思う日々だ。
 何かが、本当に何かが起こらなければ僕はこの一週間のうちに死んでしまいそうだ
。本当にこの一週間のうちに僕の心に大きな変化が起こらないことには。
 恋人が現れるか創価学会に戻るか…どちらかだと僕は思う。

 あなたの白い手に乗って僕はこのまま気持ち良く布団の上に横たわって天国へとゆ
く。
 気楽にのほほんと何も考えずに毎日を送れるようなそんなのんきな性格に僕はなり
たい。
 のほほんと僕も生きたい。みんなのように。


 僕の魂は白い気球となって、落ちてゆく、落ちてゆく、
 そして松山の橋の上あたりを飛んでいる、
 中学高校の時に松山のこの辺りで見た美しい白い少女を捜そうと
 飛んでいる、






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