AWC 「野生児ヒューイ」第三部(8)    悠歩


        
#2290/5495 長編
★タイトル (RAD     )  93/ 8/16   0:55  ( 92)
「野生児ヒューイ」第三部(8)    悠歩
★内容


 耳を裂く轟音。
「なんだ?」
 ガラスを破ることに集中していたヒューイだが、その音に気を取られたことが幸い
した。
 音の正体を見極めようと、一歩音のした工場の方へ体を動かしたヒューイから僅か
に数センチ離れたばしょを天井からのレーザー光線が貫いた。
「チイッ。何が起きたのだ」
 ヒューイを葬るのにしくじった事に舌を打ちながら、ボイヤーも工場に視線を送っ
た。
「あれは」
 振えるミディアの声。
 工場に並ぶ機械から火の手が上がっている。それも一箇所や二箇所ではない。
「また反乱なのか!!」
 ボイヤーの頭には、友を失ったあの忌ま忌ましい出来事が蘇ったのだろう。
「いや………有り得ない。やつらの洗脳は完璧のはずだ!!」
 しかしそれが反乱である事は明らかだった。先程まで死人の様な顔で、作業に従事
していた筈の少年少女達が、嬉々とした表情で手に手にパイプや工具を持ち、機械を
打ち壊している。
 ティナの目には赤々と燃え盛る炎が映った。しかし炎に恐怖は感じない。もうすぐ
ヒューイがガラスを破り、助けに来てくれる。
 その事に微塵の疑いもない。
 ガラスの割れる音。
 一箇所への集中的な打撃が功を奏したのか、炎の熱でガラスが劣化していたのか、
それともボイヤーの計算を遥かに上回る力をヒューイが持っていたのか。
 ヒューイとティナを隔てていたガラスの壁は、炎の光を受けてきらびやかに輝きな
がら崩れて行った。
「ヒューイ」
「ティナ」
 ボイヤーがティナを制しようとしたがその手を交わし、二人は互いに抱き締め合っ
た。
 だが、それも一瞬の事だった。
 ヒューイはティナを背中に庇い、槍を構えて仮面のボイヤーと対峙する。
 ボイヤーの体が小刻みに振えてk (RAD71224)  93/ 8/16   0:52  (128)
「野生児ヒューイ」第三部(7)    悠歩
★内容


 ボイヤーはまだ、先程の部屋にいた。しかし、テーブルは片付けられ、ボイヤーの
腰掛ける椅子の他は何もない。
 そして、ボイヤーからだいぶ距離を置いた部屋の住みには、意識を失ったヒューイ
が転がっている。
「ヒューイ!!」
「来たか」
 後ろの扉が開き、ミディアに伴われてティナが入ってくると、ボイヤーは振り向き
もせずに言った。
「ヒュ……ヒューイを殺したの!!」
 怒りと悲しみの満ちた目で、ティナはボイヤーを睨んだqューイ………」
 ヒューイの肩を掴むティナの手に力が入る。いくらヒューイでもティナを庇いなが
らではこれだけのロボットを相手に戦えるとは思えない。
「大丈夫だよティナ。こんなやつら、何匹まとめて来ようとも、みんなやっつけてや
るさ」
 ティナの心を察して、ヒューイがその手を握りしめて言った。
 それをティナは嬉しいと思った。それと同時に、ヒューイと共に戦う力のない自分
をもどかしく感じた。
「なかなか感動的な場面だな」
 ボイヤーの冷たい声が響く。
「もう一度言おう。戻ってきなさい、ティナ。そうすれば、その少年の生命も助けて
やろう。君の大事なナイトも、これだけのロボットには敵わないだろう?
 さあ、どうする、ティナ」
 ティナの心が揺れる。ここまでティナの為に戦ってきてくれたヒューイ。死なせた
くはない。
 ティナはゆっくりとボイヤーの元へ進み出ようとした。しかしそれはヒューイの差
し出した手によって、制されてしまった。
「言ったろう? こんなやつら、まとめてやっつけてやるって」
 絶体絶命の危機のなかでも、ヒューイの声は落ち着いていた。それどころか、喜び
さえ感じているようである。
 どんな不利な戦いでも、負けることなど考えもしない。死が目の前に迫っていても
恐怖を感じることはない。
 無謀な事ではあるが、それがヒューイの………いや、この世界に生きる人々の強さ
なのだ。ティナはそんなヒューイが、そんな人々がとても好きだと思った。
 心は決まった。ボイヤーに従うことは、結果的にこの世界の人々の自由を奪う事に
なる。文明なんてなくても、この世界の人々は皆懸命に生命を謳歌しているではない
か。文明を与えてやるなどとは、ボイヤー一人の思い上がりではないか。
「私は……私はヒューイと共に行きます」
 ヒューイとなら、一緒に死んでもいい。ティナは本気で思った。
「そうか。残念だよ、ティナ」
 ボイヤーの言葉は何処か悲しみを帯びていた。
 ミディアが顔を背ける。
 ロボット達の胸が開き、銃口らしきものが見えた。それが一斉にティナとヒューイ
に向けられる。
「ヒューイ」
 ヒューイと話が出来るのはこれが最後かも知れない。そう思うとティナは何か話さ
ないではいられなかった。
「ん、どうしたの。ティナ」
 答えるヒューイの声はまるで、喫茶店でお茶を飲んでいるように穏やかだった。と
ても死に対峙しているようには思えない。
 ティナはその自信に勇気付けられた。
「ううん、なんでもない。勝ってね」
「負けないさ。絶対にね」
「やれ!」




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