#2269/5495 長編
★タイトル (CWJ ) 93/ 8/ 4 12:49 (128)
魔女の微熱 −4− 作 うさぎ猫
★内容
sapaシリーズ1
「飲みすぎちゃったかな」
ラミーはワインに口をつけながら、ジェノアを見た。ジェノアも顔を
赤くしている。ラミーは楽しくてしかたないというふうに、ニコニコと
笑顔が絶えない。
「結構、飲めるんだ」
「ううん、こんなに飲んだことないわ。へんね、今日はどうしたんだ
ろう」
「僕もアルコールは久しぶりだな」
「お仕事忙しいの?」
「うん、いろいろとね」
ジェノアは少しうつむき、自分のワイングラスを見つめる。一瞬の沈
黙。ジェノア思い切ったように。
「恋人いるの?」
そう言ったあと、ジェノアは顔をさらに赤くした。
「えっ? どうして?」
「あぁ、いや。その・・・」
「恋人は、いないわ」
ジェノアの表情がパッと明るくなる。それを見てクスクス笑うラミー。
「あぁ、いや、気にしないで」
「気にしなくていいの?」
「いや、少しは気にしてほしいけど・・・」
ケラケラ声を発てて笑うラミー。
「変なひと」
「そうだね。変だね」
ジェノアもケラケラ笑った。
「まもなく着くぜ」
ラジアンがホバーの窓から、13区の市街地を眺めながら言った。
「あれはなに?」
市街地のミステール街に突入するように飛ぶ、赤いホバー。ミサイル
ポットやビーム砲をごてごてと取り付けてある戦闘用ホバーだ。
「赤い星だ!」
ラジアンが叫ぶ。エンジンを高速に切り替え、赤いホバーを追う。ホ
バーはマンションのひとつに入り込む。ジェノア・カーマインのマンショ
ンだ。
「やーだ、敵が増えちゃったじゃないの」
「別に増えても関係ないんじゃない?」
「そうね。めんどくさいからマンションごと壊しちゃおうか」
「街ごと壊しちゃうのまちがいじゃない」
ホバーを屋上駐機場に降ろし、ラジアンとクリスは赤い星の連中を追
う。非常階段を駆け下り、ジェノアの部屋の前で捕まえた。
「そこまでよ」
クリス・ターナが叫ぶ。男たちは一斉に振り向いた。
「こんにちは、sapaのクリスちゃんだよーん」
「あぁ? なんだてめえ!」
一番大きな身体をした、中央の男が威嚇する。
「あん! 恐い顔してぇ」
「ふざけんじゃねえ」
傍らにいた男がライフルをかまえる。クリスはニコリと笑顔。
「とっとと帰りな、痛い目にあう・・・」
ズズズ・・・
異様な音とともに、ライフルをかまえていた男の頭が膨らむ。
「ひえー! 助けてく・・・」
ドーン!!
男の頭が破裂した。辺り一面真っ赤に染まる。
「ラジアンちゃーん」
クリスの掛け声とともに、黒い殺人鬼が舞い下りる。ラジアンはいっ
たん地に足をつけると同時にパーンっと飛び上がった。その飛躍力で一気
に男たちの首に食らいつく。
「外が騒がしいな」
ジェノアはワイングラスを置くと、玄関に向かった。ゆっくりとドア
を開ける。
ゴトッという音とともに、血まみれの脳が吹き出した男が倒れ込んで
きた。ジェノアは男の顔を見て青ざめる。
「ジョージ!」
ドアから他のメンバーもなだれ込んできた。
「兄貴、大変だsapaだ。ヴィーナスレノアの魔女だ!」
ラミーはテーブルから立ち上がる。
ドドーン!!
部屋の玄関が爆発する。凄まじい煙が部屋の中に充満した。黒い物体
が飛び込んできたあと、フラワースカートの美少女が現れる。
「クリス!」
ラミーは声をあげた。
「あれぇ、ラミー姉様!?」
ジェノアはラミーを問い詰める。
「どういうこと? それはこっちが聞きたいわ。だましていたのね」
「だます? 違う。僕は君がsapaなんて知らなかった」
「ラミー姉様、説明して」
「兄貴、なにやってんだよ」
「ウニャニャニャ!」
ラジアンが別のメンバーの喉元に食いついた。血が吹き出す。男たち
の悲鳴。ライフルの銃声。
「あーっ、もう。クリスわけがわかんないよ」
部屋は真っ赤な血に染められた汚物が氾濫している。内臓や大脳が転
がる。目玉や指の切れ端が宙を舞う。
「兄貴! 魔女と手を切れ!!」
男のひとりが、ラミーにライフルを向ける。発砲!
「止めろ」
ジェノアはラミーをかばう。銃弾がジェノアの心臓を撃ち抜いた。
「ジェノア!」
ジェノアはラミーの身体に寄り掛かりながら、息絶えた。ラミーはそっ
とジェノアの頬に手をやる。ひとしずくの涙がポタリと落ち、ジェノア
の頬を伝って流れ落ちた。
「あんたら、ざけんじゃないよ」
ラミーは顔を上げる。怒りに満ちた顔を。
マース13区ミステール街。高層マンションが立ち並ぶ壮観な街。そ
の一角が突如爆発炎上した。その炎は街全体に広がり、やがて13区の
大半を焼き尽くす。ビルディングは崩れ落ち、ひとびとは逃げ惑い、赤
い砂が荒れ狂う。
「ルシファーだ。ルシファーが破壊と殺戮をもたらすために、やって
きたのだ」
13区はまる一日燃えつづけ、そして壊滅した。
崩壊した赤い大地に、サーモンピンクの花弁を持つイミュル草が日に
照らされ輝いていた。
「ラミー」
エミリーが、イミュル草の前に座り込むラミーに声をかけた。
「ラミー、わたしたちはね、一般人類のなかには入れないのよ」
「わかってるわ、そんなこと」
ラミーはゆっくり立ち上がると、エミリーに振り向いた。そして、笑
顔を見せる。
「あたりまえの事、言わないでよ。あたしたちはsapaコア部隊な
のよ。ひとびとに恐れられた、ヴィーナスレノアの魔女」
「ラミー、あなた・・・」
「さぁ、帰ろう」
ラミーはホバーに飛び乗る。そのあとを、ラジアンがふらふらついて
いく。イオンエンジンの独特の音をたてて、ホバーは上昇した。
ヴィーナスレノアの魔女。ラミー・クライムは、マースを離れ再びテ
ラの別荘へ帰る。そして、また任務が下されれば出ていくのだ。恐怖と
殺戮の世界へ。
− 魔 女 の 微 熱 − おわり
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