AWC 魔女の微熱 ー3ー  作 うさぎ猫


        
#2268/5495 長編
★タイトル (CWJ     )  93/ 8/ 4  12:46  (177)
魔女の微熱 ー3ー  作 うさぎ猫
★内容
 sapaシリーズ1

 ラジアンは、ぶるぶる震えていた。震えながら、上目づかいに2人を
ゆっくり見上げる。
 「あんたが付いていて、なにをやってたの?」
 エミリー・ファラが、やさしい表情でラジアンに聞く。ちょっと高め
の身長に着物を羽織り、日傘をさしている。
 しかし、ラジアンは知っている。エミリー・ファラはファラルより恐
い女性なのだという事を。
 「ラジアンちゃん、しっかりしてくれないと困るよ」
 クリス・ターナだ。エミリーとは正反対で、ピンクのリボンにフラワー
スカートという、かわいらしい格好。
 「しっかりしないと、クリス怒るからネ」
 そのクリスの言葉に、ラジアンはガタガタと足を震わせる。黒い殺人
鬼とまでいわれたブラックキャットは青ざめる。
 「わかってるでしょ」
 と、エミリー。
 「任せてくれ。俺が絶対ラミーを探し出すから」
 ラジアンは必死に言う。とにかくラミーを探し出さなければ、命がな
い。ラジアンたち猫族は無限の命を持つといわれているが、そんなこと
ヴィーナスレノアの魔女と呼ばれるエミリーやクリスに、通じるはずが
ないのだ。
 「任せてくれ」
 ラジアンは震える口で、もう一度言った。

 白い壁の部屋。酸性雨が染みだした部屋のあちらこちらには、色が剥
げ変色し、ひび割れまでおこしている。
 「どこ・・・ ここは・・・」
 ラミーはパイプベットからゆっくり起き上がる。
 「うっ!」
 左肩に激痛が走った。右手で押さえる。
 「包帯?」
 左肩があらわにむき出していて、そこに白い布が巻かれていた。随分
古風な治療法だと、ラミーは微笑んだ。
 「元気になったかな」
 奥からひとりの青年が現れた。
 「あなたが助けてくれたの?」
 「13区の中央公園の近くに倒れていたから、救急車を呼ぼうかと思っ
たんだけど家に連れてきたほうが速いから」
 「そう、ありがとう」
 「昔、外科医をやっていたんだ。それで簡単な手術を・・・ でも、
いったい何があったんだい。君のような娘から、ライフルの弾が出てく
るなんて」
 ラミー、ちょっと考えるふりをして。
 「お医者様だったの? マースでやっていたの?」
 「いや、昔の話しさ」
 「いまは?」
 「 ・・・政治秘書。まあ、肩書きの割りには大した事やってないけ
どね。君は?」
 ラミー、再び考えて。
 「ガードマンよ」
 「えっ、そうなの? そんなふうには見えないなぁ」
 「ええ、でももう免職ね。ライフル強盗逃がしちゃったから」
 「そうか、それで犯人に撃たれたんだね。でも、こんな事言うと怒る
かもしれないけど、君にそんな危険な仕事は向かないよ。止めたほうが
いい」
 「あら、あたしの事何も知らないくせに」
 「そうだね。あぁ、そういえば君の名前まだ聞いてなかったな」
 「そういう事は男のほうから名乗るのがエチケットよ」
 「ああ、ごめん」
 頭をかきながら、たびたび誤る姿を見てラミーはクスッと笑った。
 「なんか、おかしかったかな」
 「ううん、違う。楽しい人ね」
 「ジェノア・カーマイン」
 「ん?」
 「僕の名前さ。君の名は?」
 「ラミー・クライムよ」
 「ラミーか。いい名だね」
 「そう? ありがとう」
 ジェノアはにこにこしながら、テーブルに放り投げてあったバックを
手に取る。
 「ちょっと出かけなくちゃいけない。ゆっくりしててよ。今日は泊まっ
ていくといい」
 「どこへ?」
 「ちょっとした会議さ。これでも政治秘書だから、けっこう忙しいん
だ。夕方には戻るよ」
 ジェノアはそういうと、時間を気にしながら部屋を出ていった。ラミー
はベットからそっと降りると、左肩を気にしながら部屋を見回す。安っ
ぽいテーブルや戸棚。キッチンは、もう長いこと使ってないのか、マー
スの赤い砂がすみの方にうずくまっている。
 「いくらマースの政治秘書でも、随分ひどい生活をしているなぁ」
 ラミーは、ジェノアが言ったことがウソだとわかっていた。もっとも
自分もウソをついたのだから、ジェノアのことを批難できない。
 でも・・・
 と、ラミーは思う。
 「なんでウソを言ったのだろう。一般の人間が、ただの小娘にしか見
えないあたしにウソをつく理由はなんだろう」

 それは真っ赤な血の大洪水だった。
 「ねぇ、ちゃんとクリスにおしえてョ」
 クリス・ターナは露天商街で、ラミーを襲ったらしい男のひとりを捕
まえて聞く。
 「知らないんだ。本当に知らないんだよ」
 「そうなの? 残念だなぁ」
 「うぎゃー!!」
 男はクリスの前で破裂した。内臓が血しぶきとともに吹き出す。クリ
スの愛らしい身体はべったりと返り血で染まっていた。
 「ねえ、ラミー姉様のこと知ってる人はいないの?」
 皆、逃げ出し、逃げ遅れたものは殺され、誰もいなくなった赤い砂の
舞う露天商街で、美少女クリスはいらつきながら叫んだ。
 「ラジアンちゃん!」
 クリスのやり方をぼーぜんと見ていたラジアンは、名を呼ばれピクリ
と反応した。
 「は、はい!」
 「エミリー姉様は他の事件があるからって、非番のクリスにお仕事さ
せるなんてあんまりじゃない?」
 「そ、そうだね。クリスかわいそうだよね」
 「そうよ。かわいそうョ。うぅ・・・、クリス泣きたいわ!」
 叫ぶクリス。その声とともに、立ち並ぶ露天商は大爆発を起こす。ラ
ジアンは腰が抜けたように、その場にへたり込んだ。

 ジェノアは自分の部屋から、食欲を誘う香りが立ちこめているのを感
じて、あわてて飛び込んだ。キッチンの前にラミーが立っていて、料理
を作っている。
 「いったい、どうしたんだ?」
 「おかえりなさーい。早かったのね」
 「ラミー、どうしたの?」
 「おせっかいだとは思ったんだけど・・・ まだでしょ、晩御飯」
 そういって玄関口にたたずむジェノアを見て、ラミーは目を丸くした。
 「わー、きれい」
 ジェノアは大きな花束を持っていた。サーモンピンクに輝く大きな花
弁を持つイミュル草。
 「あぁ、花屋で見つけてね。マースじゃなかなか手に入らないものら
しい。花屋のおやじがこれを扱っているのはうちだけだと、自慢してた」
 「高かったでしょ?」
 「いや、君に似合う花だと思ったから」
 「あたしに? あたしの為に・・・」
 「気にしないでよ。これでも政治秘書なんだから、お金はあるんだ」
 ラミーは胸が熱くなるのを感じた。本当は政治秘書なんてウソだとわ
かっている。しかし、ジェノアは無理をしてくれた。自分のために。
 「やぁ、おいしそうだな」
 「すぐ出来るから、椅子にかけていて」
 ジェノアは花瓶にイミュル草を移すと、テーブルの中央に飾った。質
素な部屋がイミュル草の輝きで明るくなる。
 「手伝おうか?」
 「いいの。ジェノアは掛けていて。おいしい料理が出来るから」
 「しかし、君が料理なんて出来ると思わなかったな」
 「あら、失礼ね」
 「いや、ごめん。最近は料理なんて出来る女性少なくなっちゃったか
ら、きっとご両親の教育が良かったんだね」
うが、ジェノアは両親の愛情の中で育ったのだ。
 「両親に教わったわけじゃないわ」
 「?」
 「父も母も、あたしが幼い頃死んじゃった」
 そのあとの言葉を、ラミーは飲み込んだ。飛行機事故という言葉を。
 「そうか、すまないイヤな事思い出させたね」
 「あなたは? ご両親おられるの」
 「たぶんね。まだ生きていると思う。僕は家出したんだよ、だから、
両親が今どこにいるのかわからない」
 「そう、似たようなものね」
 「そうだよ。別に親なんかいなくても子は育つのさ」
 ラミーはクスクス笑った。なんとなく、心が暖かかった。

 「赤い星の代表者の名前がわかったの」
 ホバーのモニターを通して、ファラル・ケイムが言った。クリスはふ
てくされた顔をしてそれを聞く。
 「代表者の名はバイアー・リーノ。今はマース市立病院にいるわ」
 「そいつを吐かせよう」
 ラジアンはモニターに向かって言う。
 「そうね。でも彼の身柄は連邦警察が拘束している。手続きに時間が
かかるわ」
 「そんなもの、sapa特権でなんとかなるじゃんか」
 「バイアーを捕まえて吐かせるのも手だけど、実際に宮殿破壊を行っ
た者を捕まえるほうが簡単そうよ」
 「誰なのさ」
 「バイアーがかわいがっていたリーダー格の男がいるの。ジェノア・
カーマイン。13区のミステール街、12−3のマンションよ」
 ラジアンはホバーのイオンエンジンを稼動させた。クリスもラジアン
のとなりに飛び乗る。
 ホバーは、ただの荒れ地と化した露天商街の砂を巻き散らして上昇し
する。一気に飛び上がったあと、垂直航行。高速で飛ぶ。
 「もうすぐラミー姉様に再開できるのね」
 ホバーは、酸性雨が降り始めたマースの市街地へ疾走していった。



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