#2222/5495 長編
★タイトル (CWJ ) 93/ 7/13 13:52 (144)
NAVY CRISIS −5− 作 うさぎ猫
★内容
ネイビークライシス
黒塗りベンツが林道を疾走していく。
前を走る車がわざわざ道をあけてくれる。実に爽快。
「飛ばせー!」
お嬢が後部座席から叫ぶ。
「あいよー!」
それに答える銀次。
こいつら皆、ぼーそー族だ。ジエイタイ暴走族。
前の車をドンドン抜き去り、時速は200キロに届こうかとしてい
銀次は目をギンギンに輝かせている。
お嬢は目をランランに輝かせている。
俺は・・・ なんかどうでもよくなった。
だいたい、ベンツという車はのんびり走るためのものじゃぁない
のか。200キロだぁ、なんなんだこいつらは。
前をトロトロ走る車。真っ赤なポルシェ950。
「おら、どけ!」
銀次はおもいっきりクラクションを鳴らす。
暴走族を通り越し、ほとんどヤクザだ。
「じゃかましい」
前のポルシェから怒鳴り声。
ひょとしてマズイんじゃないか?
「なんだとぉ、コラ」
銀次がポルシェに怒鳴る。
「やっちゃえー!」
お嬢が後部座席からけしかける。
銀次はベンツをポルシェの脇へ滑り込ませ、ピタリと横に並んだ。
ポルシェにはリーゼント頭のバリバリ兄チャンが乗っていた。
「おとなしくどけばいいんだょ」
銀次も目が釣り上がり、ヤクザ顔になっていた。
「うるせえ、実力で抜いてみやがれ」
ポルシェ兄チャンもまけてない。
夜中の林道で凄まじいカーチェイス。
しかし、いいんだろうか。仮にも国家公務員だぞ。
「兵隊なめんじゃねえぞ!」
銀次は叫んでアクセルを踏み込んだ。ギアはトップだ。
ヘイタイ・・・ そうゆう論理ね。
突然、ポルシェがすべる。
ポルシェ兄チャンは真っ青になってハンドルを切った。
銀次そのまま、漆黒のベンツでポルシェを抜き去る。
「おぼえてやがれ!」
後ろに下がったポルシェから罵声が聞こえた。
「フン、勝ったゾ」
銀次はニコニコしている。上機嫌だ。
「やったね、ギンちゃんエライ!」
無責任に後部座席ではしゃぐお嬢。
そのとき、上空で爆音が轟いた。
「おっ、戦闘機だ」
銀次が空を見上げて言った。
空母艦載機のトムキャトだ。米海軍最強のジェット戦闘機。
「こんな時間に飛んでんのか?」
俺はびっくりした。
騒音問題で、深夜は飛ばないはずなのだが。
「ギンちゃん追っかけよう」
お嬢がはしゃぐ。
「よっしぁ!」
銀次はトムキャトの後を追う。
そういえば昔、そんな映画があったな。主人公がバイクで戦闘機
と追いかけっこする話。
トムキャットは岩国基地へ向かってとんでゆく。
「なんでこんな時間に飛んでんだろ」
上機嫌な銀次に聞く。
「そんな事知らないよん」
銀次には興味のない話しらしい。
「きゃー、ギンちゃんもっと飛ばして!」
お嬢の頭も飛んでいるようだった。
マンションへ帰ったのは3時をまわっていた。
フラフラする頭を押さえながら、テーブルの前に座る。
タバコに火をつけた。
おもむろにパソコンを稼動させて、ネットにアクセスした。
さすがにこの時間帯だと一発でかかる。
モデムのアクセスランプが光った。
−−−−−− Welcome To tanuki-net −−−−−−
ネットに入るや否や”ピッ”という音とともにメールの着信を知ら
せてきた。
そのままメールボックスを覗きにいった。
メールは多一郎からだった。UNIX世界の天才SE。
たしか、俺と同い年だったはずだ。
オフ会で何度か会っているが、学者風の知的な男だった。
<あなたからのメールをいただきました・・・
ウイルスの件を多一郎にきいたのだが、早くも返事がきている。
・・・ウイルスの件についてのお問い合わせですが、あなたに詳
しくお教えすることは出来ません。なぜならば、そのウイルスを制
作したのは私ですから>
なに?
ウイルスを作ったのは多一郎。
なに、バカな事言ってやがる。
米軍や海上自衛隊のコンピュータセキリュティをしろうとが突破で
きるもんか。
<もし、よろしければ明日、喫茶店らふぇーるでお会いしましょ
う。時間をご指定ください>
俺は唖然とした。本当の話しなのだろうか。
とにかく多一郎と会おう。会って問い詰めてやる。
俺は多一郎にメールを出す。
しろうととはいっても、多一郎は天才といわれたシステムエンジ
ニアだ。どこかで、軍事関係の機器の資料を手にいれたかもしれな
い。
俺はワークステーションを稼動させる。
イーサーネットにつなぎ、ネットワークに飛び込む。
世界中の情報が、リアルタイムにX−WINDOW上に表示されて
いく。
明日、多一郎と会うまえにコンピュータウイルスについての情報
を仕入れておこうと思ったのだ。
いくつかの情報を適当に見繕ってプリントアウトする。
「たいへんそうね」
声が聞こえた。
「!?」
俺はびっくりして後ろを振り向く。
そこには、14才くらいの少女がいた。
透けるような白い肌に腰まである長い黒髪。
それを大きな赤いリボンで後ろに縛ってある。
少し大人びた表情とは反対に、まだ幼い胸がふっくらと張っていた。
美少女。
そんな言葉がぴったりあてはまる子だ。
「誰だ!」
俺は怒鳴るような感じに言った。
あたりまえだ、いくら子供とはいえ、いきなり人の部屋に入ってく
れば怒る。
「どこから入ってきた」
部屋のドアも窓も閉まっている。地上6階の部屋にどうやって入っ
たんだ。
少女はちょこんと首を傾げる。
「君の名前は?」
俺の問いに、少女はニコッと笑顔を見せた。
「ゆき子」
少女のちいさな口が動く。
「わたしたちの友達になって。そして、一緒に戦って」
何を言ってるんだこの子は。
「あした、お兄様のお話しを聞いてよく考えてみて」
美少女ゆき子はそう言うと消えた。
本当に消えたのだ。霧のような煙のような、ふぁっとした感じに消
えていった。
何が起こったのかわからずしばらく唖然としていたが、急に恐く
なってブルブル震えた。
外は雨が降りはじめた。
雷が近くに落ちたようだが、俺はゆき子の恐怖におびえるばかりだっ
た。
−6−へ・・・