#2220/5495 長編
★タイトル (CWJ ) 93/ 7/13 13:44 (146)
NAVY CRISIS −3− 作 うさぎ猫
★内容
ネイビークライシス
世界最強の軍隊、アメリカ海軍。
国防総省・海軍省に所属。傘下に航空部隊や陸上部隊をかかえ、世
界中に軍人を派遣している。名実ともに世界の警察である。
その超組織のフリゲート艦が、今、爆発音とともに燃えている。
コバルトブルーの海は、鏡のように赤い炎を照り返す。
「艦長!!」
俺はゆれる内火艇の上に立ち尽くしたまま叫んだ。
「きくかぜへ応急隊の編成をさせろ、わたしと機関長は艦へ移る」
内火艇の艇長はハンドレシーバーで、艦長にいわれたとおりきく
かぜへ報告する。
連絡波のローVHFに乗って、了解したとの応答。
「機関長、自分も行かせてください」
俺は米艦に移ろうとする機関長に言った。機関長はゆっくり首を縦
に振った。
艦内はパニックだった。
OBAと呼ばれる防火服を着た兵士たちは、手に消火ホースを持って
はいるものの混乱している。
「こんなんじゃダメだ」
艦長は艦橋へ走る。おそらく艦橋もパニック状態なのだろう。
まともな指揮が出来ないでいるのだ。
「堤士長、操縦室へいくぞ」
俺は機関長と一緒に操縦室へ。
軍艦というのは、防火関係の指揮は操縦室内にまとめられている。
防火要員の大半は機関科員が兼任するためだ。
「With You?」
機関長はそういって操縦室に飛び込んだ。
操縦室には2人の若い兵士がおろおろしているだけだった。
「ほかの人間はどうしたんだ」
俺は監視盤にとりつき、艦内の被害状況をチェックする。
とにかくやるしかない。このままじゃ、兵隊の丸焼けが出来る。
こんなもの激安スーパーでも売れねえぞ。
「なんだこれ」
俺は機関室内に動いている機器を見つけた。
「こりゃ、燃料ポンプだ。」
必死になって火を消しているはしから、その火に向かって燃料を
送っているのだ。これじゃ消えるはずない。
「機関長、燃料ポンプ稼動中!」
「なに!?」
「ですから、燃料ポンプが動いたままなんです!」
「すぐに止めろ!!」
しかし遅かった。
機関長がそういったとき、機関室から爆音が轟いた。
どうやら狂った炎は、航空機用の燃料タンクに引火したようだ。
「ここの責任者はどうしたんだ!」
機関長はやりきれない怒りに、居残りの若い兵士を捕まえて怒鳴っ
た。
怒鳴ってももう遅い。
機関室の消火活動にあたっていた若い兵士は皆ふっとんでいる。
そんな時、ようやくきくかぜから応急隊が乗り込んできた。
「あとは任せろや」
0BAを着たひとりが、俺の耳元でいった。
そしてブイサイン。
「銀次!」
応急隊の中に酒田銀次がまざっている。
銀次はホイホイと軽くステップでも踏むような感じで炎の中へ潜っ
ていった。
「堤士長、つづけてモニターしておいてくれ」
機関長はそう言うと、操縦室から出ていった。
おそらく、機関室の状態を見にいったのだろう。
気がつくと、あの2人の若い兵士もいない。
いったいどうなってんだこの艦は。
俺はしかたなくだれもいなくなった操縦室で、応急監視盤をチェッ
クする。火は少しづつ鎮火してるようだ。
あらためて室内を見回す。随分ちらかってんな。
「?」
俺は水質計のそばに、無造作に放り出されたフロッピーディスクを
見つけた。
3.5インチ。ワープロかなにかのデータかな。
何気なしに手に取る。
「堤士長、手伝ってくれ」
機関長が負傷者を抱えている。全身大やけどだ。
「きくかぜの医務室へ運ぶ」
俺は慌てて席をたった。
ハワイ駐留軍の助けもあって、火はなんとか消した。
しかし、艦は再起不能。
ドックに入って機器をすべて入れ替える事になるだろう。
俺たちはというと、今度こそ本当に呉へ帰る。
今回の事で皆、疲れ果てている。
これで母港へ帰らないなんていったら暴動が起こるぞッて、まぁ、
本当に暴動起こすかどうか知らないが、それだけ皆バテているのだ。
俺はズボンのポケットに入っていたフロッピーを取り出した。
別に盗んでしまったわけではない。
慌てて、自分でも意識なくポケット入れてしまったのだ。
「そういうの窃盗っていうんだぜ」
銀次のヤツは、のほほんとした顔でいった。
うるさい、俺はドロボーじゃない。
たまたま、ポケットに入っていたんだ。
俺は悪くない。
でも、せっかくだからと、俺は機関科事務室のワークステーショ
ンで解析してみた。
結果、バイナリーファイルである事がわかった。
つまり、ワープロの文章じゃないのだ。
「じゃぁ、なんだよ」
あれこれやるうちに幾つかの事がわかった。
1,OSはワークステーションなどで使われているUNIXであ
るということ。
2,ファイルがひとつしかない。つまり簡単なユーティリティで
あるということ。
「うーん、興味そそられるね」
俺はもともとBBSなどのフリーソフトを集めるのが好きだ。
それがきっかけで、ある有名なSEとも知り合いだったりする。
「なぁ、五郎。もう少し詳しく解析してみようぜ」
銀次もこんな顔してコンピュータが好きなのだ。
もっとも自衛隊にかぎらずエンジニアという人種はパソコンおたく
が多い。
事務室のWSから艦中央のサーバを呼び出す。
ついでにMCSともつなぐ。
ワークステーションのX−WINDOWにデータのリンク状態や、
アセンブルデータが映しだされる。
「なんか変なプログラムだなぁ」
そんなとき、プログラムの一部がいきなり書き変わった。
俺だって、そんなバカな事信じなかった。
コンピュータが故障したんじゃないかと焦ったくらいだ。
「銀次、なんだか変だぜコイツ」
銀次がのほほんとX−WINDOWを覗きこんだ時、艦のスピード
が上がった。
事務室のすぐとなりにある操縦室から悲鳴があがった。
「なんだぁ!!」
俺は慌てて操縦室に飛び込む。
操縦室内のパネルはぐちゃぐちゃな数字の羅列。
エンジンの回転数は限界を越えていた。
「MCSの制御不可能!」
スロットルについていた山田海曹が泣きそうな顔で訴えている。
「MCSを切れ! エンジン手動に切り替え!!」
機関長が怒鳴る。
艦橋から何があったのかと聞いてくる。
機関室から手動切り替え不可能と悲鳴。
「すべて機側だ。機関室でエンジン調整しろ! MCSの電源を落
とせ」
俺は何が起こったのかわからず、ただ唖然として立ち尽くす。
「まさか・・・」
俺は再び事務室に飛び込む。
ワークステーションのX−WINDOWに表示されていたプログラ
ムデータはすべて書き変わっていた。
それは、MCSのS−RAMデータだ。
俺はワークステーションを強制終了させる。
艦のスピードが落ちた。
−4−へ・・・