#2186/5495 長編
★タイトル (LDJ ) 93/ 6/29 6:59 (109)
童話『まるがおのりゅう』その4 おうしゅんほう
★内容
「逆麟(げきりん)」というのは龍の喉にただ一枚だけさかさまに生えている
「うろこ」の事。ここに触れたならばどんな大人しい龍でも怒り狂いだすとい
うタブーの場所です。
今さらながら古代の伝説創作家の小道具立ての妙に舌を巻きます。
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「ろんろん」がそらへかえっていった日のことをわすれはしない。
その年はぜんぜんあめがふらない年だった。
もう梅雨だというのに、たんぼはからからで、羊や牛はたべる草がなく空をみあげ
ては、かなしそうにないていた。まちではみんながあたまをかかえて、「りゅう」
のかみさまにお祈りしなくちゃって話してた。
えらいおぼうさまがきてうらなったら、これは空のわるい「りゅう」が人間をこま
らそうとしているんだという。みんなはかたほうで「りゅう」のかみさまにお祈り
しながら、かたほうで「りゅう」のわるぐちをいった。
「りゅう」はいいどうぶつなんだろうか、わるいどうぶつなんだろうか。
ザーサイのおじちゃんは白い「りゅう」でも黒い「りゅう」でも、雨をふらして
くれるのはいい「りゅう」だっておしえてくれたけれど、じゃあ青い「りゅう」
の「ろんろん」はいったいどっちなのかな?
ぼくがたずねてもやっぱし「ろんろん」はみーみーなくだけだ。
「りゅう」ってほんとうはどんなこえでなくんだろう。だれか「りゅう」のなき
ごえをきいたことがあるかい?
ひでりがつづいて、とうとう子供たちのなんにんかは遠い町へはたらきにいく
ことになった、そのなかにはメイチェンのお姉さんもいた。
たったひとりのお姉さんと別れる時、メイチェンはふしぎなことにすこしも涙を
流さなかった。それで、みんながメイチェンのことを「じょうのうすい」こだと
うわさした。ぼくはそれがどういうことなのかよくわからないけれどみんなのく
ちぶりだとあまりいい意味ではないみたいだ。
でも、あとでチンフォンのおばちゃんとおかあさんが、夜、ないしょ話をしてる
のをぼくはきいたんだ。
びょうきのおとうさんがいるメイチェンの家ではだれかがしっかりしなければ
いけない。メイチェンはお姉さんがいなくなったのでこんどは自分がしっかりし
なければいけないと思った。だから泣かなかったんだって。
メイチェンはほんとうにおとなだった。
ふたりはそれからこんなことも言った。このままひでりがつづくようならメイチェ
ンもいつかは町へいかなければならないだろう、あんないいこなのに、なんてかわ
いそうなんだろうって。
ぼくはもうそれ以上話しを聞くことができなかった。
それをきいた時ぼくはなぜだかメイチェンがもう帰ってこないような気がしたから
。メイチェンはポーのおにいちゃんとちがって町へいってしまえばもう帰ってこれ
ないと思ったんだ。
ぼくは「ろんろん」に雨をふらしてくれってたのんだ。たとえ「りゅう」でも、い
つもみーみーなくだけのこの子にそんなことができるとはとても思えなかったけど
そうせずにおれなかった。
その日の夜、ぼくはゆめを見た。
知らない男の子があらわれて、ぼくにこう言った。
自分の手のとどかないところに金色の髪の毛が1本ある。それを抜いてほしい、
そうすれば君の願いごとをかなえてあげれるかもしれないって。ぼくはその子の
髪の中からいちばんきれいな金色に光る1本の毛を抜いてあげた。
男の子はありがとう、でもこれでもうみんなと遊ぶことはできないねって寂しそう
につぶやいてから消えた。
そしてその明けがたのことだった。
だれもがはじめて見るようなものすごい「いなびかり」が空でなんどもひかった。
あたりは昼間のようにあかるくなって黒い雲がまるで煮えたぎった釜のように
渦をまいているのが見えた。
なにかがふたつはげしくぶつかりあうような音がすると雲のすきまから大きな
ながい胴体が身をくねらせているのが見えた、そしてふたつの胴体のうちひと
つが青い「りゅう」であることにまちがいはなかった。
雲のなかでいったいどんなことがおきているのかはわからない。けれど最後に
大きな動物の鳴く声がしたかと思うとやがて「いなびかり」が止み、朝となる
頃雨がふりだした。
雨はそれから三日間ふりつづけた。池には魚がもどり、たんぼには青い芽がめばえ
牛や羊はみるみる肥えだした。
きっとあれが「ろんろん」だったんだろうとこどもたちは信じた。雨が上がり、
空にきれいな虹が出てようやく表へ出れるようになった時、いつも「ろんろん」
と遊んでいたこどもたちは丘に駆け上がった。
虹の彼方に誰もがいまや立派な「龍」となった「ろんろん」をそこに見た。
おかしなことはあのポーちゃんも、見えなくなったといったメイチェンでさえも
さいごに「龍」がみえたことだ。
「龍」の「ろんろん」はみんなの見守る中を空へと消えていった。
けれどぼくは信じている。「まるがおのりゅう」はきっとまたいつかぼくのと
ころへ帰ってくると..。
『まるがおのりゅう』おわり
旺春峰
お素末でしたあ(^。^;