#2178/5495 長編
★タイトル (ZBF ) 93/ 6/20 19: 4 (180)
「県政転覆」3 久作
★内容
「県政転覆」3−鬼畜探偵・伊井暇幻シリーズ− 久作
●混乱(山本美貴)
最近、新聞、テレビが賑やか。なんでも地方拠点都市発展法の地域指定を県内六
市にバラまく構想を知事が明らかにしたんだって。物流センターとか美術館とかを
ポコポコおっ建てるってことらしいんだけど、よく解んない。でもねぇ、マスコミ
ってこんなものまで抜いた抜かれたって騒いでるけど、こんな行政や与党の宣伝ま
で競い合うことないじゃない。馬鹿みたい。そりゃ土建屋さん達には朗報だけど、
重い産業の活性化が経済全体に与える影響は段々小さくなってんだからねぇ。こん
なの業界紙ででも報道したらイイのよ。しかも何? 国の補助が優先的に下りてく
るって言っても結局半額は地元もち。借金で首が回らない自治体を増やす気かしら。
それでなくても三割自治どころか一割自治の町村が多いってのにねぇ。野党は反対
してるけど、これも変ねぇ。いつもは「福祉施設を建てろ」とか財政を無視した要
求をするのに今回は「無駄だ」なんて言ってるものね。結局、政治家なんて、場当
たりな罰当たりなのよね。でも私も反対。こんな田舎に六つも拠点都市を作って、
どぉする気かしら。大きな投資をして食い合ってりゃ、世話はないわ。そりゃ施設
は実際に建つんだからバラ色の未来像をタレ流したくなるのは解るけど、ハシャギ
過ぎなんじゃない。確かに仏を作らなきゃ話にはならないけど、魂は入るのかしら。
建てっぱなしで、維持に精一杯だったら建てない方がマシ。
でも面白いよね。政治の混乱って。破綻させる程の度胸はないクセにウチャウチャ
老人たちがドタバタを繰り広げるんだから。世論なんて、どこ吹く風。勝手党も連
日、会合を開いてるみたいだし、どうせ総選挙の票集めのアドバルーンだろうけど、
もっと考えて上げてよね。老人たちはすぐ死ぬからイイだろうけど、抱えた借金を
払うのはアタシたちなんだから。……ってアタシは余り税金払ってないけど。老後
も心配だしねぇ。年金制度は倒産寸前なんでしょ。企業なら経営陣はとっくに退陣
よ。あぁあ、この前、産婦人科に行ったら、碌に診もしないで「あなたは子供の産
めない体です」って言いやがるしねぇ。はぁあ、「Getting better
all the time」ってビートルズは歌ってるのにねぇ。
……こんな時は、やっぱりオナニーよね。えぇと、昨日買ったバイブの「強蔵く
ん」は何処に仕舞ったかしら。小林君が遊びに来たから隠したんだけど……。
●進展(小林純)
「ごめん下さい 伊井先生は おられますかな」目つきの悪い爺さんだなぁ。
「はい えと ご用件は」
「私は こういう者です お取り次ぎを」名刺には伊予県警保局特別高等警察課
長 警視 岩本貢、と書いてある。警察? 先生、何かやったのかな。何がバレた
のかな。
「え えと お上がり下さい」とにかく応接室に通して先生の部屋に急ぐ。
「先生 警察ですっ 逃げてください 早く」小声で知らせて、窓の外を警戒す
る。警官らしき姿は見えない。先生も飛び上がって、慌ててルガーP08を鞄に突
っ込むと窓を開け、飛び出そうとする。と、ドアが開いて、
「若 何をしてらっしゃるのです」さっきの五十男がムッスリと突っ立てる。あ
あ、もぉ終わりだぁ。え? 若? 馬鹿?
「ひいっ あん なぁんだジイか 脅かすなよぉ」先生は途端に寛いで、
「あ おほん 小林君 コーヒーを お持ちしなさい」
「どぉぞ」応接室に向き合う二人の前にコーヒー碗を置く。僕は隣の部屋に戻っ
て、美貴さんと聞き耳を建てる。今日の美貴さん、ちょっと栗の花の香りがするみ
たい。昼間っから男と遊んでたのかなぁ。僕はわけもなく、ムッとしちゃう。
「若 実は困ったことになりまして…… 極秘事項なのですが」
「ほぉ どしたん 一体」二人とも極秘事項の割にデカイ声。それでなくても、
三文普請なんだから、筒抜けだよ。でも、一体、「若」って……。
「いえ 局長がある特殊班を極秘裏に創設したのです コード名は m−12」
「あん? なんだ そりゃ」
「通称名 マゾヒスティック・トウェルブ」爺さんの芝居がかった重々しい声が
響く。どう考えても、極秘の話し合いには思えない。
「そして任務は 第一に局長宅の警備 第二が…… 若の抹殺」
「ほぇぇ ジイ なんで 俺が警察に抹殺されんといかんの」
「解りません それにm−12に集められた警官というのが別段 優秀というわけ
でもなく 共通点がないのです ただ一点を除いて」ジイって呼ばれる人は何
故みんな、こんな考え深そうな声を出すんだろう。
「へ 共通点?」
「皆 その えぇと ロリコンでホモでマゾなのです」
「ふぅん 警察って男臭いし徹底して服従の世界だから マゾでホモは解るが
ロリコンまで兼ね備え 三重苦とはねぇ」
「うおっほん そんな悠長なことを言っている場合ではありません
一人一人は馬鹿でも組織としての情報収集力と暴力行使は絶大なのです」ジイ
人種特有の不機嫌そうな声。
「そりゃま そぉだけどさぁ ふぅむ ターキーの奴 県警まで……」
「ターキー? 何者ですかな」
「あぁ あらゆる変態を一身に引き受けたマルチ変態 いや歩く変態総本山」
「なんとっ 若をして そこまで言わしめるとは
まさしく変態の中の変態でありましょう んがあっ」パッコーンと小気味いい
音がした。
「誰が変態なんだよぉ ったく ジイは昔から俺のことケナしてばっかり」
「愛 あればこそでございます」
「うわっとっと 手を握り締めるな 俺はフケ専じゃねぇっ」
「それより そのターキーが何と」
「ああ そいつ アナキストの愉快犯ってぇか 何かと社会の混乱を喜ぶ奴でさ
多分 そいつが局長を手なずけて 勝手なことをしているに違いない
m−12の奴らも局長宅の警備って ターキーのオモチャになってるんだろうさ
ロリコンってことは今は美少年にでも化けてんだな」
「手なずける? 一体 どのような手で」
「いやぁ あいつの変態テクニックってのは凄まじくてさ そうさなぁ
人の心を無理やりこじ開け 奥に潜む部分を意識の上に引っ張り出すってぇか
多分 局長もレイプされて……」
「あのキャリアの シロウルリを」
「しろうるり?」
「えぇ 色白で のっぺりしてて 何考えてるか解らない目をしてて……」
「あ それ危ないよ 絶対に危ない そういうのが一番のカモ」
「それでいて どこかソソルよぉな」
「あん? ま まあ ジイは その線で証拠固めしてくれ m−12だろうが
M−78だろうが大丈夫だと思うが もしもの時の逆転材料のためにな」
「お安い御用で」
「えっと 局長が美少年に犯られてる写真かビデオも撮っとけよ
後でユスリのネタに ひっひっひ」
「くっくっく 若も お人が悪い」
「先生 先生って何者なんですか」爺さんが帰ってから、聞いてみた。
「あん? 何者か だって 俺は伊井暇幻だよん」
「ジイとか若とか言ってたじゃないですか」
「ああ そりゃ あいつがジイで 俺が若だからさ」
「答えになっとらん!」馬鹿なのか、人を馬鹿にしてるのか解らない。
「あぁ 面倒臭ぇなぁ あのな 俺は……」と、その時、ヤクザみたいに人相の
悪いムサムサの男たちがドアを蹴破って乱入してきた。
「伊井暇幻 銃刀法違反 内乱罪 強姦罪 もろもろの容疑で逮捕する
おまけに破壊防止法違反もつけておいてやったぞ」
「あぁん さっそく来やがったのか
悪いが道交違反か名誉棄損に負けといてくれ」先生はノンビリした口調で言う
とバッと身を翻し奥の部屋に駆け込みながら、
「山本 持ちこたえろ 小林 来いっ」僕は始めての活劇にワクワクしながら、
「はいっ 先生っ」やっぱり探偵は、こうでなくっちゃ。男たちがドカドカ乱入
してくる。部屋に入る直前、振り返ると美貴さんが手前の応接室のドアに仁王立ち、
入って来ようとする“賊”と一人ずつ闘う構え。頑張って、美貴さん。扉を閉めた
途端、
「小林 脱げ」
「え こんな時に」躊躇らう僕に先生は襲い懸かってきて、
「つべこべ言うんじゃねぇ 減るもんじゃなし ほれほれ」
「あああ ヤだよぉ」体を丸めて逃げる僕を先生は乱暴に裸にする。隣の部屋か
らは怒号と立ち回りの音がドタンバタンと聞こえてくる。
「ほら これを着ろ」先生は皮の水着みたいなのを投げてよこした。
「えー 女王様みたい どうする積もり」シブシブノロノロと着てみる僕。でも
なんだか妙な気分になってきた。先生は胸に付いてるベルトをギュッと閉め、股の
所にバイブレーターをモッコリ入れて、
「うむ これなら 立派な女王様 いや 王子さまだ ほら これを使え」と、
鞭を一本、手渡してくる。受け取るか受け取らないかのうちにガバと扉が開く。
「伊井 観念しろ あの女は ふん縛った」すき間から美貴さんが手錠をかけら
れ二人の男に押さえつけられているのが見える。酷いっ、畜生、怒ったぞ。
「小林 鞭を使え」言われなくたって、そうするよ! ピシッと乾いた音を立て
鞭は男の肩に命中、男は痛みに顔を歪め憎々しい顔を向けてくる。
「小林 俺が台詞を囁くから 言う通りに喋ろよ」無言で頷く僕。
「ははは この犬どもめ」怒らせて、どうする積もりだ。でも取りあえず言って
みる。
「なっなにっ」目を剥く男。後ろからゾロゾロ殺気立った男たちが部屋へ踏み込
んで来る。もう、なるようになれ。
「犬には鞭が お似合いだよ」もぉ、変なことばっかり。
「そこで鞭」先生が囁く。えぇいっ。
「あおおっ」のけぞる男、なぜかジッと固唾を呑んで見守る男たち。
「ははは イイざまだよ そぉれそぉれ」あああ、恥ずかしい台詞だなぁ。照れ
隠しに鞭の力を強める。
「あうううっっ」身を丸める男、興奮した表情で見つめる男たち。
「犬め この犬めっ」はぁはぁ、なんだか興奮してくる。
「あああっっ もっとぉ」媚びる視線で見上げてくる男、自分の股間をズボンの
上から握り締める男たち。しごいてる奴もいる。とっても変な気分、自然と口から
言葉が湧いてくる。先生は、もう耳元で囁いていない。
「ふふふふふ みっともない犬め それ 跪いて足を お舐め」男は四つん這い
のまま慌てて近付いてきて僕が前に差し出した足の指をペチャペチャ舐め始める。
あああ、なんか興奮しちゃう。男たちがワラワラと近付いて来て跪く。
「あああ 俺にも 舐めさせてくれ」
「おっ ワシが先だ」
「なんだとおっ 巡査長のクセに 俺は巡査部長だぞ 上士だぞぉ」
「うるさい ワシの方が歳上だぞ」
「私に 鞭を な なにとぞ」
「あああ 僕を罰してください ご主人さまの熱い蝋燭で」
「はぁはぁ 黄金の聖水を 呑ませて 呑ませて」
「こっちにも鞭をぉ」
「あああ ご主人様の排泄物を ご褒美に」
「俺を 俺を激しく貫いてくれぇ」
「私にも お小水を かけてくれ」
「うううっっ 踏んでくれっっ 踏んでくれっ」
「おおおっっ 縛ってくれ ギリギリに縛ってくれぇ」
「ワシを汚い言葉で辱めてくれ」
「僕にブットイ浣腸で いっぱい注ぎ込んでくださいぃ」
「ああああっっ 針で刺してくれっ」
ほほほほほ、そうだよ、お前らは薄汚い犬さ。跪け、鳴け、悶えろ、のたうち回
れ、痙攣しろ。ははははは、ああ、鞭の響きが、こんなに小気味いいなんて、握り
締めた手に奴隷たちの肉体の感触が伝わってくる。降り下ろす度に、男たちがのけ
ぞり叫び、打ち震え、苦痛ともエクスタシーともとれる表情で転げ回る。こんなに
楽しいことがあるなんて。僕、人生、損しちゃってたなぁ。ははは、面白い、ほん
とに面白い。体の奥から絶え間なく哄笑が湧いてきて止まらない。さっきは重く感
じた鞭が、まるで自分の手のよう。ははは、面白い、ほんとに面白い。跪け、鳴け、
悶えろ、のたうち回れ、痙攣しろ。ははははははははは。
(つづく)