#2176/5495 長編
★タイトル (ZBF     )  93/ 6/20  18:56  (173)
「県政転覆」1   久作
★内容
        ★COUTION★
この作品は如何なる実在の人物・団体とも一切関係ありません。
また、伊井暇幻シリーズ本編Aに当たっていますので、題名に
惹かれて読もうとする方は注意して下さい。変態趣味のスケベ
ェ・ギャグです。予め御了承ください。同作品に対して不満を
持たれても通信、電話料金の払い戻しや賠償などには応じられ
ません。感想で書いて下さい。
「県政転覆」1−鬼畜探偵・伊井暇幻シリーズ−   久作
      ●公園の怪人(久作)
 「ぐっふっふ どぉだ 裸で首を鎖に繋がれ 引きずられる気分は
  お前は私の奴隷なのだ いや 犬だ 犬畜生なのだ」
 「…………」
 「なんだ その目は まだ自分の立場が解ってないようだな まぁイイ
  スグにヨォク思い知らせてやる くっくっく これが何だか解るか
  五百ccのグリセリン液だ これを お前の体の中に注ぎ込んでやるのだ」
 「あうぅぅっ」
 「どぉだ くっくっく そぉれ 泣け 喚け 犬のように そら 泣けっ」
 「きゃっ きゃいぃぃぃんっっ」
 「ぐっふっふ 大層 艶っぽく泣くじゃないか もっと泣け もっと泣くのだっ」
 「きゃいいいいいんんっっ」
 「先生 あの人 何してるんですか」
 「あん? 犬の散歩だろ」
 「で でも 犬が あんなに怯えて」
 「調教でもしてるんだろ 放っておけよ」
 「ああっ 浣腸なんかしてる 先生 あれでも調教ですか」
 「獣医さんなんだろ よくあることさ」
 「僕 止めて来ます 犬が可哀相です あんまりだっ」
 「やめろってば 他人様の幻に口出しするんじゃない」
 「でもっ 『公園で犬に糞をさせるな』って看板の真ん前で」
 「小林 王様が裸だって口走った男の末路を知ってるか」
 「え いえ 知りませんけど……」
 「八つ裂きにされ頚を撥ねられたんだ」
 「え そぉなんですか」
 「知らんが 普通なら そぉなる そんな馬鹿なことはしない方がイイ」
 「もぉ 嘘つきっ」
 午前二時、伊井暇幻と助手の小林少年は深夜のドライブと洒落込んで、郊外の、
とある公園に来ていた。あまりに部屋が暑いので、アオカンをしようと出てきたの
だ。伊井は黒い人影と犬とが繰り広げる秘劇を目の当たりにし、いつの間にか、怒
張していた。小林の肩に手を掛ける。人影は犬と絡み合い、転げ回っている。伊井
は、小林のうなじに唇を寄せる。人影はのけ反ったかと思うと、ビクンビクンと数
秒、身を震わせたかと思うと、ユックリと地に伏した。見つめる目が四つ。自由に
なった犬はキャインキャインと鳴きながら、いづ方ともなく駆け去っていった。カ
ラカラと鎖の音を立てながら。
 小林の耳たぶを軽く噛じっていた伊井の視界の端で、地に伏していた人影が、ユ
ルヤカに動き始めた。思わず伊井は人影を注視する。立ち上がった人影の頭が、闇
の中から、常夜灯の光線の中に突き出た。横顔が浮かび上がる。高い鷲鼻、秀でた
額、硬く結び薄すぎる唇、大きくギラつく目、長身痩躯、残酷そうな顔の三十代。
 「貴奴はっ」息を呑む伊井。
 「先生っ」思わず雰囲気に呑まれ、緊張した顔で伊井の腕にすがる小林。
 二人の存在に気付いているのか、いないのか、男は悠然とした足取りで、漆黒の
帷へと溶け込んでいった。
 読者諸君、筆者はここで退場するが、この場面を脳裏に焼き付けておいて欲しい。
何故なら、この情景が、後一週間の間、この地方を混乱に陥れる事件の前兆だった
のだから。
     ●怪人の正体?(小林純)
 先生、フンフンもしないで、事務所に帰ってきて結局、徹夜で何か考え事してた
みたい。昨夜と同じ格好でテーブルの前に座ってる。
 「先生 寝なかったんですか」
 「あ あぁ」
 「昨夜の人 知り合いなんですか 『貴奴』とか言ってたけど」
 「あぁ 好敵手……だった」先生はトットキの安葉巻のセロファンを破る。「オ
ールド・ポート」、カナダの葉巻。
 「好敵手? 変態合戦でもしたんですか」
 「馬鹿 真面目に聞け 貴奴は二年前 大事件を起こし俺と対決したのだ」先生
は蜜が塗り込めてある葉巻のチップをチロリと舐め、銜えるとロンソンの一九四三
年型スタンダードで火を点ける。
 「大事件? 対決?」
 「ああ 坂下津岸壁に追い詰めたんだ
  智恵比べで敗れた貴奴は俺に決闘を申し込んできた 逆転を狙ったのさ」
 「決闘?」
 「よくあるヤツさ 互いに二十歩離れて向き合い 撃つ」
 「へぇ 拳銃なんて持ってたんだ」そぉいや家宝だなんて言って日本刀なんか隠
し持ってるんだよね。考えてみたら、物騒な奴。
 「コインの落ちる音が合図だった 俺のルガーP08と貴奴のPPKは
  同時に火を噴いた」先生は煙を避け目を細めて深く吸い込む。煙いんなら喫う
んじゃない! だいたい、P08って骨董品じゃない。
 「俺のルガーは貴奴の銃を弾き飛ばし腕を貫いた そして貴奴は逃げた」フッと
濃い煙を吐き出す先生。三枚目が気取っても滑稽なだけって誰か教えてやってよ。
 「それで 捕らえたんですか」
 「俺に バックから撃つ趣味はないさ」肩を竦める先生。イイ加減にしろ! だ
いたい、一昨日も僕をバックから貫いたクセに。
 「へぇ」段々、僕の相槌も冷たくなってくる。
 「貴奴は傷を負った侭 外国船に逃げ込んだ 俺は見逃した」遠くを見つめる先
生。ヤメロってば。だいたい天井より遠くの何を見てるんだい。
 「へぇ 何処に行ってたんですかねぇ」
 「ドイツさ 貴奴はドイツにも拠点を持ってたんだ
  俺のルガーも貴奴からのプレゼントなのさ」
 「ほへ 何で?」ちょっと興味が湧いた僕。
 「貴奴とは……愛し合ってたこともある」再び遠くを見つめる先生。何を思い出
してんだか。
 「で 何者なんです 貴奴って」
 「アブノーマル・ターキー」目を細め少し首を振りながらユックリと発音する。
 「アブノーマル・トーキー?」
 「ターキーだよっ 七面鳥 変態七面鳥
  七つの顔と人格を持つ生まれついてのサディストだ 昨夜のことは見ただろ」
 「変態七面相!」
 「そうだ 女だと思えば男 男と思えば子供 全く捉え所が無い
  恐るべき怪人だ」思いつめた表情の先生。オールドポートの煙に隠れるように
考え込んでいる。
 「で 先生 ターキーが女の時に愛したの それとも男の時?」
 「ばっ馬鹿っ 大人をカラカうんじゃないっ」、だってさ。誤魔化しちゃって。
ま、察しはつくけどさ。僕を愛するぐらいだから……。
     ●県令緊縛(細川敬明)
  あぁあ、なんでこんなにハンコを捺さなきゃいけないんだ。腹の立つ。何が文書
主義だ。適当にやって書類だけ体裁を整えるだけなのにな。なんで、そんなモンに
イチイチ捺印しなきゃいけないんだ。チクショウッ。県令って選挙と仕事さえなけ
りゃ結構、居心地はイイんだけどな。
 「精が出るわね」ん? ムチムチの美人。何者だ。三十ぐらいか。穴の開いた皮
製の水着みたいなのを着ているが。うぅむ、業者からのアレかな? でもなぁ、一
度は断らんとな。体面というものがある。
 「何かね君は こんな時間に」
 「ふっふっふ 今夜から お前は アタシの奴隷よ」
 「あん? 何を言っておるんだ ああああっっっ なっ何をするっ」なんで、そ
んなハイヒールで素早く動けるんだ。いてててて、そんなに腕を捩じ上げたら折れ
てしまう。
 「ほほほ ムッチリしたオナカね」
 「あっあああっ ほっほどきたまえっ」何だ? 一体、何が起こってるんだ。
 「くっくっく 醜い裸ね この豚めっ」
 「誘拐する気だなっ 選挙直後だから金は無いぞっ」
 「馬鹿ねぇ アンタなんか誘拐して ドォなるのよ バカブタ」
 「きっ貴様っ こんなことをしてタダで済むと……」ううっ、我ながら情けない
台詞だ。
 「生意気言うんじゃないよ このハゲブタ ふふふ 太ってるだけあって
  亀甲縛りが似合ってるわよ ボケブタちゃん 赤い縄が食い込んで……」
 「けっ警備員っ 警備員っ」
 「ふっ 警備員は全員 気を失ってるわ 呼んでも無駄よ」何、気取ってんだ、
この女は!
 「何をしたんだっ」
 「……アトミック・シェイカー」
 「な 何ぃっ?」何だ? 原子力か? 原発は一個で十分だぞ。も一つ持ってき
たら、ワシの首が飛ぶ。
 「アタシの手は原子の速度で動くのよ アタシにしごかれれば どんな男でも
  瞬時に昇天を重ね 消耗して失神するのよ」
 「なっなんとっ」よく解らんが、凄そうだ。
 「アタシを満足させたら お前にもしてあげるよ さてと今夜は まず鞭から」
 「ああああっっっ やめろぉぉっっ」
 「ほうら ほら」
 「あああ 九尾鞭が 九尾鞭が……」
 「うりうり」
 「あああ 蝋燭が 蝋燭が……」
 「うきききききき」
 「あああ グリセリン液が グリセリン液が……」
 「ほっほっほ」
 「あああ 三角木馬が 三角木馬が……」
 「くっくっくっく」
 「あああ ハイヒールが ハイヒールが……」
 「ふふふ ブヨブヨだから踵が埋まっちゃいそうね」
 「あああ 女王様ぁ」瞼からも滴る汗の向こうに、神々しい女王様が笑ってらっ
しゃる。生きててよかった。県令やってて、本当によかった。選挙費用の三億円は
無駄じゃなかった。
 「お前は豚よ そら 豚らしく鳴いてみな」
 「ぶ ぶう ぶう」あああ、私は女王様の下僕でございます。
 「あら 夜が開けてしまうわね ふふふ ご褒美をあげるわよ
  アトミックゥゥ…… シェイッカアアーーー」
 「ひいいいいいいぃぃぃぃぃ」落ちていく落ちていく落ちていく。……溶暗。
(つづく)