AWC おんなのこ2 第8章 1/2  凡天丸


        
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★タイトル (NXN     )  98/11/ 7  23:51  (154)
おんなのこ2 第8章 1/2  凡天丸
★内容
   第8章 夏の訪れ!

 ほとんど眠れないまま朝になった。
 天気はどこまでもあたしと相性が悪いらしく、まばゆい光を投げ散らしながら爽や
かな風を遊び回らせている。
 あたしの思い過ごし…被害妄想なのかもしれないけど、ゴミ箱の横のテレビの中で
好い年して”梅雨が明けた”と、はしゃいでいるお天気お姉さんを見ていると、そん
な気がする。
 世間で梅雨が明けたのは、お天気の神様が、あたしの中に梅雨を閉じ込めたからに
違いない。

 全く人間というのはゲンキンなもので、梅雨明けが宣言された途端、通勤・通学の
様子は、一気に活気に満ちてカラフルになる。
 それは校内でも同じ事で、生徒達の顔はパッと綻び、足どりも軽やかに弾んで夏の
到来を歓迎しているようだった。
 大体、もう1週間以上前から雨なんか降ってなかったじゃない。もう梅雨なんかと
っくに明けてたのよ。そんな事にも気付かずに、どこの馬の骨とも知れない気象予報
士に踊らされて、愚かな人たち‥‥

 「舞子(まいこ)っ、ハオォォォッ!」
 あたしのそばにも、ゲンキンなのがワンペアいた。
 「…おはよ」
 あたしが、深海に眠る難破船の舟底に閉じこめられている気分なのに、知美(とも
み)と沙世(さよ)は、頭に花を咲かせて阿波踊りでもしているかのように、キャピ
コロだ。
 二人は、夢と希望を煌めた蒼い瞳をパチクリさせてあたしの顔を覗き込むと、ニッ
と、瞳を細めて見つめ合い、徐々に視界からフェードアウトしていった。
 そしてそれっきり、一度もあたしに近寄って来なかった。
 そうだよね‥‥こんなあたしなんかと一緒にいたら、カビはえちゃうもんね‥‥
 おかげで今日のあたしは、孤独が似合う女だった。
 唯一の拠(よりどころ)になったはずの梁子(りょうこ)は、あたしには”逃げる
なっ”なんて言ってたくせに、自分は休んでいるんだもんなぁ。ま、休まないなんて
言ってなかったけど。
///
 午前中は退屈な授業が続いて、ただでさえジメジメしているあたしの心を一層暗く
した。それでも周りの生徒達は、ようやくやって来た夏を感じて、そわそわと嬉しそ
うに落ちつきがない。今の状況を例えるならば、ひまわり畑に迷い込んだモグラとい
うところだろうか…

 どんなに長く、それが永遠に続くと思われても、いつかは終わりになるもので、よ
うやく午前中の授業が終わって昼休みになった。
 毎日、4時限目の終業の挨拶とともに駆け寄ってきていた知美と沙世は、やはりあ
たしを避けるように、何処(いずこ)かへ姿を暗ませていた。
 今日、お昼食べるのやめようかな‥‥
 いつも4人で賑やかに食べていたせいか、独りぼっちで食べるのが嫌だった。
 学食目当ての生徒達が忙しく教室を飛び出していく中、あたしだけは独り、少しで
も時間つぶしをするべく、ゆっくり勉強道具を片づけていた。
 でも、いつまでも教室に居る訳にもいかない。
 仲良し同士で楽しくランチを食べようという”お弁当組”達が、周りでニギニギと
、机を囲みだしたからだ。
 裏庭にでも行こうかな‥‥
 「きゃっ」
 不意にあたしは、首筋に息を吹きかけられて、椅子の上で跳ねた。
 「オハヨ」
 振り向くとそこに、梁子がいた。
 「梁、梁子っ…」
 「ン、どした? 腹へってんだ。早く学食いこうよ」
 ……もうっ…梁子ったらぁぁぁっ!
///
 突然どこからともなく現れた梁子には感動したけど、それも長くは持たなかった。
 もともと梁子はお喋りな方じゃなかったし、二人きりでランチするには、この辺り
は広すぎるのだ。今思うと、あの湧(ゆう)ちゃんの明るさが懐かしい…
 「居ないよ…」
 お箸を止めて、チラリと食堂内を見回したあたしに、梁子がボソリ‥と言った。
 「ち、違うよっ…別に湧ちゃんを探してたんじゃないのっ。知美と沙世、どうした
  のかなって思って…」
 湧ちゃんの姿を探したのは図星だけど、一緒に二人の姿を探したのも事実だった。
 二人とは、1年生の時からずっと一緒にお昼を食べてきたから、寂しいような、物
足りないような気が、どうしても拭えないのだ。
 「あのさ…梁子。無理してあたしに付き合う事ないよ。あたしとじゃ、つまらない
  でしょ。あは‥はは‥は‥‥」
 「別に無理なんかしてないよ。メシはうまいしうるさいのもいないし。それに…ア
  ンタ以外にゃ、一緒に食べてくれるヤツいないしね」
 平然と言いのけて、淡々と食べ続けている梁子につられるようにあたしも、お箸を
動かした。
 あちこちから聞こえる楽しそうなグループの笑い声が、向かい合って黙々と食べて
いるあたし達を、より惨めにさせる。まるで、ここだけ黒い靄に包まれているみたい
だ。
 「…後悔してんのかい?」
 梁子の言葉が、あたしのお箸を凍りつかせた。
 梁子は、顔を向けずにお箸を動かしたまま、話を続けた。
 「きのう…夜9時半頃だったかな…湧がウチの店に来たのは」
 お箸からシューマイが転がり落ちた。
 「何か…言ってた?」
 トレイの上で、逃げ転がるシューマイをお箸で突っつきまわすあたし。
 「いや……ずっとカウンターの隅に座ってて、何も喋らなかったよ。べつに何する
  でもなしにパフェ食べてた。あそこら、10時過ぎっと質の悪い連中が多くなっ
  から早く追い返そうとしたんだけど、とうとう最後まで居座っちまったよ。ま、
  アタシが単車で送っといたから何も無かったけどね」
 「そう…ありがと」
 梁子はお箸をおくと、テーブルの中央に置かれたやかんを取りに、席を立った。
 その隙にシューマイを手掴みで口に放り込むあたし。
 やかんを持ってきた梁子は、湯飲みに麦茶を注いで、一口飲んだ。
 「失敗したかな…」
 モグモグ‥ゴクン‥
 「なんか…昨晩のアイツ見てたら、普通の娘に見えちゃってね……考えすぎだった
  のかなってさ」
 「そうよっ、湧ちゃんは変な子なんかじゃなかったわっ。何よ今さらっ!」
 声を荒げた後で四方からの無数の視線に気付いたあたしは、耳を熱くして、乗り出
した身体を戻した。
 「アタシから、湧に謝るよ」
 「いいよ…もう駄目だよ。知美達の事で思い知ったわ。避けられるのって、想像以
  上に残酷なのよ。今までこんな思いを湧ちゃんにさせてたなんて……思いもしな
  かった」
 こんな気持ちの時に、湧ちゃんは、いつも笑顔をつくってたのかと自分に振り返る
と、胸が抉られるように痛み、涙がこみ上げてくる。
 「…ごめん」
 「どうして謝るのよっ。梁子には関係ないでしょっ。あたしが、そうしたんだから
  っ!」
 「……ごめん」
 「だからっ、謝らないでってばぁっ! そんなにすまないって思うんだったら、風
  船膨らませてよっ! 昨日言ったじゃないっ!? ねぇ、早く膨らませてよぉぉ
  ぉっ!!」
 「………ごめん」
 どうしてこんな事になっちゃったのか、やりきれない思いだけが、重たくあたしに
のしかかる。
///
 「舞子ぉぉぉっ、あと少しの我慢だからねぇぇぇっ!」
 「そうだよっ、お礼はそんなに高い物じゃなくてもよいですぞぉぉぉっ!」
 6時限目が終わって授業という呪縛から解放された生徒達が、思い思いの場所に散
らばっていく中、相変わらずのコロキャピコンビが、思い出した様にあたしの前に姿
を現した。
 「ホレホレ、シンデレラッ。お掃除の時間ですよ!」
 「今日は教室の掃除をおしっ!」
 屈託の無い明るい声と笑顔は、いつもの自然なものだった。
 二人は全然避けてなんかいなかったんだ。
 勝手に見捨てられたと思ってたあたしは、またしても胸が詰まって、瞳の奥が熱く
なった。でもこれは、お昼とは違う涙だ。
 「あ、あんた達…」
 離れた所で、犬コロの様に知美達とジャレ合っているあたしを、暖かく見守ってく
れている梁子の存在も嬉しい。
 そうだ。梁子はいつも面と向かって空気を入れてくれるんじゃなくて、遠くから、
そっと優しく膨らませてくれていたんだ。
 なのになのに、あたしったら……ごめんね梁子…

 ウチの班には、あたし達4人の女子と、3人の男子がいる。
 男子達は、クラスでも真面目な方だったので、掃除はスムーズに進み、アッという
間に机を並び終えて、最後にゴミを捨てに行けばおしまいになった。
 「あぁぁぁっ、何よコレェェェッ!?」
 いつもゴミを捨てに行くあたしは、ゴミ箱の中に捨てられていたお弁当の残り物の
残飯を見て、頭のてっぺんから声をあげた。
 お弁当の残り物は必ず持ち帰る規則になっているのに、今日に限って、山のように
残飯が捨てられていた。
 「チッ、誰の悪戯だっ」
 いつも教室でお弁当を食べている男子達を、絞め殺すような眼で梁子が睨み付ける
と、彼等は、オドオドしながら黒板の前にいる知美と沙世の方に視線を逃がした。
 「舞子っ、あたしらが捨てに行くからいいよっ!」
 梁子の逆鱗を交わすようにして、知美と沙世が黒板消しを放り出してドタバタとあ
たしの手からゴミ箱を奪い取って廊下へ駆け出して行った。
 脅し口調で梁子が男子達を問い詰めると、昼休みにあの二人が、躍起になって、校
舎中から残飯をかき集めていた事が判明した。
 男子達を解放して先に帰らせた後、合点のいかないあたし達は、いらだちながら知
美と沙世が戻って来るのを待っていた。





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