AWC 海鷲の宴(12−4)  Vol


        
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海鷲の宴(12−4)  Vol
★内容


 1010時 第16任務部隊

  「瑞鶴」艦攻隊長の村田重治少佐は、怒りに燃えていた。彼は、かつて所属して
 いた母艦「蒼龍」が爆沈する様を、甲板上で待機していた愛機のコクピットから目
 撃していたのだ。
 「『蒼龍』の仇討ちだ。行くぞ!」
  既に、直掩隊のF4Fと零戦は、激しいドッグファイトを繰り広げていた。零戦
 の方が旋回性能と搭乗員の連度で優位に立っているため、40機の直掩隊と18機
 の零戦は、殆ど互角の勝負を繰り広げていた。F4Fは零戦の相手をするのに忙殺
 され、攻撃隊にまで手が回らない。
  村田達が搭乗する天山は、三菱「火星」1560馬力エンジンが発するフルスト
 ロークの咆哮と共に、海面から10メートルと言う驚異的な低空飛行で、目標の米
 空母「ヨークタウン」目掛けて突進して行った。
  2000……1500……1200……
  目標との距離が、どんどん詰まって行く。

  「ヨークタウン」は、全火器を水平かそれ以下に倒して、海面を撃ちまくってい
 た。機銃は海面すれすれを掃射し、高角砲は水柱を立てて雷撃を阻止しようとする。
 だが、じれったいくらいに当たらない。水柱をかいくぐり、機銃弾幕のさらに下を
 通って、デバステーターとは明らかに異なる俊敏な動きの雷撃機は、舷側砲座に配
 置された兵士達の足元から、矢のように肉薄して来た。
 「化け物か、こいつら!?」
  銃座に着いていたある兵士が驚愕の声を上げた瞬間、艦攻隊は距離800で、次
 々に魚雷を投下した。それは、今まで九七艦攻が搭載していた、九六式800キロ
 航空魚雷ではなかった。白い航跡を曳いて、黒い影が「ヨークタウン」のどてっ腹
 目指して突き進んで行く。回避運動をとる間もなく、「ヨークタウン」の左舷に4
 本の水柱が、滝を昇り切って竜と化し、天空へ上る鯉の如く、するすると立ち昇っ
 た。
  舷側の銃座に取り付いていた甲板要員達が、吹き上げられた海水に巻き込まれ、
 水圧でバラバラに引き千切られる。まともに下から突き上げられた銃座が、毟り取
 られて跡形も無くなる。高角砲塔も、傾いたり破壊されたりするものが相次いだ。
  だが、喫水線下では更に深刻な被害が発生していた。
  天山が搭載していた魚雷は、零式1トン魚雷「「もともとは一式陸攻専用に開発
 された、大破壊力を誇る大型魚雷だ。炸薬量250キロと言う威力は、下手な艦載
 魚雷に匹敵する。
  バルジを突破して艦内に飛び込んだ魚雷は、防水区画に転がり込んで次々と炸裂
 した。水密隔壁や防水扉が粉砕され、その後から海水が渦を巻いて奔入して来る。
  駆けつけた乗組員が、生き残った防水扉を閉じ、ハンドルを回して密閉しようと
 試みるが、その前に鉄砲水となった海水が、反対側の人間ごと防水扉を弾き飛ばし、
 さらに奥の区画へと侵略の手を伸ばして行く。一気に5000トンを超える浸水を
 生じた「ヨークタウン」は、大きく左舷に傾き、がっくりと速度を落とした。
  そこへ、艦爆隊が250キロ爆弾7発を次々と叩き付けた。インド洋で猛威を振
 るい、英重巡「コンウォール」に44発もの爆弾を見舞って撃沈した驚異的な命中
 率は、未だに健在だった。
  「ヨークタウン」の飛行甲板は、各所で大穴を開けられ、ささくれ立ち、艦載機
 の発着艦にはとても耐えられない状況を呈した。幸い格納庫内には殆ど艦載機が残
 っていなかったため、ガソリンや弾薬の誘爆と言う致命的な事態は避けられた。
  だが、この着弾で生じた衝撃は、艦底奥深くの隔壁を揺さぶり、膨大な水圧を掛
 けられていたそれを、完全に崩壊させた。せき止められていた海水が、再び怒涛の
 勢いで侵攻を再開した。機関室や発電機も浸水し、動力が完全に停止する。
  推進力を失って、浮いているだけの鉄の箱に成り下がった「ヨークタウン」を、
 さらに九七艦攻8機が襲い、800キロ魚雷4本を叩き込んだ。これで完全に浮力
 を失ってバランスを崩した「ヨークタウン」は、一気に左舷に転覆し、沈み始めた。
 総員退艦命令を受けて甲板上に姿を現した将兵が、屹立した断崖絶壁と化した飛行
 甲板から次々と飛び降りて行く。だが、飛び降りる時に躊躇したり、艦の深部にい
 て脱出が遅れたり、運悪く被雷箇所のすぐそばに飛び込んでしまった将兵は、容赦
 なく沈没時の渦に巻き込まれ、絶望的な悲鳴を上げながら、艦と共に珊瑚海の海底
 深く消えた。

  残る空母も無事では済まない。「エンタープライズ」は、魚雷こそ命中しなかっ
 たものの、飛行甲板に250キロ爆弾6発を受けて各所が陥没し、破孔の縁が、木
 甲板の下に張ってある鉄板ごとささくれ立って、応急修理程度の処置では艦載機の
 運用が出来ない状態に陥っている。
  さらに運が悪かったのは「ホーネット」で、この艦は日本機の攻撃目標からは完
 全に外れていたにも関らず、「ヨークタウン」を狙った雷撃隊の流れ弾を左舷艦首
 に一本食らい、浸水と傾斜を生じて、これまた艦載機の運用が出来なくなっていた。


 1020時 第八艦隊

  「赤城」は、ゆっくりと海底に引き込まれつつあった。左舷に連続して4本叩き
 込まれた魚雷は、先の被弾と誘爆で大幅に数を減じていた乗組員達の、必死の応急
 処置の努力を嘲笑うかのように、舷側を突き破り、隔壁を破壊して、大量の海水を
 「赤城」の内部へと招き入れた。
  左舷への傾斜は次第にその度を増し、艦首が徐々に持ち上がって行く。懸命の復
 旧措置が講じられたが、誘爆で損傷した隔壁の隙間から侵入して来る海水を食い止
 めることはついに出来ず、艦長の青木泰二郎大佐は、断腸の思いで命令を下した。
 「総員退去! 急げ!」


 同時刻 第16任務部隊

  ハルゼーは、ぶすっとした顔で、「エンタープライズ」の艦橋の窓から外を眺め
 ていた。確かに、日本軍の空母4隻に対して、撃沈確実なほどの大きなダメージを
 与えていたが、こちらも逆襲に会い、同重量の宝石よりも貴重な空母一隻を失った。
 加えて、先程、流れ弾とも言うべき魚雷に当たって損傷した「ホーネット」の傷は
 意外に深く、傾斜を復旧して艦載機の運用を再開するために、右舷に1000トン
 近くも注水する羽目になり、速力が20ノットにまで落ちてしまった。これでは発
 艦に必要な合成風力を作り出す事が出来ない。
  つまり第16任務部隊の空母の内、艦載機運用能力がまともに残っているのは、
 小型の「ワスプ」ただ一隻、それも可動機は定数の7割の57機だけになってしま
 ったのだ。
 「サー……」
  ベイツ参謀長が、恐る恐る言った。
  だが、ハルゼーは怒鳴り散らすでもなく、低い声でベイツが進言しようと思って
 いた通りの事を言った。
 「攻撃隊の準備は出来たか?」
 「は……イエス、サー。F4F16機、ドーントレス13機、アベンジャー11機、
 いつでも出せます」
 「それだけか?」
 「は……?」
 「それだけかと聞いている。攻撃機が2ダースしかおらんのか?」
 「残念ながら。損傷機が思った以上に多く、これが限度だと言う事です。それに、
 F4Fの半数は、直掩に回さねばなりません」
 「そうか……分かった。攻撃隊にはベストを尽くしてもらうしかあるまい。直ちに
 発進だ!」
 「イエス・サー!」
  米艦隊の残存兵力をかき集めての、最後のパンチが繰り出されようとしていた。


 1025時 第八艦隊

  沈み行く「赤城」の航海艦橋で、羅針儀に体を縛り付けようとしていた青木大佐
 は、ふと気配を感じて振り返った。
 「まだ残っていたのか。さっさと退艦せんか」
 「いえ、元より退艦するつもりでおります。が、その前に大西三航戦司令官の命令
 を実行致します」
  「赤城」副長の葛西友信中佐はそう言うと、青木に強烈な当て身を食らわせた。
 「な……何をする……!」
 「艦長は、海軍でも稀な操艦の名手。決して死なせてはならぬとの命令です」
  葛西は崩れ落ちた青木を背負うと、沈み行く「赤城」から脱出すべく、徐々に傾
 斜を深めて行く艦橋の階段を、しっかりした足取りで下りて行った。

  米軍の第三次攻撃隊が姿を現したのは、その30分後だった。


 1045時 第16任務部隊

  残存兵力をかき集めて全力攻撃を掛けたのは、日本軍も同じだった。「翔鶴」
 「瑞鶴」の二隻から飛び立った攻撃隊は、零戦46、艦爆41、艦攻37の合計
 124機。モレスビー攻撃隊の生き残りから、再使用可能な機体をかき集めての、
 急ごしらえの編隊だ。両軍とも搭乗員達は疲労の極みにあったが、戦意は相変わら
 ず衰えていなかった。
  17機に減少した直掩隊のF4Fが、かなわないのを承知で突っかかって行く。
 零戦との格闘戦に持ち込まれるのを防ぐため、上空から攻撃機を狙って一撃離脱を
 仕掛ける戦法だ。これは、確かに効果があった。攻撃隊の内、艦爆4機と艦攻2機
 が、炎に包まれて落下して行ったのだ。だが、それと引き換えに高度の有利を失っ
 た代償は、高くついた。位置エネルギーを使い果たして動きの鈍ったF4Fに、零
 戦の20ミリ機関砲弾が襲いかかる。
  たちまち、17機のF4Fは主翼を叩き折られ、コクピットを粉砕され、燃料タ
 ンクの爆発を起こして落ちて行った。

 「撃って撃って撃ちまくれ! 空母に敵機を近付けるな!」
  護衛部隊の巡洋戦艦「コンステレーション」艦長のマクワイルド大佐は、声を限
 りに怒鳴った。「コンステレーション」は、他の艦が及びもつかぬ程の弾幕を張り
 巡らせていた。連装8基16門の5インチ両用砲、13ミリ、20ミリ、28ミリ
 といった各種口径の機銃が、激しい火箭を撃ち上げる。
  中でも、新たに搭載されたボフォース40ミリ機関砲の威力は、群を抜いていた。
 低空から「エンタープライズ」に擦り寄るように肉薄して行く九七艦攻の一隊が、
 横合いから一連射を食らって、突進のベクトルを強制的に下方に変えられた。
  さらに、「ワスプ」に向かっていた天山3機が、曳光弾に次々と胴体を撃ち抜か
 れ、空中爆発して海面に四散した。

  だが、それでも殺到する攻撃隊を防ぐ事は出来なかった。「ホーネット」の被弾
 によって、艦隊速力は20ノットに低下し、回避運動が困難となっていたところを
 突かれたのだ。
  上空からまっしぐらに降って来た艦爆隊が、満身創痍の「ホーネット」に対して、
 さらに5発の250キロ爆弾を叩き付けた。そのうち、偶然にも飛行甲板の破孔か
 ら中に飛び込んだ一弾が格納庫の床を突き破り、機関室で炸裂したのだ。
  被弾の瞬間、「ホーネット」全艦が大きくうち震え、速力が見る間に衰え始めた。
 格好の獲物とばかりに、4機の天山が襲いかかる。「ホーネット」が雷撃を受ける
 事は、ほぼ確実なように思われた。

 「やむを得ん、機関全速! 『ホーネット』の横に付けろ!」
  マクワイルドの命令に、航海長が一瞬怪訝な目を剥けた。が、すぐに意図を察し
 たらしく、引き締まった顔つきで命令を復唱した。
 「機関全速!」
 「総員対衝撃防御! 右舷艦底付近の乗組員は、被弾浸水に備えよ!」
  マクワイルドは、矢継ぎ早に指示を飛ばす。
  「コンステレーション」は、一瞬武者震いのように、全長266メートルの船体
 を鳴動させると、黒煙を吹き上げて半ば停止している「ホーネット」に寄り添うよ
 うに、天山隊の針路に立ち塞がるべく突進して行った。

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