AWC 海鷲の宴(7−3)  Vol


        
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★タイトル (USM     )  97/ 6/22  12:51  (104)
海鷲の宴(7−3)  Vol
★内容


 1941年12月22日 1330時

  日本軍の航空攻撃の前に、完膚なきまでに叩き伏せられて帰って来た主力部隊と
 合流したとき、ハルゼーを始めとする第四任務部隊の将兵は、一様に息を飲んだ。
 巡洋艦以上の艦で、無傷のものは一隻もない。駆逐艦の中にも、瓦礫が甲板上に堆
 積している艦が数多くいる。
  戦艦部隊は、最もひどい状態だ。数時間前まで22隻いたのが、3分の1の7隻
 にまで激減している。巡洋艦は、「ソルトレイクシティ」「チェスター」「アスト
 リア」「ホノルル」「ヘレナ」「ラーレイ」「デトロイト」と、7隻が失われた。
  生き残った艦も、喫水を大きく下げ、艦上構造物を破壊され、爆炎に撫でられた
 跡をくっきりと残している。

 「くそっ! ジャップめ、好き勝手にやってくれたな!」
  ハルゼーは海軍帽を丸めて床に叩きつけ、悔しがった。航空攻撃による初の戦艦
 の撃沈「「彼が悲願としていたこの快挙を、日本に先を越されてしまったのだ。
 「戦艦部隊が特に手酷くやられてますね。……真珠湾へ持って帰るのに、どれだけ
 の苦労がいることやら」
  参謀長のジェームズ・ベイツ中佐の表情にも、疲労の色がありありと浮かんでい
 る。
 「最初から空母の威力が認識されていれば、こんなことにはならなかったでしょう
 が……」
 「今更遅いさ。今の我々に必要なのは……」
  憮然とした顔で応じたハルゼーは、途中で声を荒げた。
 「この悲劇を二度と繰り返さないこと。そのために、戦訓の調査と空母の建造を大
 至急進めること。そして、数多くのジャップどもを地獄へ叩き込んでやることだ!」

  このときハルゼーが最後に放った、「キル・ジャップス、キル・ジャップス、キ
 ル・モア・ジャップス!」という言葉は、合衆国の不退転の決意を表すものとして、
 後世に至るまで語り継がれることになる。


 1941年12月24日

 大本営発表(23日午後2時)

 ・帝国海軍連合艦隊主力は、去る12月21日から翌22日にかけて、中部太平洋
  マーシャル諸島に来寇した米国太平洋艦隊主力を捕捉、これと交戦し、戦艦15
  隻撃沈、同6隻撃破を含む甚大な戦果を挙げた。

 ・戦果内訳

  一.米戦艦サウスダコタ級5隻撃沈、1隻撃破
  一.同レキシントン級2隻撃沈、3隻撃破
  一.同メリーランド級3隻撃沈、1隻撃破
  一.同カリフォルニア級2隻撃沈
  一.同ペンシルバニア級1隻撃沈
  一.同オクラホマ級2隻撃沈
  一.同艦型不詳1隻撃破
  一.甲巡5隻撃沈、3隻撃破
  一.彼我上空にて撃墜破せる航空機約330機

 ・本海戦における我が方の損害

  一.駆逐艦2隻喪失
  一.未帰還航空機約40機

 ・本海戦における我が方の戦果の内、約半数は我が精鋭航空母艦航空隊による物で
  ある。


  (東京朝日新聞 昭和16年12月24日 号外記事より抜粋)

  緒戦における続けざまの大勝利に、国民は熱狂した。東京、大阪といった大都市
 から地方の寒村に至るまで、人々は提灯や日の丸の小旗を手に、表を練り歩いた。
 各新聞はこぞって、山本五十六連合艦隊司令長官を英雄として祭り上げ、「昭和の
 東郷元帥」「太平洋の守護神」といった景気の良い見出しが、連日新聞の一面を踊
 り狂った。誰もが歓喜と熱狂の渦に呑み込まれ、右翼寄りの新聞の中には、「今こ
 そワシントンに日章旗を掲げ、自由の女神に日の丸を持たせるときである」などと
 書き立てる物も出る始末だった。自分達が、巨龍の逆鱗を思い切り逆撫でしてしま
 ったことに気付いている者は、誰もいなかった。


 1942年1月8日 広島県呉軍港

  マーシャル沖で、世界海戦史上稀に見る大勝を収め、意気揚々と入港して来た連
 合艦隊主力を、埠頭に押し掛けた人々は日の丸の小旗と万歳三唱で出迎えた。

  だが、華やかな出迎えに手を振って答えながらも、山本の心中には穏やかならぬ
 ものがあった。確かに、太平洋艦隊の戦艦部隊を航空攻撃によって壊滅に追い込み、
 自分を含む航空主兵派が夢にまで見た快挙と、マーシャルの防衛を成し遂げた。だ
 が、果たしてこのあとの戦いがどうなるのか、予測している者が今の国内にはどれ
 だけいるのだろう?
  緒戦で、戦艦は航空機の敵ではないことを身を以って思い知らされた合衆国が、
 全力を挙げてその国力を空母の建造に向けて来たら。そして20隻、30隻と量産
 された空母部隊を相手に、我々はどこまで戦い続けられるのだろう?
  だが、彼の問いに答える者はいなかった。

  密かに嘆息した山本が陸の方に目を向けると、巨大な建造ドックが見えた。今は
 空になっているが、以前そこでは、山本が大きな期待をかけていた1隻の巨艦が建
 造されていた。「天鶴」と名付けられたその艦は、今頃は土佐沖で密かに公試に入
 っている筈だ。大鳳級を凌ぐ重装甲を施されたこのクラスの空母を、日本海軍は今
 後1945年までに合計4隻編入する予定だった。さらに、蒼龍級を簡易構造化し
 た「雲龍」を始めとする中型空母も、続々と完成しつつあった。
 (これだけの空母を持ってしても、合衆国のあの工業力が総動員されればひとたま
 りもあるまい。何とかしてそれまでに講和に持ち込めればよいが……)
  山本の願いを他所に、日米両国の中枢に、講和の意志は全くなかった。


                      (第二部『逆襲の星条旗』に続く)
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