AWC 海鷲の宴(5)  Vol


        
#5131/7701 連載
★タイトル (USM     )  97/ 6/ 6   6:14  (182)
海鷲の宴(5)  Vol
★内容

 第一部第五章 天と地と


 1941年12月14日 中部太平洋カロリン諸島 トラック環礁

 「伊二四潜より通信! 『0900 米太平洋艦隊主力、真珠湾を出港せり』」
 「ついに動いたか!」
  山本が唸った。
 「長官!」
  黒島の声に、山本は、うむ「「と肯くと、号令を発した。
 「全艦隊に通達! 出撃は3日後、マーシャル沖にて米艦隊を迎え撃つ!」

  トラックに集結した艦隊は、連合艦隊の大半を繰り出した空前の規模のものだっ
 た。まず、第一艦隊第一戦隊の旗艦「長門」と、同型艦「陸奥」。全長250メー
 トル、排水量48600トン。ワシントン条約失効後に大改装を受け、攻防走の各
 性能において、一回りも二回りも強化された大戦艦に生まれ変わった艦だ。長砲身
 50口径16インチ砲を連装5基10門搭載し、最大戦速30ノットを誇る。
  第一戦隊は、本来GF長官直率の部隊だが、今回山本は、堅実な性格で知られる
 砲術のベテランの古賀峯一中将に、戦隊指揮を委ねている。
  続いて、第二戦隊の「扶桑」「山城」「伊勢」「日向」。全長231メートル、
 排水量41200トン、速力28ノット。もともと「伊勢」「日向」と「扶桑」
 「山城」は別々のクラスだったが、1933年の大改装で、同型艦に生まれ変わっ
 た。50口径14インチ砲を、連装6基12門搭載する。14インチ砲搭載艦なが
 ら、その防御力は対16インチ砲を想定したものに強化されていた。戦隊指揮官は、
 海軍きっての水上生活者として知られる西村祥次少将。
  さらに、第四戦隊の「比叡」「霧島」。第二艦隊の「金剛」「榛名」の同型艦だ。
 全長215メートル、排水量34100トン、速力30ノット。45口径14イン
 チ砲を連装4基8門搭載する。戦隊指揮官は、三川軍一少将。
  だが、艦隊の主力は、第一艦隊の中核を為すこれらの戦艦群ではなかった。

  第一航空艦隊。
  世界で始めて、空母を攻撃力の中核として、その集中運用を前提に編成された艦
 隊だ。日本が保有する正規空母の中でも、比較的搭載機数の多い艦を中心に構成さ
 れている。つまり、第一航空戦隊の「紀伊」「尾張」「駿河」「近江」、第三航空
 戦隊の「天城」「赤城」「高雄」「愛宕」だ。これに、第五航空戦隊の「隼鷹」
 「飛鷹」が加わっている。この2隻は客船を改造した中型空母で、25ノットとや
 や鈍速だが、常用補用合わせて53機を運用できる。一航戦は、一航艦司令長官の
 南雲忠一中将直率。三航戦は、勇猛をもって鳴る角田覚次少将が指揮官を務める。
 五航戦指揮官は、草鹿任一少将だ。
  そして、高速艦で構成された第二航空艦隊。第二航空戦隊の「翔鶴」「瑞鶴」
 「蒼龍」「飛龍」、そして第四航空戦隊の「大鳳」「海鳳」「綾鳳」「白鳳」だ。
 搭載機数こそ一航艦には及ばないが、艦隊の中で速力33ノット未満の艦は一隻も
 ない。艦載機の発着において速力が大きな意味を持つ空母においては、これは大き
 かった。二航戦指揮官は、二航艦司令を兼ねる原忠一中将。四航戦は、大西瀧治郎
 少将だった。
  これら18隻の空母を、第八戦隊の重巡「利根」「筑摩」、軽巡「長良」「由良」
 「鬼怒」「阿武隈」「五十鈴」「名取」、駆逐艦18隻が取り囲んでいる。
  第一艦隊の方には、第五戦隊の重巡「伊吹」「鞍間」、第六戦隊の「妙高」「羽
 黒」「那智」「足柄」、第九戦隊の「古鷹」「加古」「青葉」「衣笠」、軽巡「球
 磨」「木曽」「多摩」「大井」「北上」、そして駆逐艦36隻が付き従っていた。

  これだけの艦が一同に会したのは、連合艦隊の歴史が始まって以来のことだ。空
 母18隻の総搭載機数は、1400機に迫る。
 「ついに始まるのか……」
  山本は、高揚と苦渋の入り交じった表情で呟いた。
  確かに、これだけの戦力を操って、世界最強を謳われる合衆国太平洋艦隊と雌雄
 を決しようと言うのだから、武人としてこれほど名誉なことはない。だが果たして、
 あの豊かな合衆国を相手に回して、どれほど戦えるものか……。
  気勢上がる周囲の幕僚陣を他所に、山本の気は重かった。


 1941年12月22日0640時 マーシャル北方海上

 「10時方向に航跡!」
  空母「エンタープライズ」偵察爆撃隊所属の、ダグラスSBDドーントレスの後
 部座席に座っていた偵察員が、声を上げた。機長がそちらを見ると、コバルトブル
 ーの海面に、くっきりと鮮やかに、無数の白い航跡が伸びている。中小の細目の航
 跡を従えるように、8本の太く長い航跡が曳かれているのを、彼らは見逃さなかっ
 た。太平洋艦隊を邀撃に現れた、日本艦隊の主力に間違いない。
 「本隊に連絡だ。『われ日本艦隊発見。戦艦8、重巡10、軽巡5、駆逐艦約40。
 本隊の方角に向け進撃中』だ。平文で構わん、急げ!」
  偵察員が慌てて電信機のキーを叩き始めようとした時、視界の端にきらりと光る
 ものが映った。
 「敵戦闘機!」
 「ちっ、見つかったか!」
  ドーントレスは、全速力でダイブに移った。


 0700時 空母「エンタープライズ」艦上

  日本艦隊発見の報告に、まず動きを見せたのが、この男だった。
 「直ちに攻撃隊発進だ。獲物は掃いて捨てるほどいるぞ、一隻残らず沈めてしま
 え!」
  第四任務部隊指揮官の、ウィリアム・ハルゼー中将である。
  突然、輪形陣外殻に位置する巡洋艦・駆逐艦が、猛然と対空砲火を撃ち上げ始め
 た。見ると、2本のフロートをぶら下げた水上機が、上空を遊弋している。
 「敵偵察機発見!」
 「くそっ、見つかったか。一刻も早く発艦を済ませろ。攻撃隊が終わったら、直掩
 機だ。ジャップ共の攻撃隊が来るぞ!」
  その30分後、F4Fワイルドキャット戦闘機72機、SBDドーントレス艦爆
 78機、TBDデバステーター艦攻90機から成る合計240機の攻撃隊が、日本
 艦隊目指して飛び立って行った。攻撃隊を飛ばした後の空母艦上では、直掩隊の
 F4F78機の発艦が始まっていた。


 0720時 空母「紀伊」艦上

  米艦隊が艦載機発艦中との報告を受けて、18隻の空母からは次々と艦載機の発
 艦が始まっていた。だが……その中に、艦攻や艦爆の姿はない。数だけで見れば、
 合計で400機以上もの飛行機が上がっていたが、それらは全て零戦だった。
 「しかし……艦攻や艦爆の連中を宥めるのに一苦労でしたよ」
  艦攻隊隊長の淵田美津雄中佐が、苦笑混じりにぼやく。
 「先手必勝だ、先制攻撃で戦艦の出番が来る前に全部沈めてしまえと、そりゃあも
 う息巻いて息巻いて……」
 「だが、そのまま飛ばせば、攻撃隊は100機以上の直掩機とぶつかることになる。
 幾ら零戦が精強とは言え、それだけの敵機を相手にすれば少なからぬ犠牲が出るだ
 ろう。それよりは、向こうから攻撃隊を出させて、戦闘機を各個撃破した方がいい」
  山口多聞一航艦参謀長が、諭すように言った。
 「わかっちゃいるつもりなんですがね……」
 「若い搭乗員達は、何かと戦艦の連中をライバル視していますからね。手柄を少し
 でも増やしたいといった所でしょう」
  源田実航空参謀が、横合いから口をはさんだ。
 「まぁ、これだけ直掩機が上がっていれば、突破を許すようなこともないさ。あと
 は、直掩機の減った米艦隊を叩けばいい」


 0820時 日本艦隊主力北方海上約40海里

 「な、何なんだ、これは……」
  眼前に現れた零戦の大群を目の当たりにして、ドーントレス隊指揮官のジェフ・
 トラントン少佐は顔色を失った。敵機は、ざっと見ただけでも200機はいた。こ
 の辺りを飛んでいるからには、恐らくその全てが戦闘機で固められているに違いな
 い。味方のワイルドキャットは、果たして防ぎきれるだろうか? トラントンの列
 機も、明らかに動揺した様子を見せている。
  動揺しているのは、制空隊のF4Fも同じだった。
 「戦闘機があんなにたくさん……」
 「恐れるな、たかがジャップの作った戦闘機だ。どうせ大した事のない相手に決ま
 ってる!」
  隊長が一喝し、号令を放った。
 「戦闘機隊は、敵を引き付けろ。その間に攻撃隊は敵を突破するんだ!」
  その声に勇気付けられたかのように、F4Fが一斉に零戦目掛けて突っかかって
 行った。一旦は攻撃隊に向かいかけた零戦隊も、急旋回してこれを迎え撃つ。F4F
 のパイロット達は、予想外に俊敏な動きに嫌な予感を覚えながらも、機銃の照準を
 合わせて行った。
 「もらった!」
  叫ぶと同時に、操縦捍のトリガーを力を込めて押す。両翼のブローニング12.7
 ミリ機銃4門が咆哮し、眼前の日本機は、一瞬にして炎に包まれ、海面目指してま
 っしぐらに落ちて行く……筈だった。

  確かに、一瞬のうちに彼らの眼前から日本機は姿を消した。だが、日本機は墜落
 して行くどころか、信じられないような急旋回で突進するF4Fをやり過ごすと、
 そのまま後ろに廻りこんで銃撃を加えて来たのだ。
  機首の7.7ミリと、両翼の20ミリ。大小2種類の火箭が伸び、F4Fを次々
 と捉える。
  操縦席に7.7ミリを撃ち込まれた機は、パイロットを射殺され、コントロール
 を失って、真っ逆さまに落ちて行った。
  主翼や胴体に20ミリを食らった機は、あるものは主翼が付け根から千切れ飛び、
 あるものは燃料タンクや機銃弾倉が爆発し、あるものはエンジンから火を噴いて、
 錐揉みを起こしたり、空中爆発でバラバラになった。
  F4Fの中には、急旋回する零戦を何とか捕捉しようと、追いかけるように旋回
 を掛ける機もあった。だが、これこそ最も危険な機動だった。旋回によってスピー
 ドが急激に低下したF4Fを、零戦はまるで空中に停止している標的を撃つかのよ
 うな気楽さで、次々と撃墜して行った。
  頑丈な機体とダッシュ力に物を言わせて急降下で離脱を図る機体もあったが、零
 戦はそのような機には目もくれず、数の減った編隊を次々と掃討して行く。78機
 のF4Fが殆ど空中から姿を消すのに、5分と掛からなかった。

  日本機の編隊を突破したかに見えた攻撃隊も、無事では済まなかった。零戦隊は、
 彼らを止められなかったのではなく、止めなかったのだ。
  零戦隊がF4Fに引き付けられるのを見て一息つく間もなく、彼らの眼前に、先
 程と殆ど同数の零戦が姿を現した。今度こそ終わりだと、多くの搭乗員が思った。
 「さっきと同じくらいいる……」
 「だめだ、とてもかなわない……」
 「だからと言って、このまま尻尾を巻いて逃げ出す訳にも行かんだろうが!」
  トラントン少佐が、怒鳴りつける。
 「こうなったら、とにかく敵を突破して一隻でも多くの敵艦を沈めるだけだ! 全
 機突撃!」
  だが、彼らにとっては不幸なことに、最高速度がたかだか400キロそこそこの
 ドーントレス、そして空荷でも330キロしか出ないデバステーターに突破を許す
 ほど零戦は低性能ではなかったし、増してやそれを操るパイロットは、中国戦線で
 豊富な実戦経験を積んだベテラン揃いだった。
  再び、先程F4F隊を襲ったのと同様の殺戮劇が繰り広げられ……攻撃隊がほう
 ほうの体で戦場空域を脱出した時には、艦攻と艦爆だけで168機いた攻撃隊は、
 ドーントレスが20機足らずにまで減少していた。当然、日本艦隊への投弾など出
 来たものではない。全機が、爆弾を投棄して反転離脱して来たのだ。さらに、帰路
 力尽きて不時着した機体もあり、最終的に母艦へ辿りついたのは、F4Fが7機と、
 ドーントレスが15機だけだった。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

                                   Vol




前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 Volの作品 Volのホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE