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ベツレヘム777 エピローグ リーベルG
★内容
3人が<ジブラルタル>に戻ったのは、50時間後だった。
<ジブラルタル>は燦々たる有様だった。破壊活動による死者400人余り、
発覚した要観察者240人足らず、構造物の損害730点以上。かろうじて、
コロニー全体の生命維持に関わる施設は無傷に近い状態だったが、完全に復旧
するには数年を要するとの試算が報告されていた。
他のコロニーも同程度の被害を受けているので、支援をあてにするわけには
いかない。<ギオン>など、全市民が真っ二つに分かれて、無秩序な殺し合い
に突入する直前だったのだ。5つめのコロニー<マルセイユ>の建造は、無期
延期とされた。
事情が明らかになると、サオリはグレイヴィル市長の猛烈な叱責を受けた。
もちろん、サオリはただ叱られていたわけではなく、大いに反論もした。ただ、
サニルとカーティスに責任を押しつけたりするようなことは、決してしなかっ
た。
グレイヴィル市長も、サオリを叱ってばかりいるわけにはいかなかった。数
々の証言から、市議会がかなり以前から<ベツレヘム>の存在を知っており、
市政30周年を記念する行事の一つとして、その破壊を計画していたことが市
民に知られてしまったのだ。<フォルティッシモ>というコードネームを付け
られた遠距離粒子ビームシステムの存在も明らかになり、市民からの追求は必
至といえた。
ウェイ大佐は姪のジャーランの死を聞くと、悲嘆に暮れた。だが、自分が独
断で発進させた宇宙機による攻撃が、<ベツレヘム>を破壊に導いたことを知
ったことがわずかな慰めになったようである。
カーティスはただちに入院した。一時は危篤状態に陥ったものの、やがて驚
異的な回復力を見せ、サオリとサニルを安心させた。ただし、怪我が完全に直
っても、もはや以前のような戦闘能力は取り戻せないだろうとの警告を受けて
いる。
「別に私は悲しんでなんかいませんよ」見舞いにきたサオリとサニルに、カー
ティスは笑って見せた。「あなたたちのボディーガードなどやっていると、ど
うもろくなことがなさそうですから。これをいい機会に温室でトマトでも育て
ることにしますよ」
やがて混乱も何とか収まり、4つのコロニーの市民たちは、再建に向けての
努力を開始した。
サオリが一つだけ誰にも話さなかったことがある。ナザレ計画の真の目的だ
った。
あのとき、サニルはジーザズのDNA情報を体内に注入された。サニルの身
体の細胞の、少なくとも何パーセントかは、2000年前に十字架にかけられ
た男のDNA情報を持っているのだ。
もっともサオリはそのことを大して心配しているわけではない。そのような
異種のDNA情報が、サニル本来のDNA情報と共存できるとは思えないから
である。いずれ、ジーザズのDNA情報は欠落していくだろう。
問題は、複製されたジーザズの魂である。
ジン・バーソロミュー八世が一種の天才であったことは、否定のしようがな
い事実だ。その男が長い年月を傾注して追求してきたLSG理論を、サオリは
荒唐無稽だと無下に否定することはできなかった。もちろん、簡単に信じられ
ることではないし、信じたくはない。全てをジン・バーソロミューの妄想だと
片づけてしまえれば、どれほど気が楽になることか。
だが……もし、LSG理論が正しければ……サニルに別の魂が宿ったかもし
れないのだ。完全に入れ替わったとは思えない。だが、もし、サニル自身も気
付かないほど、ごくわずかな影の領域に、別の魂が秘かに棲みついているとし
たら……。
サオリは時々、あらぬ考えをもてあそぶことがある。
いつの日か、サニルがジン・バーソロミュー九世になることを決意するとき
が来るかもしれない。全コロニーの市民を敵に回してでも、人類を救う行動を
起こすかもしれない。第2のナザレ計画と第2のメルキオルたちを揃えて。そ
のときこそ、今回の比ではない災厄が、全コロニーを席巻するだろう。
そして、この危惧が現実となったとき、サオリはサニルを阻止することがで
きるのだろうか。
ときおり、両手から滴り落ちるなま暖かい血の夢から、悲鳴とともに醒める
夜更け、サオリはそう自問する。
その答えは出ていない。
今はまだ。
了
1997.05.26