AWC ベツレヘム777  第35話       リーベルG


        
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ベツレヘム777  第35話       リーベルG
★内容

 槍がサニルに向かって振り下ろされようとしたとき、不意にサニルが立ち上
がると、アームチェアから転がり落ちることで、それを避けた。
 誰も、何も言えず、何の行動も起こせないでいる間に、サニルはよろめいた
ヴェロニカの手から槍をもぎ取ると、ヴェロニカの身体をカスパルの方に突き
飛ばした。
 最初に驚愕から覚めたのは、カーティスだった。ヴェロニカの身体が、カス
パルの銃口からサオリとサニルのどちらをも遮っていることを確認すると、ス
タッカートを持ち上げてトリガーを絞った。高速弾は正確にカスパルの額を撃
ち抜いた。
 カスパルは驚愕の表情のまま倒れかけたが、その死の痙攣が手にしたハンド
ガンのトリガーを絞らせた。くぐもった銃声が轟き、ヴェロニカの背中から鮮
血が噴き出した。
「サニル!」
「姉さん!」
 サニルが駆け寄ってくる。サオリは生まれてから一度もやったことのない行
為をサニルにした。弟の身体を力いっぱい抱きしめてキスしたのだ。
「サニル……」サオリはサニルの目をのぞきこんだ。「あんた、ほんとにサニ
ルよね?」
 サニルは答えるかわりに、にっこり笑うと、サオリの手に何かを押しつけた。
サオリはそれを見て思わず笑い出してしまった。
 リーフ4。
「捕まったとき、とっさにリーフをつけたんだ」サニルは、もう一度サオリに
抱きつきながら言った。「てっきり拷問か何かされると思ってたから、ちょっ
と多めに」
 おそらく、リーフ4の影響で、ナザレ計画のプロセスの一部が正常に実行さ
れなかったのだろう。
「さすがはあたしの弟だわ!」サオリは涙を見せまいと、サニルを胸に抱きし
めた。
「姉さん、苦しい」
「うるさい」サオリはあることを思い出した。「サニル……ジャーランのこと
だけど」
「知ってる。目は閉じてたけど、耳は聞こえてたから」サニルは静かに答えた。
「助けられなくてごめん」
「姉さんのせいじゃないよ。でも、ウェイ大佐に説明する役は姉さんに任せる
からね」
 メルキオルが声をあげた。絶望そのものを音にしたような声だった。
「何ということだ。多くの歳月を費やした計画が」
 再び<ベツレヘム>全体が震動した。さきほどよりもひどい。
 メルキオルは仰向けに倒れているヴェロニカの近くに歩み寄った。カーティ
スはスタッカートを構えたが、すでにメルキオルは彼らに対する敵意を、あら
ゆる活力を失っているようだった。
 ヴェロニカは生きていた。だが、心臓のすぐ上を銃弾が貫いている。即死し
ていても不思議ではない。
「ヴェロニカ様……失敗に終わりました」
「これで……いいのです……メルキオル。あなたは神父の……資格を持ってい
る?」ヴェロニカは息も絶え絶えに訊いた。
「持っております」
「臨終の秘蹟を……」
「わかりました」メルキオルの声は優しかった。「君たちは脱出しなさい。ヴ
ェロニカ様の乗ってきたシャトルがある。急げば間に合うだろう」
「あんたはどうするの?」
「ここでヴェロニカ様の最後を見取る。言っておくが私は自分のやったことを
後悔していない。おそらく、ジーザズの再臨が、今日この日ではなかったとい
うだけのことだ」
「あんたを許そうとは思わない」サオリは最後の言葉を投げた。「ただ、哀れ
に思うだけよ」
「さらばだ」
 メルキオルはサオリ達を祝福するかのように十字を切ると、ヴェロニカの上
にかがみこんで何かを呟きはじめた。
「姉さん、行こう」
 サニルに促されてサオリはメルキオルとヴェロニカに背を向けた。そして、
カーティスに肩を貸して、プラットフォームへ向かって走り始めた。

 プラットフォームへ到達するまでに、10分以上かかった。その間、<ベツ
レヘム>全体を揺るがす震動が数度発生し、次第に強くなっていった。
 カーティスは控えめに言っても重傷で、常人であればとっくに意識を失って
いても不思議ではなかったが、二人に支えられながらも、何とか自分の足で歩
いていた。
 プラットフォームには、かなり古い型のシャトルが無事に残っていた。4人
乗りの軌道間連絡用シャトルである。カーティスを、後部シートに横たえて固
定すると、サニルがパイロットシートにもぐりこみ、サオリは隣のコ・パイロ
ットシートに座った。
「動かせそう?」
「古いけど何とかなると思うよ」サニルはそれほど迷うことなく、推進システ
ムを探り当てると、スタートさせた。「推進系は問題ない。推進剤が少ないけ
ど、脱出するぐらいは何とかなるよ」
 その言葉が終わらないうちに、これまでとは比較にならないほど大規模な震
動がシャトルを揺さぶった。
「急がないと<ベツレヘム>が爆発するわ!」
「とにかく発進しよう。軌道脱出針路OK。イグニッションスタート!」
 シャトルは爆発的なスピードで、プラットフォームから飛び出した。
「推進停止」サニルはスイッチを4つまとめて切った。「慣性で飛びながら、
軌道計算をするよ。通信装置が無事だったら、<ジブラルタル>か他のコロニ
ーに連絡をとって……」
「見て」
 3人は窓から外を見た。
 青く美しい地球を背景に、<ベツレヘム>ステーションが浮かんでいる。そ
のドーナツ型の円環部に向かって、ぎらぎらと光るスプレイ状の波が襲いかか
っていくところだった。<ジブラルタル>から発進した宇宙機群からの、最後
の攻撃である。
 ヘリウム/プラズマの波が、<ベツレヘム>にまともに直撃した。外壁の一
部が裂け、空気が噴出し始める。ステーション自体も、傍目にもわかるほど激
しい運動量を得て揺れ動いていた。
「どうなるのかしら?」
「たぶん、軌道から外れて地表に落下するんじゃないかな」
 3人はしばらく黙って<ベツレヘム>を見守った。
 ややあって、カーティスがサオリに言った。
「今度は窓がありますよ、お嬢さん。好きなだけ外が眺められてよかったです
ね」

                                つづく





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