AWC ベツレヘム777  第29話       リーベルG


        
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ベツレヘム777  第29話       リーベルG
★内容

「そろそろ臨界だ」カスパルが言った。無表情だが、言葉には微かな興奮が混
じっている。「やらせよう」
「いいだろう」メルキオルは頷いた。
「何をするつもりです!?」ヴェロニカが叫んだ。
「黙って見ていればわかりますよ」
 カスパルがコンソールを操作した。
 流れる音楽が変わった。
 ディスプレイの中では、ジャーランが半壊した身体を反らせて、喘ぎながら
苦痛に耐えていた。身体中の全ての穴は無惨に浸食され裂けている。乳房の片
方は完全に潰れ、四肢は骨の存在が意味をなさないほど奇妙な角度に何度も曲
がっている。顔は片目を除いて、全く原型をとどめていなかった。
 一体のソウルズがゆっくりとジャーランの上にかがみこんだ。
「やめさせて」ヴェロニカが哀願した。
 ソウルズはジャーランの無事な乳房の下に指を立てた。そのまま、スープに
指を突っ込むように易々と太い指を沈めていく。皮膚が裂け、新たな血が噴き
出す。ジャーランに残された最後の視覚器官が、恐怖に彩られる。口の端から
ピンク色の泡が洩れだした。
「神よ。おねがい、やめて」
 太い指が完全にジャーランの体内にもぐりこんだ。さらに奥へ進んでいく。
 不意に体内から、肋骨が皮膚を突き破って顔を出した。
「いや、おねがい、やめさせて」ヴェロニカは目をそむけながら呻いた。
 ソウルズの指が、弱々しく脈動するジャーランの心臓をつかんでいた。けな
げに生への努力を続ける筋肉と血管の塊。胸骨で守られた暖かい体内で活動し
てきた器官が、今、外気にさらされながら、必死で宿主の循環器系を維持しよ
うと努力している。
「やめて!」
 ジャーランの視線が動いた。ソウルズの指が掴んでいるものを見たとき、と
うとう耐え抜いてきた精神は崩壊した。
 その瞬間、ソウルズは手を握りしめた。ある意味では慈悲深い行為だった。

 ジャーランが絶命した瞬間、天井に埋め込まれている球体の一つが輝いた。
それまでは中身が空だったのだが、他と同じようにグリーンの物質が満たされ
たのだ。
「素晴らしいわ」バルタザールが満足げに微笑んだ。
「J要素ピュアリティ、97.1パーセント」
「さてと」メルキオルがサオリたちを見た。「次は君たちの番だ」
 サオリは苛烈な意志をこめた瞳でメルキオルを睨んだだけだった。激怒した
叫び声を上げたのは、ヴェロニカである。
「もうやめて!こんなことをしても、何にもならないのよ!ナザレ計画は失敗
した。同じことをやっても失敗するだけよ。人々にジーザズと同じ神性を与え
ることなどできるわけがないわ!」
「何のことだ、ヴェロニカ」カーティスが苦しげな声で訊いた。
「ナザレ計画は、荒廃した人々の魂を救うことを目的とした計画です。父はソ
ウルズの前身を結成したときから、その計画を最終目的としていたのです」
「魂を救うだと?」
「父は、ジン・バーソロミューは天才でした。父はLSG理論の研究を長年に
わたって進めていたのです」
「なんだそれは」
 本来ならばサオリが先に質問を発していたのだろうが、サオリの視線は消え
たディスプレイに釘付けになっていた。ジャーランの死のライブ映像が映って
いたディスプレイである。
「DNA情報の大部分を占めるジャンク部分が、人の魂の設計図になっている
とする理論です。それを解読すれば、人の魂を複製することもできるのです」
「ばかばかしい」
「父はそれを実証しました」ヴェロニカはきつい口調で言った。「もっとも、
学会は相手にもしませんでしたが」
「当然だな」
「父が長年を費やしたことがもう一つあります。ロンギヌスの槍、と呼ばれる
聖なる槍の探索です」
「その古ぼけた槍か。それがどうかしたのか?」
「私たちの教義の創始者、ジーザズが2000年前、十字架にかけられたとき、
その脇腹を刺したとされる槍です。その血のために槍は聖性を帯び、手に入れ
たものは世界を同時に手中にすることになると言われていました」
「ばかばかしい」カーティスは繰り返した。
「もちろんそれは伝説に過ぎません。しかし、父が注目したのは、ロンギヌス
の槍にジーザズのDNA情報が残っているかもしれない、ということだったの
です」
「なるほど、だんだんわかってきたぞ」蔑みを隠そうともせず、カーティスは
ヴェロニカと白衣の3人を順に睨んだ。「そのLSG理論とやらで、あんたた
ちはジーザズの魂を復活させようとしたんだな?」
「その通りです。魂の複製に数の制限はありません。ナザレ計画は数十億の魂
を生み出して、世界中の人々に宿らせることが目的だったのです」
「その結果、地球の人類は一夜にして死滅したわけか」
「それが何故なのかは、はっきりしていません。生み出した魂がジーザズのも
のではなかったのか、複製の過程で間違いがあったのか。とにかく放たれた魂
は宿主を死なせてしまいました」
「何がおかしいんだ」カーティスがそう言った相手はヴェロニカではなく、白
衣の3人だった。
「ヴェロニカ様」メルキオルが言った。「あなたは全てを知らされていたわけ
ではなかったのです。あなたのおっしゃったことは、ほとんど正しい。しかし
最も肝心な部分が違っておりますよ」
 ヴェロニカはわけがわからない、という顔でメルキオルを見た。
「で、でも……」
「あなたの誤解を一つ正しておきましょう。<ヨハネ22>は失敗ではないの
です。それどころか大成功でしたよ」

                                つづく





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