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ベツレヘム777 第24話 リーベルG
★内容
痛みが一時的に消えているとはいえ、カーティスが重傷であることには間違
いなく、3人は速いとはいえない足取りで通路を進んだ。カーティスは予備の
スタッカートを持っていたが、とても扱える状態ではなく、かわりにサオリが
受け取って構えていた。サオリも使いこなす自信などなかったのだが、火器の
重みはいくばくかの安心感を与えてくれる。それに、ソウルズたちの大部分が
ジャーランに集中している今、サオリたちが戦う状態になるとは考えにくい。
ハブ部へ至るルートは、ヴェロニカが大体記憶していた。しかし、ヴェロニ
カは、自分の記憶がかなり曖昧であることを認めた。
「私が<ベツレヘム>内部を歩き回ることになるとは、想定されていませんで
したから」
「あなたの役割はなんだったの?」
ヴェロニカは躊躇ったが、これぐらいならば話しても構わないと思ったのか、
落ち着いた声で話し始めた。
「私が父……ジン・バーソロミュー八世から命じられた任務は、<ヨハネ22>
でのナザレ計画が失敗に終わった時、<ベツレヘム>側のナザレ4000を目
覚めさせることだと聞かされていました」
「でも、あなたがここに来たときには、すでにナザレ計画は開始されていたわ
よ?」
「ええ。私にもその理由は分かりません。何かの手違いがあったのだと思いま
すが」
3人はエレベータに乗って、ハブ部への連絡通路へ出た。
「この先のはずです」
広い連絡通路を警戒しながら歩き出してすぐに、一つのドアの前でカーティ
スが足を止めた。
「カーティス。どうしたの?」
「少し休みますか?」ヴェロニカも心配そうに言った。
「このドア」カーティスは土気色の顔で壁にもたれながら、ドアを示した。「
記憶に間違いがなければ、例のFPWが格納されている場所のはずです」
「それがどうかしたの?」
「プラズマ兵器を無効化しておけば、たとえナザレ計画が発動されても、<ジ
ブラルタル>や他のコロニーは無事です」
「なるほど!」サオリは思わず手を打った。「それはいい考えかも知れないわ
ね」
「おそらく長距離誘導ミサイルで、コロニーを狙うようになっているはずです。
融合プラズマ弾頭そのものには手が出せなくても、誘導システムを破壊するか、
ミサイル部分と分離すれば」
「珍しく建設的な意見を言うじゃないの、カーティス。銃を撃つだけが能じゃ
ないのね」
「誉めているつもりですか?」カーティスはサオリをにらんだ。
「そうと決まれば善は急げよ」サオリはシールドアを調べた。「ロックされて
るわね。これで撃てば開くかしら?」
「大丈夫ですよ」カーティスはヴェロニカを指した。「彼女のヴァイタルサイ
ンで認証できるでしょう」
サオリもそちらを見たが、ヴェロニカは気が進まない様子だった。
「それより、先にOSの方を何とかした方がいいのでは?」
「何を言っているのよ。こっちを何とかしておけば、時間の制限は事実上なく
なるじゃない。いいから開けて。開けられないの?」
「いえ。私のセキュリティデータは登録されているはずですが……」
「じゃあ早く」
渋々ヴェロニカは進み出ると、セキュリティプレートに掌を押し当てた。数
秒でチェックは終わり、ドアは音もなく左右にスライドした。
同時に室内の照明が活性化した。その光に照らされた光景を見たとたん、サ
オリもカーティスも呆然と立ちつくした。
「な、なによ、これ!」
「ただのガラクタだ……」
確かにそこは、広い兵器格納庫だった。様々なタイプの兵器を格納できるセ
ルパケットや、トランスポートライン、メンテナンス施設、磁力カタパルト、
管制システムボックスが揃っている。しかし、それらの設備はどれも組み上げ
途中で放置されていた。無数の部品が床に転がり、空しく光を反射している。
そもそも、ここには融合プラズマ兵器はおろか、兵器と名の付くものは全く
存在していなかった。
「どういうことだ、これは」カーティスは壁にもたれた。
「場所を間違えたんじゃないの?」
「そんなはずはありません。FPWを管理できる設備は、このステーション内
ではここだけのはずです。これについては、ジャーランも同意見でしたよ」
サオリは面食らったような顔で、カーティスは厳しく問い詰める表情で、申
し合わせたようにヴェロニカを見た。ヴェロニカはその無言の圧力に耐えかね
たように下を向いてしまった。
「ヴェロニカ」サオリは苛立ちを隠しきれず、やや声を荒くした。「これは、
一体どういうことなの?ナザレ計画は融合プラズマ兵器だって言ったじゃない
の。だましたのね」
「私はそんなことを一言も言っていません」ヴェロニカは弱々しい声で抗弁し
た。「言ったのはあなたたちです」
「どっちが言ったかなんて、どうでもいいのよ!地球の人間が一夜にして滅び
去ったのは、プラズマ兵器のせいじゃないのね!どうなの?」
「ええ。違います」
「じゃ、なんなの?」
「ごめんなさい。申し上げられません」
サオリは険悪な表情でヴェロニカをにらみつけた。大声で怒鳴りつけようと
するかのように口を開いたが、さすがにそれどころではない、と思ったらしく
うなり声を口の中で噛みつぶすにとどめた。
「もういいわ。とっとと、忌々しいナザレ4000をぶっ壊しにいくわよ。っ
たく、ソウルズも<ベツレヘム>もジン・バーソロミューも、まとめてくそく
らえだわ」
言い捨てると、サオリは一人でさっさと格納庫から出て歩き出した。カーテ
ィスが後に続こうとしたとき、何の前触れもなしに大音響の音楽が、3人の頭
上から流れ出した。
「今までとは違うわ」サオリが足を止めてつぶやいた。
「ベートーヴェン第9交響曲、歓喜の歌です」ヴェロニカが顔を強ばらせて天
井を見た。「ナザレ計画が最終段階に入ったんです」
「つまりどういうこと?」少し前まで腹を立てていたことも忘れて、サオリは
ついヴェロニカに質問した。
「ジャーランさんが、ソウルズを殺し尽くしたのでしょう」
「じゃあ……」
「いえ、全部ではありません」ヴェロニカは首を横に振りながら訂正した。「
まだ、あなたたちが残っています。あなたたちが最後の一人になるまでガスは
放出されないでしょう。まだ時間はあります」
つづく