AWC ベツレヘム777  第21話       リーベルG


        
#5077/7701 連載
★タイトル (FJM     )  97/ 5/11  22:35  (105)
ベツレヘム777  第21話       リーベルG
★内容

 カーティスが先頭を進み、数歩遅れてサオリとヴェロニカ、その後ろをジャ
ーランが歩いていた。ジャーランは時々、カーティスに方向を指示している。
ナザレ4000から抜き出したデータに基づいて、サニルがいると思われる最
短距離を選んでいるのだ。警戒しながらなので、進み具合は速いとはいえなか
ったが、少なくともソウルズには遭遇しなかったし、あの音楽も鳴り響かなか
った。
 サオリはヴェロニカから情報を引き出そうとしたが、やはり何も得られなか
った。逆に、ヴェロニカがホーリーナイト後の歴史を知りたがったので、サオ
リの方が教えてやる始末である。
「……そういうわけで、ようやく完全な自給自足態勢が確立したのは、ホーリ
ーナイトから10年後ぐらいね。月面採鉱プラントを修復して、マスドライバ
ーで鉱石を送れるようになってからは、各コロニーの施設増設も急ピッチで進
んだし、産児制限も解除されたわ。今ではお粗末ながら、コロニー間の流通網
も整ったし、政治体制と呼べるものも生まれているわ。あたしの母は、<ジブ
ラルタル>の市長よ」
「それは素晴らしい職業ですね」
「そうかしら?母は要観察者、つまり潜在的にソウルズ思想を持つ人間に対す
る制限を強化する法案を提出したのよ」サオリは意地の悪い笑みを浮かべた。
「それでも素晴らしいと思う?」
「人は誰でも過ちを犯します」ヴェロニカは動じた様子もなかった。「我らの
主たるジーザズはこう仰っています。敵を愛し、憎む者に親切にせよ。呪う者
を祝福し、辱める者のために祈れ。あなたの頬を打つ者には他の頬をも向けて
やり、あなたの上着を奪い取る者には下着をも拒むな」
 ヴェロニカは言葉を切ると、濁りのない目でサオリの目を見つめた。
「私たちは、たとえ敵であっても、いえ、敵であるが故にあなた方を愛します。
あなたのお母様も、あなたも」
「愛を口にしながら、同じ手で相手を殺すというのは、矛盾しているわ」
「ジン・バーソロミューは、そのような教えを口にしたことはありません」
「ホーリーストームで、世界中のソウルズ達が一斉に破壊活動を行ったのは、
ジン・バーソロミューの命令でしょうが。血に飢えた狂信者よ」
「あなたは誤解していますよ、サオリ」ヴェロニカは怒りの片鱗も見せずに、
淡々と語を継いだ。「ジン・バーソロミュー八世は、真剣に人類の未来を憂え
ていました。宗教研究家であり、優秀なシステムエンジニアでもあった彼は、
当時の人類を破滅から救うには、人々が神の愛を取り戻すしかない、と考えて
いたのです。それまでの名前を捨ててジン・バーソロミュー八世となったのは
人々に神の愛を説くためで、決して破壊活動のためではありません」
「そうかしら」
「もし、ジン・バーソロミュー八世が、単純なテロリストであったなら、あれ
ほど多くの人間がその思想に共鳴したでしょうか?人類がそれほど愚かだった
とお考えですか?」
「……」
「残念なことに、ジン・バーソロミュー八世は、人々の心に訴えかけることは
得意でも、組織の運営に関しては素人同然でした。そこに、ホーリーソウルズ
を利用して富を得ようとたくらんだ人間がつけ込みました。ジン・バーソロミ
ューが気付いた時には、すでに誤った考えを吹き込まれたソウルズのメンバー
が世界中に放たれてしまっていました。ホーリーソウルズに反発する者は、神
の愛を広める活動を妨げるべく、悪魔が地上に送り込んだ邪悪な存在だという
考えです」
「それがホーリーストームの始まりというわけ?でも、あなたの言うことが正
しくて、ジン・バーソロミューが温和な人間なら、どうしてそんなことになっ
たわけ?」
「当時、第三世界の貧富の差はようやく狭まり、思想や主義の差による紛争も
収まりかけていました。世界政府樹立構想も具体化してきたのです。これには
ジン・バーソロミューの教えが広まったことも一役買っていました。もともと
ホーリーソウルズは、1990年代の終わりに、全世界的に広まった終末思想
の恐怖から逃れるために、人々がすがった宗教団体のひとつに過ぎなかったの
で、それほど知られているわけではありませんでした。ジン・バーソロミュー
八世は、小さな宗教団体を、わずか数年で世界の半分の人間を信者に持つ、大
団体へと成長させたのです」
 サオリは言葉を挟むのをやめて聞き入っていた。ヴェロニカが話しているの
は、コロニーの教育課程では、習うことのない歴史だった。何も言わないが、
カーティスやジャーランも耳を傾けているようだった。
「ところが世界の平和を快く思わない人間や組織もいたのです。軍産複合体と
呼ばれる集団もその一つでした。世界中から紛争が一掃されれば、彼らの居場
所はなくなってしまいますから。彼らは、身の振り方を決める前に、最後に一
度だけ大儲けすることに決めました。世界大戦、それもかつてない規模の大戦
が必要でした。その敵として、ホーリーソウルズが目を付けられるのは必然と
言えたでしょう。彼らが秘かに送り込んだ工作員によって、ホーリーソウルズ
は世界中を敵にすることになったのです」
「……そして、世界大戦が始まった。軍産複合体の計算通りに」
「彼らは両方に兵器を供給することによって、多大な利益を上げたはずです。
それまでの限定された地域紛争などとは比較にならないほどの利益を。なにし
ろ世界中が市場なのですから。
 軍産複合体が計算違いに気付いたのは、戦争の成りゆきをコントロールする
ことが、すでに誰にもできなくなっていたことです。もちろんジン・バーソロ
ミューにも。世界中に散らばっていたソウルズの戦士たちは、薬物や電子的誘
導によって洗脳されていて、ジン・バーソロミューの停戦の呼びかけなど耳に
入れようとしませんでした。それに、彼が伝道によく利用していたインターネ
ットも麻痺状態に陥っていて、声自体が届かない場合も少なくなかったのです。
数ヶ月のうちに、事態は急速に悪化しました。
 やむなくジン・バーソロミュー八世は、長年に渡って準備を進めてきた計画
の遂行を早めることにしたのです」
「それが、ナザレ計画ね」
「そうです。戦争を終結させるには、それしか残されていなかったのです」
「確かに終結したさ」我慢できなくなったのか、カーティスが前を向いたまま
口をはさんだ。「地球上の人類全ての死という形で。いささか乱暴だとは思わ
なかったのかねえ」
「計画は失敗だったのです。ジン・バーソロミュー八世には一人の人間も殺す
つもりはありませんでした。計画を早めたために、彼が望んだ結果にならなか
ったのです」
「ジン・バーソロミューの意図した結果って、何なの?」サオリが訊いた。
「それは……」ヴェロニカは躊躇った。「……お話しすることはできません。
それに今考えなければならないのは、ナザレ計画を停止させることではないの
ですか?」
「確かにそうだけど」さらに問い詰めようとしたサオリは、ふと別の疑問を感
じた。「ところで、あなたは、どうしてそんなに事情に詳しいの?ソウルズの
幹部か何かだったの?」
「私は……ジン・バーソロミューの娘です……いえ、娘でした」ヴェロニカは
静かに答えた。
 サオリたちが言葉を失ってヴェロニカを見つめたとき、すでに耳に慣れた音
楽が通路に響きはじめた。

                                つづく





前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 リーベルGの作品 リーベルGのホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE