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ベツレヘム777 第19話 リーベルG
★内容
巻き込まれるどころか、全ての騒ぎの中枢にいるジャーランは、離れた場所
で心配している叔父のことなどすっかり忘れて、ナザレ4000の深層に潜り
込むことに没頭していた。
ヴェロニカはOSスペシャリストであることは否定したものの、いくつかの
深層レベルコマンドをジャーランに教えることはできた。ジャーランは、その
助けと、訓練を積んで磨きをかけたシステム・プロデュース能力によって、驚
くほど短時間でナザレ4000のベースモジュール操作を習得した
ジャーランがサニルがいると思われる場所を絞り込んでいる間、サオリとカ
ーティスは、ヴェロニカに様々な質問を浴びせかけていたが、得られた答えは
少なかった。特に、ナザレ計画の詳細や、ヴェロニカがなぜタイミングよく、
<ベツレヘム>に現れたのかという質問には、ヴェロニカは徹底して沈黙を守
っていた。
サオリが少なからずムッとしたのは言うまでもないが、ヴェロニカが優しそ
うな外見とはうらはらに、実に強固な意志を備えていることが明らかになって
からは、強硬に答えを得ようとするのを諦めてしまった。無理矢理聞き出すよ
りも、自発的に話すのを待った方が、結果として多くの情報を得られるだろう
と考えたからである。
「私は、ナザレ計画発動の12時間前に、軌道上に送り出されました」ヴェロ
ニカは、静かな声で話した。「任務は、<ヨハネ22>におけるナザレ計画が
何らかの形で失敗に終わったとき、ここの双子を目覚めさせることでした」
「ナザレ計画って何なの?」
サオリがこう訊くのは、これで10回目ぐらいになる。すでにサオリも答え
が返ってくることを期待していなかったので、ヴェロニカが力なく首を横に振
ったのを見ても、それほど失望しなかった。
「決まっていますよ」代わりにカーティスが吐き捨てるように言った。「人類
を皆殺しにする兵器に決まっています。この女は、それを作動させに来たんだ」
「それは違います」穏やかにヴェロニカは答えた。「ナザレ計画は全ての人間
を救うことを目的としていました」
「死が救いだ、ってのは、ソウルズの下らないスローガンだ」
「そうではないんです。<ヨハネ22>のナザレ計画は失敗だったのです。地
球の人間が全て滅びたのは、誰も予期しない結果でした。私は軌道上から、そ
れを見ていたのです。全ての人々に平安をもたらすための計画が、救いようの
ない地獄をもたらしてしまった。私の衝撃がおわかりになりますか?」
ヴェロニカの頬を涙が濡らした。嫌悪の視線を隠そうともしなかったカーテ
ィスも、さすがに顔をそらした。
「戒律が禁じていなければ、私は自ら命を絶っていたでしょう。冷凍コクーン
で眠りにつく前に考えていたのは、二度とこのまま目が覚めないといい、とい
うことでした。ここのナザレ計画が発動しなければ、その願いはかなったこと
でしょう。ですが、こうして私は意識を取り戻し、ナザレ計画は発動してしま
た以上、計画完遂阻止に全力を尽くさなければ」
カーティスはあからさまな疑惑の視線を向けた。
「ほお、あんたがソウルズの計画を阻止するだと?それと見せかけて、実はそ
の忌々しい計画を進めるつもりじゃないのか?」
ヴェロニカは悲しそうな顔でカーティスを見た。
「今、宇宙にはどれぐらいの人間がいるのですか?」
「そうねえ」サオリが答えた。「4つのコロニー全部を合計すると、2万人ぐ
らいじゃないかしら」
「このままナザレ計画を阻止せずに放置しておけば、その2万人が全て死に絶
えることになります」
サオリがもっと詳しく訊こうと口を開きかけたとき、ジャーランが声をあげ
た。
「ねえ、ちょっと、これ見てよ」
サオリはディスプレイに目をやった。何かのスプレッドシートで埋まってい
る。
「何のリスト?」
「<ベツレヘム>が保有している兵器リスト」
カーティスがものすごい勢いで振り向いた。
「何だって?」
「兵器よ、兵器」
カーティスはヴェロニカのことなど忘れた様子で、ディスプレイに近づくと
シートを目で追った。
「マイクログラヴィス社製高出力X線レーザー兵器フルセット」カーティスは
リストの一部を読み上げた。「外部観測装置連動フルオートマティック照準シ
ステム、サンホワイト早期警戒/拠点防衛ソフトウェアコンポーネントおよび
カスタマイズツールキット、ハイペリオン自律知性搭載ホーミングミサイルコ
ントローラー、ドップラーシフト位相変換型ステルスシールド、NT58型リ
アクティブアーマー対応安定反応質量弾頭……」
「それは全て防御兵器です」ヴェロニカが遮った。「攻撃の意図はありません」
「ディフェンスシステムにしては、やけに重装備だぞ」カーティスは皮肉な口
調で答えたが、すぐに驚きの声を上げた。
「どうしたの?カーティス」
「FPW……融合プラズマ兵器があるんです」
「聞いたことがないわ」
「当然です。ホーリーストームの直前に、理論が発表されただけですから。実
用化されていたとは知らなかった」
「すごい兵器なの?」
「すごいの上に超がつきます。融合炉一つをまるまる使って、超高温プラズマ
を発生させ、素粒子制御システムと磁場誘導装置で動かすという理論でした。
ただ、実際にはプラズマ塊を制御するのはとてつもなく困難で、一つ間違える
と地球そのものを文字通り溶かしてしまうので、実用化には天文学的な費用と
高度な技術力が必要だったはずです」
サオリは問いかけるようにヴェロニカを見た。ヴェロニカは悪びれず答えた。
「そうです。当時、ホーリーソウルズには、数多くの国家や企業、個人資産家
や著名な科学者が賛同していました。困難だったのは、FPWの研究を人々の
目から隠すことで、開発そのものは順調でした」
「そして完成させたんだな?」
「プロトタイプが完成したことは知っています」
「それがホーリーナイトの原因なんだな?」カーティスは幽鬼のような声で言
った。「お前達ソウルズは、FPWを地球上で作動させ、人類を皆殺しにした
んだ。そうだな?」
ヴェロニカは下を向いたまま答えなかった。
「そして、今度は宇宙に生き残った人類をも滅ぼそうとしているんだ」
「それは違います!」
「ふん、わかるものか」
「いいかげんにしなさいよ、二人とも」見かねてサオリが割って入る。「今は
そんなことをやっている場合じゃないでしょうが。さっさとサニルを助けに行
くのよ!」
「そうしようと思っていたところです」カーティスは蔑みの目でヴェロニカを
見ながら答えた。「ソウルズたちなど皆殺しにしてやりますよ」
「いけません!」ヴェロニカが叫んだ。「彼らを殺してはいけません!」
「ヴェロニカさん。仲間のソウルズを殺されたくない気持ちは分かるけど……」
「そうではありません。彼らを殺すことは、ナザレ計画を進行させることに等
しいのです」
「どういうこと?」
「神よ、彼らの魂を天に召したまえ。彼らはナザレ計画のために生み出された
者たちです。このステーションの上で、777の命が奪われたとき、ナザレ計
画は発動するのです。彼らは殉教すべく定められた存在なのです」
つづく