AWC 「世界の終わり」四話「赤いマントの男」       垣井


        
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★タイトル (JHM     )  97/ 5/10   3:24  ( 75)
「世界の終わり」四話「赤いマントの男」       垣井
★内容
 徹に銃を向けていた佐野峡次は突然、気が付いたように時計の方を振り返った
。「あれ!? いやべぇ! もうこんな時間じゃねぇか! 始まっちまったか?
」佐野峡次は時計を眺めると、店内のレジの隅に設置してある5インチのポータ
ブルテレビを急いでつけた。
 画面には現在の日本の内閣総理大臣が映っていた。内閣記者会見室からの生中
継という白い字幕が隅にあった。
「・・・・・・いうわけで、現在の緊迫した情況は絶望的としか答えられません。米国
からの核攻撃は何故か各地の自衛隊施設、在日米軍駐屯地、大型の警察署等のあ
る場所を的確に投下されており、米国が先程の記者会見で見解したように、コン
ピューターの暴走とはとても考えられません。極めて人為的、戦略的な意図が感
じられます。残った在日米軍も北朝鮮に戦禍の鎮圧に向かってしまい、米国とも
連絡が取れなくなりました。
 何度も言いますが、私達、日本政府はこの錯乱した現状をもう対処出来ません
。数回による閣議の末、このような非常令を遺憾ながら発令させて頂く結果とな
りました。日本の政権を日本政府から天皇陛下に返上させて頂きます。これから
、NHKにて陛下のお言葉があると思います。
 先程の新潟への原子爆弾投下でわたしの孫のあつしが、ひ、被爆したと思われ
ます。連絡は取れていません。お、おそらく、即死したと考えられます」首相は
涙をハンカチで拭いた。おいおい、神頼みの大政奉還かよと佐野峡次は呆れて叫
んだ。この政権を天皇に返上するという決定は、現在の内閣官僚の首謀者である
。内閣官房副長官が、象徴天皇制反対論者だった事も手伝ったが、政府自身、現
在の内閣及び、国会の低能さを理解していたせいもあった。
 現在の政界は優秀な指導者もおらず、国民からも信頼されてはいなかった。細
川首相の驚異的な80パーセントという支持率。これは国民の5人のうち4人は
支持していた事になる。しかし、細川首相が止めた時、誰一人として止めないで
くれというものは現われなかった・・・・・・。アメリカの作った日本の民主主義、究
極の行政改革はアメリカの監視が薄れた今、発令された。
 佐野峡次は店内に効いている冷房の強さで、身震いした。テレビに映し出され
た首相は雄弁に、そして重々しく話を続ける。「陛下はカリスマ性もあり、歴史
から裏打ちされる伝統という後光もあり、現在のアメリカの邪悪な手から離れた
この日本を必ずしや、必ずしや! 救ってくれると考えます。私は内閣を辞任し
ますが、陛下が必ずし・・・・・・」突然、画面にザザザァという砂嵐が現われ、国会
からの中継はストップした。その灰色の画面はこの世界の行く末を暗示するよう
に徹には見えた。、しかし、数秒後、画面は正常に映った。しかし、その中継は
今までの内閣記者会見室からの物ではない。
「あ! 弐ノ月・・・・・・なんでテレビに!?」その映像を見て、銃を背中に突き付
けられていた徹は声をあげた。
 そこには、徹と同じ高校に通う、聖ハイセルン学園高校の同級生の弐ノ月剣介
が映っていた。この聖ハイセルン学園高校は熱心なキリスト教信者が明治期に莫
大な寄付をしたお陰で開校したもので、校舎の外観も教会を連想させる造形だっ
た。
 授業でも、アレクサンドリア写本、ヴァチカン写本等から編集されている聖書
の解読は勿論行い。12使徒福音書、黙示文学の追求、及びYHWH全般の系譜
、等も取りいれており、制度も実に厳しかった。給食は菜食のみ肉類の類は一切
許されてはいない。そして一番変わっているのは、制服だった。真っ白いシルク
のタキシードを彷彿とさせる制服は異彩を放っていた。
 突然画面に現われた弐ノ月剣介は徹の理解する限り、こういう人物だった。い
つも教室では一人でいてクラスには友達もいず、クラスの人間と誰とも喋らなか
った。しかし、その透き通るような肌と甘いマスク、そして長い華麗な黒髪は際
立っており、女生徒の人気が高かった。典型的な孤高の美少年であった。
 弐ノ月剣介はコンピューター開発部に属し、非常に優秀な生徒でもあった。「
LANにおけるコンピュータネットワークアーキテクチャレベル3及び、同時相
互間の死角、機密保護の微弱性」という論文を、法政大学通信課に提出してその
レベルの高さが話題になったり、あるゲーム会社の開催したゲーム政策のイベン
トで優勝したり、その時、独自にC+7というコンピューター言語を開発して、
マスコミで取り上げられたりした事もあった。彼の裏の顔は、業界でも有名な優
秀なハッカーでもあった。
 その弐ノ月剣介が白い聖ハイセルン学園高校の制服の上に、深紅の赤いマント
をまとうという、異常な出立ちでテレビに映った。それは日本全国に生中継され
ていた。
 弐ノ月剣介の周りにはコンピューター開発部の生徒が数人並んで、悠然と構え
て映っている。彼らの後ろには巨大な十字架が架かっていた。
 弐ノ月剣介は孤独な青白い大きな目をこちらに向けており、黒髪が少し濡れ妖
しく光っていた。端正な彼の美形のマスクに真っ赤なマントはよく映えた。 
 テレビの中に映る弐ノ月剣介は前髪を颯爽と掻き上げ押し黙った。そしてマン
トをひるがえすとこう言い放った。
「ボクは神だ」












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