AWC そろそろ大人になろうか 10 なつめまこと


        
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★タイトル (BKX     )  97/ 4/29  13:56  (127)
そろそろ大人になろうか 10 なつめまこと
★内容
           バンドやろうぜ

  額田中に着任して一年がたった。スズやんが市立高校へ追い出され、太っ腹
校長は市の中心部にある、生徒が荒れて新聞をにぎわしている中学校へと転任
していった。
「額田中に骨を埋める」なんて親向けの挨拶をして着任したが、管理職の赴任
期間は二年が相場だ。新しい学校の親たちにも同じような嘘をついて次のステ
ップへと進んでいくのだろう。替わって着任した校長は実家が地元の釣具店で、
故郷に錦を飾った形だ。虎之助という名からPTAの役員たちから『トラちゃ
ん』と愛称されている。
  グチャグチャな学年が三年になったので、テッちゃんとヒデさんが助っ人と
して入り、イシカワと生徒指導のお父さんが三年所属から外れた。イシカワは
一年所属の学級担任となり、胃かいようのお父さんは「身体を直して!」とい
うことで組合の執行委員に選出された。体育科の教員は額田中では男二名、女
一名であるが、そのうちヨシダとヒデさんの男二人が三年所属になった。ずい
ぶんとアンバランスであるが、「当座さえよければ」というのがこの世界の習
いである。
  生活指導部長のポジションを買ってでたぼくは、二つの取り組みを提案し実
行した。一つは規律の指導を最小限にしぼることだ。全国ネットで報道された
刺傷事件で権威を失墜した教師にとって「太いズボンをはくな」「学校で菓子
を食べるな」「タバコを吸うな」「ものを壊すな」「下級生をいじめるな」等々、
生徒に注意すべきことが多すぎ、またそれらの注意はことごとく無視されてい
た。生意気な生徒らは、信頼していない教師が怒鳴れば怒鳴り返し、殴れば殴
り返してくる。
  ぼくは『授業を成立させる(エスケープさせない)』ことだけに指導の重点
を絞り、他の事柄は全て努力目標ということで事実上無視した。「えらそうに
教師面する前に人間関係を良くしよう。」という発想だ。「この際、くだらな
い校則もなくしてしまえ。」と思いこまごまとした校則を三分の一ぐらいに割
愛した。翌年の末にはヨットハーバーを経営しているPTA会長を抱き込み「ど
んなセーターやトレーナーでも学生服のかわりに着用できる」という制服廃止
に向けた校則改正案を「PTA会長も賛成している。」として職員会議に提案
し、可決させたが、惜しくも「前例がないので勘弁してほしい。」という校長
の拒否権にあって流された。
  もう一つの取り組みは、額田中の生徒に自信をつけさせるために、彼らが唯
一誇りに感じている合唱活動を外に引き出すことである。ぼくは隣接したM市
で合唱が盛んなK中学校と接触を取り、六月に額田中の代表クラスがK中の合
唱コンクールに特別出演し、十一月の額田中の合唱コンクールにK中の代表ク
ラスが参加するというような文化交流を行った。このことはかなりの成果があ
ったので、図に乗ったぼくは、冬休みに次年度の修学旅行の下見のために関西
に行った際、京都市教育委員会から京都市内で合唱の盛んな中学校を紹介して
もらい、「修学旅行時に、学校訪問して合唱交流をはかりたい。」と申し入れ
たが、あまりに唐突な申し入れのためか体よく断られた。ちょっとがっかりし
たぼくは、チャーターしたタクシーでそのまま雄琴温泉に乗り付けて、憂さを
晴らした。
  二学期に入ると、荒れていた生徒も少しずつ大人になって、だんだんとほっ
こりしてくるようになった。そこでテッちゃんは、この年の文化祭で『自由発
表』を復活させたいと提案した『自由発表』とは以前に文化祭の中にあった「出
演するのも自由、見学するのも自由」というイベントで、出し物はバンド演奏
が主体で、そこでは教師も『教員バンド』を結成し、酒をあおって演奏してい
たとか。例の刺傷事件後の自粛ムードの中でその『自由発表』も中止されてい
た。会議の中でテッちゃんは「二年間ろくに指導されずにきた生徒たちの欲求
不満を解消するために、是非ともこの『自由発表』に悪童たちを取り組ませた
い。」と主張した。「バンド演奏?」と腹の中でいぶかる者もいたが、他に生
徒を治める代案もないので「反対」と口にする者も出ず、彼の提案は了承され
た。ぼく自身は教員になった当初から「いつか有名になろうぜ」と教え子たち
を挑発していて、いつの日か不良たちを集めて『ウッドストック』をやりたい
と思っていたので、真っ先に賛成し、その後転勤するまでディレクター役を毎
年やり続けた。
  九月末の体育祭が終わると、何人かの生徒たちは十一月上旬の文化祭『自由発表』
目指して、放課後にバンドの練習を始めるようになった。楽器などはどうするのか心
配したが、彼らは先輩たちから借り集め、「ギターなどを買い込んで無駄づかいして
いる。」などという苦情は一件もなかった。また男子生徒より女子生徒の方が積極的
にグループを結成して活動していた。生徒の技術指導はテッちゃん、マッちゃん、そ
してこの年に着任したオカやんがあたった。オカやんはマッちゃんと高校が同期で、
二つの大学を卒業し、美術と社会の教員免許を持っている。またアマチュアオーケス
トラでベーシストとして活動している多才な人間だ。しかし繊細な人間の特性か、ケ
ンカに弱そうでイシカワと同様、悪ガキによくいじめられている。それでも彼がイシ
カワと違うところは、芸術的な自分の世界をしっかり持っていて、生徒にバカにされ
ても、全く傷つかないで飄々としていられることだ。そのへんはだてに歳を重ねてい
ない。  夕方七時に渋る生徒を追い出して、われら教員バンドがビールを飲みながら
練習を始める。わがままな人間が集まっているのでなかなか曲目やパートが決まらな
かったが、生徒の前でイイカッコしたいという欲望は共通しているので、本番五日前
ぐらいには形が整ってきた

      教員バンド『品行方正楽団』演奏曲目

    一  「大黄河」のテーマ
    二  「品行方正な教師たち」
    三  「海、その愛」
    四  「シェリー」
    五  「セイリング」
    六  「リフレインが叫んでいる」
    七  「勝手にシンドバッド」
    八  「悲しい気持ち」
    九  「リンダリンダ」

  パートポジションはテッちゃんがギター、オカやんがベース、ドラムスがマッちゃ
ん、キーボードがマリちゃんとイシカワ、メインボーカルがキンニクマンヨシダ、ぼ
くはオカリナを吹いた。
  「大黄河」のテーマは、ぼくが学生の頃、尺八を習っていたので、オカリナの替わ
りに尺八でやろうと思ったが、いかんせん他の楽器とミスマッチなので急遽オカリナ
を買ってきて必死になって練習をした。
  「品行方正な教師たち」は、ぼくが十代の頃熱中していたフォーク歌手の三上寛の
スタイルを借りて、自分で作詞作曲してみた。伴奏はテッちゃんのアコースティック
ギターとオカやんのウッドベース。歌詞は次のとうり。

      品行方正な教師たち

  品行方正な先生方が  真面目でお利口な少年少女たちと
  愛情たっぷりなお母さん方へ  パンクロックを贈る

  「うちの子供だけをよろしく」という  身勝手な親たちの期待に
  百点満点の笑顔で  「おまかせあれ」と嘘つく
  品行方正な先生方が  自信たっぷりの歩調で
  今日も学校の廊下を歩く

  夜の夜中の職員室で  電気代も気にせず灯りつけ
  品行方正な先生方が  恋をしなけりゃ遊びもせずに
  今日も明日も  明日も今日も
  訳のわからぬ仕事して
  いつの間にやら三十過ぎて  心は若いが身体は重い
  品行方正な先生方が  今日も若々しくジャージを穿いて
  元気いっぱいにラジオ体操をする

  世間知らずの女子学生が  ある日突然「先生」と呼ばれ
  「なめられてたまるか」と目一杯武装して
  地味だか派手だか分からぬ格好をして
  「弱さとずるさ」という女の武器も忘れ
  あっという間に三年が経つ
  「こりゃヤバイ」と気がついた  品行方正な女教師たちは
  ハーレクイーンロマンス片手に  世界中のリゾート地へと
  パックツァーで今日も行く

  品行方正なオトコ教師と  品行方正なオンナ教師が
  本当にめでたく結ばれて  登校拒否の子供たちが
  ワンサカワンサ  ワンサカワンサ  育っていく





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