AWC 護田鳥の春 5   永山


        
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★タイトル (AZA     )  97/ 4/19  14: 4  (198)
護田鳥の春 5   永山
★内容
「起きたわ」
 和久井の視線の方へ、田守も振り返った。
 児島美香が、目をこすり、それから両手を突っ張って、身体を起こすところ
である。
「とりあえず、よかった。と言いたいんですが、僕は子供が苦手なので、相手、
和久井さんにお願いします」
「私だって苦手よ。子供、好きじゃない」
 言い合う二人を、子供が不思議そうに見返してくる。
「……おじさんとおねえさん、顔が変わった」
「−−え?」
 美香の、からからに乾いた声を耳にし、そしてその内容に意を留める。
「ど、どういう意味かしら」
 おっかなびっくりという表現がぴたりと当てはまる態度で、和久井が尋ねる。
その様を、田守はおかしく思った。
「……私ね、さらわれてたの。茶色い髪の黒眼鏡のおねえさんと、大きな身体
の黒眼鏡のおじさんに。でも、その人達がいない。あ! 部屋も違う」
 天井を見上げ、きょときょとする美香。その拍子に、かけていたタオルケッ
トがずり落ちた。
「最初に、確かめさせてくれるかな」
 田守も意を決し、身を乗り出してから、口を開く。
「君のお名前、児島美香ちゃんでいいんだよね?」
「そうだよ。どうして知ってるの?」
「ああ、手提げ鞄の中にあった教科書とかノートを見させてもらったんだ。名
前が書いてあった。あ、ごめんな。勝手に見て」
「ううん。別にいい」
「それで、美香ちゃんは、こんな時間まで、どこでどうしていたのか、僕達に
教えてくれないか」
「……おじさん達、あの人達の仲間じゃないの?」
 じっと見返してくるのへ、田守は胸を張って応じた。
「さっき君が言った黒眼鏡の? さあ、僕らは知らないなあ。美香ちゃんは、
その黒眼鏡の二人組と、どういう風にして知り合ったんだい?」
「だから、さらわれたの」
「えっと、それは、小学校からの帰りだね?」
「そう。車に乗ってる女の人に道を聞かれて、教えようとしたらつかまえられ
たの」
「それから、どうなった?」
「分かんない。口にガムテープ張られて、目隠しされて、どんどん車は行っち
ゃって。……凄く恐かった」
 涙声になったのを見て、調子よく話していた田守も、ちょっと焦る。
「ああ、もう大丈夫だよ。僕らはそんなんじゃないから。どこかに連れて行か
れたあと、どうなったの?」
「電話番号と名前を聞かれた。教えると、男の人の方が出て行って、私は眠っ
ちゃったみたい」
「ふうん」
 うなずきながら、和久井へと向き直る。彼女もまた小さくうなずき、真剣な
顔つきをしていた。
「その誘拐犯は、どうして君を放してくれたんだろう?」
「多分ねえ……私がご飯を食べなかったから」
「何?」
「起きてから、女の人がどこかで買ってきたお弁当を持って来た。食べなさい
って言ったけど、お父さんやお母さんに食べちゃだめだって言われてるから、
私、食べなかった。初めは女の人も笑っていたけど、私が絶対に食べないでい
たら、怒って……叩かれた、ほっぺたを。お、男の人も凄い声で怒鳴って」
 また泣きそうになる相手を、そっと引き寄せ、頭をなでた田守。慣れないせ
いで、どうにもぎこちない手つきだが、しないよりましだろうと判断する。
「もう平気だ。恐い目にはもう遭わない。それから?」
「あのね、女の人が『おまえに何かあったら、私達が困るんだよ』とか言って、
無理矢理食べさせようとしてきたの。私の口を無理矢理開けて、押し込んでき
た。吐き出そうとしたけどできなくて、気を失ったみたい」
 ここまで聞いて、田守はふと奇妙さを感じ取った。
「ちょっと待ってて」
 言い置いて、和久井へ近寄り、声を潜める。
「どう思います?」
「話自体は本当ね。あの子が気を失ってから、手に負えないと感じた犯人達は、
改めて薬を与えた後、私達が乗った車の前に子供を突き飛ばした」
 言葉を区切り、唇をなめる和久井。
「ただ、あの子、どうしてそこまで食べたがらなかったのか。それが不思議だ
わ。いくら、知らない人から物をもらうなと親に言われてたとしても」
「和久井さん。そうじゃないと思う」
「え?」
「あの子は、いや、少なくともあの子の親は、FFF作物に反対する団体か何
かに入っているんじゃないかな」
「……なるほどね」
 和久井は心持ち首を伸ばし、美香を見やった。
「そういう子を私達が拾ったなんて、運命は皮肉だわ」
「僕、何日か前に聞いたんですよ。ジャーナリストとかいう人種の相手をして
いて」
「へえ?」
「例の、護田の鳥教団が、一切FFF作物を口にしない子供達を育て、ある実
験をしようとしているそうです。あの子がそれかどうかは分かりませんが、世
の中にはそういう考え方を持つ大人もいるってことですよ」
「やれやれだわ。どうする?」
 言葉に合わせるように、和久井は大きくため息をつき、肩をすくめた。
「どうするって?」
「どうやら警察は絡んでないみたいだから、あの子を直接親元へ帰したとする
でしょ。私達のことを怪しむでしょうね。どこで何をやっているのかを聞かれ
て、嘘をつく訳にも行かないし。で、FFF作物を作っている人間だと知った
ら、もう犯人扱い間違いないわね」
「ああ、そういうことですか」
 うなずき、髪をかき上げた田守の耳に、美香の小さな声が届く。
「お腹空いた……」
 見れば、少女の喉元が動くのが分かった。
「和久井さん、どうする?」
「どうするって……ここには元々の自然食品なんて、置いてないわよ」
「そうですよね。買ってにFFF作物を食べさせたら、あとで何て抗議される
か分からない」
「水だけは昔ながらの水道水で、FFFは関係してないけど」
「ともかく、確かめます」
 田守は立ち上がり、少女に問うた。
「待たせちゃったね。ねえ、美香ちゃん。もしかしたら美香ちゃんは、FFF
の食べ物を口にするなと両親から言われているのかな?」
 美香は黙ってうなずいた。
「やっぱりそうか。悪いんだけど、ここには今、FFFの食品しかないんだ」
「仕方ないよ」
 少女の言葉に、田守は、この子も事情を分かっているのかと驚かされた。か
すかな動揺を隠しつつ、重ねて聞く。
「水はどう?」
「大丈夫。水はいいって」
「飲むかい? 喉も乾いてるんじゃないか?」
「うん」
 田守はソファから飛び降りた美香を和久井に任せた。
「ねえ、田守君」
「何ですか?」
「人工甘味料って、うちが絡んでるんだっけ?」
「えっと……いや、関係ないですよ。砂糖の方だけです」
「よし。ダイエット用のをあげよう。美香ちゃん、甘い水の方がいいわよね?」
「うん!」
 少女の声に、元気が戻りつつあるようだった。

 やがて深夜を迎えようかという時刻だったが、車を走らせる田守に眠気はな
かった。
(ばれたら、減給処分かな)
 助手席に置いたプラスチックのケースを見やる。街路灯に照らされ、黄色く
光った。
 その中身は、FFFの技術が一切加わっていない『自然食品』。FFF作物
との比較用に、遺伝子作物研究所で冷凍保管されているものだ。無論、数は多
いとは言えず、貴重な物。
(くそっ。ほんと、面倒に巻き込まれたもんだ)
 アクセルを踏み込んだ。

〜〜〜

 たねは まかれた
 でも めぶかない
 ほしのだいちが やんでいる


    田守耕作 タモリコウサク 人 枯れ地Vストロベリー護田の鳥教団

和久井義子 ワクイヨシコ     は 生理異常N−5遺伝子作物研究所因

      弓削敏樹 ユゲトシキ や 果関係、証明されずリアルライス食

禰津竜也 ネヅタツヤ       が 糧難人間が卵から? そいつはいい


           たねは まかれた
           さあ うまれよう
           あくまのちから かりてでも


      李相乾 リーサンコン て ねえ! FFF(ファンタスティッ

児島美香 コジマミカ       生 ク フーズ ファクトリー)妊娠二

    妹尾毅彦 セノオタケヒコ ま 十五ヶ月Sウィート誘拐カルシウム

児島みさお コジマミサオ     れ 片に覆われた赤ん坊ナチュラル・プ


           ことりがはこんだみどりたち
           かがくがつくったみどりたち
         いいゆめみるには どちらをえらぼう? 
           めざめがこない とわのゆめ


     宇留野薫 ウルノカオル な ロジェクト稲をくわえた小鳥のシン

児島達郎 コジマタツロウ     く ボル一人でも正常な人間がいれば、

      森りえ子 モリリエコ な みんな助かるんだからね親離れ『ト

日岡京太郎 ヒオカキョウタロウ  る ロッコ』冷凍保存された精子食べて


                      たねは まかれた
                      さあ うまれよう
                      あくまのちから かりてでも

〜〜〜

「うまく持ち出せましたよ」
 中へ呼びかけながら、田守は靴を脱いだ。
 そして和久井の姿を探し、上がり込む。
「何とか料理してみましょう……」
 反応がないことに気付いた。
「−−和久井さん?」
 短く叫んだ田守。
 言い知れぬ不安感と違和感が、背中の辺りからわき起こる。
 小脇に抱えていたケースをテーブルに起き、リビングからキッチン、バスル
ームや寝室までも覗いて回ったが、和久井義子の姿はない。美香も見当たらな
かった。
 荒らされた様子は−−少なくとも表面上−−、どこにも見つけられない。
「どうなってるんだ……?」
 立ち尽くす田守は、唇を噛みしめ、沈黙した。
 蛍光灯の明かりが、やけに白かった。

−−了.続きは『護田鳥の夏』にて




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