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ベツレヘム777 第2話 リーベルG
★内容
シャトルは、だだっ広いプラットフォームの真ん中に誘導され、羽根が落ち
るような静かさで着床した。
「タッチダウン」ジャーランがほっとため息をついた。「やれやれ、言わなか
ったけど、内心ひやひやしてたわ。なにしろ、三十年も昔の管制システムでし
ょ。こっちのOSが、フォーマットを理解できるかどうか不安だったんだけど、
ベーシック手順は変わってなかったみたい」
「無事に着いたんだから、細かいことはどうでもいいわよ」サオリは外部の映
像を苛々と切り替えながら唸った。「それより、どうして、ここには他に船が
ないのよ。こんなに広いプラットフォームなのに、がらーんとしてるなんて」
「このステーションが放棄されるときに、一緒に持っていったんでしょ」サニ
ルが答えた。「やっぱり人間は残ってないみたいだね」
「残ってちゃ困るわよ。見つかって<ジブラルタル>に連絡されたら、ここに
いるのがばれちゃうじゃない。ホントにだれもいないんでしょうね?」
「たぶんね」
「たぶんですって?」サオリはたちまち眉を逆立てた。「あたしはね、何が嫌
いって言って、『たぶん』とか『おそらく』とか『きっと』とか言われるのが
一番嫌いなのよ。調べる方法はないの?」
「あると思うよ、たぶ……い、いや、あるよ、ある」サニルは慌ててデータパ
ッドに指を走らせた。「<ベツレヘム>のステーション統括OSにアクセスで
きれば……」
「ここのユーザアカウントなんて、誰も知らないわよ」ジャーランが疑わしそ
うに口をはさんだ。
「わかってるよ」サニルはむっとした顔で、幼なじみを睨んだ。「なにもステ
ーションOSのシステムレベルコマンドを使おうってんじゃない。現在の人数
を知りたいだけなんだから。それぐらいの情報は、どのステーションだって公
開してるし、ゲストユーザレベルでもクエリーできるはずだよ」
「30年前にそういう規定というか習慣があったかどうかなんて、わからない
じゃないの」
「OSのベーシック手順に変化がないっていったのは、ジャーラン自身じゃな
いか!」
「あれは管制システム部分のOSのことよ。ステーション統括OSはまた別の
話よ。第一、ゲストユーザでログインするって言っても、インターフェイスが
分からないじゃない」
二人の言い争いは、サオリが短い忍耐のストックを切らしたために、中断さ
せられた。
「あんたたち、うるさいわよ!何でもいいから、さっさとやりなさい。時間は
無尽蔵にあるわけじゃないのよ!全くもう。少しはあたしを見習って余計な口
を開かないでいることはできないの?っとに、二人ともガキなんだから」
サニルとジャーランは、そろって不満そうな表情を浮かべたが、どちらも何
も言おうとしなかった。下手にサオリに反駁することは、大抵の場合、事態を
収束させるどころか、逆に混沌へと導く結果になるからだ。
「と、とにかくさ」サニルが慌ててエントリーを再開した。「最初に標準イン
ターフェイスでやってみようよ。どっちみち、このシャトルで使えるやつなん
て、それぐらいしかないんだから」
「そうね」ジャーランも同意した。「5世代分のバックアップがアーカイブに
残ってるから、そこからできるだけ古いのをロードして使おう」
「うん。じゃあ、ロード頼むね。ぼくはプロトコル変換モジュールにパラメー
タセットするから」
「わかった。データベースに疑似バージョンぶつけりゃなんとかなるわ」
「パケット単位は72から始めてみよう」
「ダイナミックドメインはBスラッシュ74コンマ9」
サオリは、自分たちの世界に没頭していく二人を面白くなさそうな顔で見て
いたが、すぐに飽きてしまい、さっきから黙ってディスプレイの一つを凝視し
ているカーティスに声をかけた。
「まあ、やっぱりどんなに優秀なスペシャリストでも、有能な指導者がいてこ
そ最大限に効果が発揮できるってもんよね。だからあたしは、システム技術課
程なんか選択しなかったし……ちょっと聞いてる?」
「いいえ」
サオリは反射的に立腹しようとしたが、カーティスの様子を見て眉をひそめ
た。
「どうかしたの?」
カーティスはディスプレイから顔を上げ、躊躇った後に言った。
「お嬢さん。ほんとにここを探検するつもりですか?」
「あったりまえじゃない。それが目的でここに来たんだから」
「家出するなら、<ジブラルタル>の中でもよかったじゃありませんか。8つ
のアネックス・モジュールと18の農場モジュール。隠れる場所はどこにでも
あるでしょうに」
「いくら広いって言ったって、所詮コロニーの中よ。母さんが本気になれば、
一時間で見つかっちゃうわよ。そんなんじゃ、家出にならないでしょ」
「市長の何が気に入らないんですか。歴代の市長の中では、最も有能で責任感
のある市長として市民の評判もいいし、一人の女性としても、一人の母親とし
ても申し分ないと思いますが」
「だからって、あたしを四日間も部屋に監禁していい理由はないわ」
「ドラッグパーティなんかに行く方がいけないんです」
「行ったんじゃないわよ」サオリは胸を張った。「あたしが企画・実行したの
よ。会費激安、時間制限なし、トリップし放題」
「ご自分の指導力を示したいのなら、もっと別の方法があるでしょうに」嘆か
わしげに首を振ったカーティスは、ふと鋭い両目に好奇心の光を走らせた。「
ところで、なんのドラッグを使ったんですか?」
「ジュリエットピンクと4リーフよ」サオリはにやりと笑った。「まだ残って
るわよ。欲しい?」
「結構です。リーフなんかキメてちゃ、ガードなどできませんからね」
「副作用も習慣性もないわよ。それに合法的だし。宗教に走るよりはマシでし
ょ」
「非合法でなくても、非道徳的であることは確かでしょう。グレイヴィル市長
が怒るのも当然ですよ」
「母さんだって、やったことあるに決まってるわよ。そんなことより、話をそ
らさないで。外に何か見えたの?」
「ええ。実は、何かが動くのが見えたんです」
「どこに?」
サオリはディスプレイをのぞきこんだ。シャトルの外部カメラからの映像で、
プラットフォームの一角が映っている。カーティスの指が伸びて、隅の方にあ
るハッチを突いた。
「このハッチ、進入したときには確かに開いていたのに、今は閉じています」
「小さいハッチねえ。人間は通れそうにないわよ」
「メンテナンサー用のサービスハッチでしょう」
「別に不思議はないじゃない」サオリは興味をなくしたように言った。「エネ
ルギーが供給されててOSも生きてるなら、ロボットぐらい動き回ってても。
それが動いてたのを見たんでしょ」
「そうかもしれませんが……」
「なによ。何が気になるのよ」
「ばかげて聞こえるかもしれませんが……」カーティスは囁くような小声にな
った。「子供が四つん這いで歩いていたように見えたんです」
サオリは唖然となってカーティスの顔を見た。驚いたというよりも、呆れた
といいたげな視線だった。
「ほんとにばかげて聞こえるわよ」
カーティスが何か答えようと口を開いたが、それを制するようにジャーラン
が声をあげた。
「アクセスできたわ!データパケットが来てる!」
つづく