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★タイトル (BKX ) 97/ 2/19 22:24 ( 50)
そろそろ大人になろうか 4
★内容
登校拒否を直そう
ノイローゼになって学校に来れなくなったイシカワは間の悪い男で、昨年教
員採用試験に受かり、生徒の質も良く落ち着いている学校への配属が決まって
いながら大学の単位を一つ取り損ねたために留年し、今年採用試験を受け直し
て額田中に配属された。ボンボン育ちの彼を田舎の悪ガキたちは大いに振り回
し、約二ヶ月でダウンとなった。そんなイシカワも七月末の職員慰安旅行には
参加し、「二百万貯金したら結婚する。」だの「女は包丁三本使いこなせなき
ゃダメだ。」だの異様な明るさだった。九月からは仕事にも復帰できた。旅行
の時の明るさはすぐに消えたが…。
「人助け?」が趣味のぼくは、彼の心を鍛えるためにムラさんを隊長とした登
山パーティを結成し、「敬老の日」前後の連休を利用して北アルプスへのリハ
ビリ登山を行った。パーティ名は「額田解放教わがままクラブ」。隊長ムラさ
んの他、スズやん、テッちゃん、イシカワそしてぼくが隊員である。「額田解
放教」とは、当時ニューエイジ思想に凝っていたぼくが作ったミニ宗教団体で
ある。約三ヶ月で自然消滅したが、そのアウトラインを次章に記しておく。(な
ぜ消滅したかというと、スズかんの奥さんが入会申込みをしてきたので、ぼく
がビビッてしまったからである。)
一九八五年九月十五日、白馬岳の大雪渓の真ん中を異様な男たちがかけ声を
かけながらアイゼンも付けずに登っていく。
「オレたちゃヌカーダカイホーキョー。ノイローゼなんか怖くない。お山の天
気は快晴だ。あ、それ、ワン、ツー、ワン、ツー、スリー、フォー、オレたち
ゃヌカーダカイホーキョー。−−−−」
雪渓の脇を黙々と登っていく登山者たちは、場違いの躁病者たちを白い目で
見守っている。ぼくら「額田解放教わがままクラブ」は本来慎重であるべき雪
渓をハイピッチで登り、疲れると雪の上で下界を見下ろしながらビールを飲ん
だ。
「ご隠居、下の方からえらくめんこい娘が登って来ますぜ。」とテッちゃんが
枕を振れば、ムラさんがすぐに受ける。
「これ、八兵衛。おまえは食いしん坊だけでなく女にも目がないのう。弥七、
あの娘をちょっと連れてきなさい。」
そこでぼくが、「お代官様、お代官様もなかなかのワルですなぁ。」と言う
と、ムラさん、「何を申す、上州屋。おまえほどでもないわ。これ、娘。おと
なしく言うことを聞け。騒いでも誰も来ぬわ。」てな具合で即興の水戸黄門が
演じられたり、「むかーし、昔。ある村にイシカワというおそろしく女好きな
男がおったそうな。」と日本昔話が語られたりする。
そんなばか話をしながら、ぼくらはほろ酔い気分で大雪渓を軽く登りきった
が、白馬岳山頂に近づくにつれ気圧のせいかアルコールのせいか頭痛やめまい
に襲われ、最後は這いずるようにして山頂小屋にたどり着いた。それでも翌朝
のご来光は美しく、惑星的景観として隊員一同感動をもって迎えることができ
た。
この旅行でイシカワは実力ある同僚の友達ができ、登校拒否からは立ち直る
ことができたが、別の蟻地獄に落ちることになる。ぼくとテッちゃんとイシカ
ワは毎晩のように飲み歩き、一年半後、イシカワが工業高校に転出するまで三
人の月給のほとんどが飲食費となり、ぼくの体重は一冬で五キロ、イシカワの
体重は十キロ増加した。(テッちゃんは一日三回食後すぐ排泄するので太らな
い)
またイシカワのプライバシーはすべて酒の肴になり、悪い先輩にしゃぶり尽
くされた。その内容は別の章に譲る。
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