AWC うちの文芸部でやってること 3−15  永山


        
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うちの文芸部でやってること 3−15  永山
★内容


8・魔剣、金の魔神を食らう

「なあ、五人いっぺんに乗るなんて大丈夫なんか?」
 レブノスが不安げに聞く。
 五人は洞窟の入口から、最初に彼等の出会った場所に風の魔道で戻って来て
いた。
 もし、ここから一気に封印の地、すなわち百年前の勇者達が金の魔神の本体
を封印したトゥアーザ山の麓に向かった場合、体力の消耗が激しそうだと思わ
れたのだ。そこで、クレスタ達が乗ってきた「鳳凰の翼」を使うことになった
のだ。「鳳凰の翼」は魔道を扱う者なら誰でも操縦出来るのだが、やはりここ
は本職ということで、コトリンが輝光石の据えられた操縦席に座っていた。
「今更そんなこと言ってもしょうがないでしょう! 嫌ならここに残ってもい
いのよ!」
 コトリンが腹を立てて言う。今まで見たこともない「鳳凰の翼」の操縦席に
座り、輝光石を前に緊張し、神経質になっているのだ。
「しゃあねえ、分かったよ。どうにでも好きにしてくれ」
 レブノスがぶっきらぼうに言う。
「おい、そんなこと言ってると、あとで後悔するぜ」
 クリバックがくそ真面目な顔をして言う。
「じゃあ、行くわよ。風の魔神よ−−」
 コトリンが意識を集中させ始めた。輝光石の輝きが増し、「鳳凰の翼」の周
囲を包み始めた。空気が機体の周囲に渦巻き始め、一瞬の衝撃の後、「鳳凰の
翼」は宙に浮かんでいた。
「さあ行こう! 封印の地・トゥアーザへ」
 クレスタが高らかに宣言する。

 その頃、エタンダールは、ディンキオの王宮に現れていた。陽の魔道である
長距離空間転移は一瞬にして場所を移動出来るものの、行ったことのない場所
に行くのは大変難しかった。この魔道は、目的地の光景をありありと脳裏に浮
かべる必要があったからだ。彼の父・ガゼルもその特質のために失敗したと言
っていい。エタンダールは今の今まで本体の封印に関して失念していたぐらい
だから、当然ながらトゥアーザに足を運んだことは、今まで一度もなかった。
 そこで一旦王宮に戻って来たのだ。王宮には「風の船」がある。それを使っ
てトゥアーザに向かおうと考えたのだ。
 しかし、王宮の裏手にある「風の船」の風港には、ホーカム皇子と、戦意充
分の騎士達が待ち構えていた。
「これは……」
 エタンダールがさすがにうろたえる。
「俺をあの島で殺し損なったのは失敗だったようだな!」
 ホーカムが叫ぶ。
「何を言うか、この若造めが」
 エタンダールはそう吐き捨て、攻撃魔道の構えに入った。周囲の魔道士達も
戦いに備える。だが、既に三人の有力な攻撃魔道の使い手を失っているエタン
ダール達には、かなり分の悪い戦いになりそうだった。
 いや、この時点で既に、彼等の命運は尽きていたのだ。ホーカムが口の端を
曲げる。
「うかつな奴め、金の魔神の復活に心を奪われるあまり、周りのことに気がま
わらなくなったと見える」
 ホーカムがあざけりの言葉をエタンダールにぶつけた。
「何だと……」
 エタンダールは周りを見回し、愕然となった。彼等を中心に、強力な結界が
張り巡らされていたのだ。
「帝国中から、貴様に従わなかった魔道士達を集めてきたのだ。例え実力的に
は貴様等に叶わぬ若者とはいえ、この結界は容易に破れまい!」
「おのれ、ホーカム! 計ったか」
 ホーカムが剣を抜き放ち、真上に振りかざした。
「帝国に弓引く者がどうなるか、身を持って知るがよい。者共、かかれーっ!」
 ホーカムが剣を振り降ろすと同時に、エタンダール達の周囲を取り囲んでい
た騎士達が一斉に襲いかかった。魔道の使えぬ魔道士達に反撃の術はなかった。
エタンダールをかばうようにしながら、たちまち斬り殺されていく。
「覚悟!」
 エタンダールが最後の瞬間に見たものは、凄まじい形相のホーカムが振り降
ろした剣の輝きだった。

「勝ったぞ! これで金の魔神の復活は阻止された!」
 ホーカムが血糊の付いた剣をふりかざし、騎士達に大声で言った。その言葉
に騎士達が歓声をあげる。
 ホーカムは自分の幸運に感謝していた。一度はエタンダール配下の風の魔道
士に倒されそうになったところを、彼等を「風の船」で運んだ風の魔道士が危
ないところを救ってくれたのだ。
 そして意気消沈して王宮に帰還したホーカムを、予知魔道の使い手である星
の魔道士が出迎え、「エタンダールはここに戻ってくる」と教えてくれたのだ。
 その結果、見事にエタンダールを討ち取ることが出来た。一度被った敗者の
汚名は、今や完全に消えた。多大な損害を払ったが、金の魔神を復活させよう
とした魔道士は討たれたのだ。
 ただ、彼には一つ気になることがあった。
「聖騎士団団長・クレスタは今、どこで油を売っているのだ?」

 「鳳凰の翼」は、さすがに本職がが扱っているだけあり、レブノスが操縦し
ていたときよりも遥かに滑らかな飛行を続け、トゥアーザの方角に真っ直ぐに、
一刻ほど飛び続けた。
 そしてクリバック達はついに、金の魔神が封印されている地に降り立った。
ここには、かつては何もなく、ごつごつした岩肌が広がるだけのところだった
が、今では金の魔神を祭った豪壮な神殿が建てられている。もっとも、金の魔
神のたたりを恐れて作られたこの神殿は、守る者も、参拝する者もおらず、荒
れ放題になっていた。空は曇り始めており、何となくうそ寒い雰囲気が神殿中
に満ちていた。
 神殿内に入ったクリバック達だが、そこには人の気配が感じられなかった。
「エタンダール達はどうしたんだ?」
 神殿内を走り回り、魔道士を捜していたスウェルドが、「鳳凰の翼」が着陸
した石畳の広場に戻ってきて言った。
「どうやら、先回り出来たらしいな」
 クレスタは周囲に視線を送ったままで言った。
「何でだろう?」
「エタンダール様は、あのとき長距離空間転移をお使いになったわ。あの魔道
は、基本的には一度自分が行った場所に行くときには便利だけど、初めての場
所に行くのはとても難しいの。ガゼル様も、それで失敗して……」
 コトリンがうつむきながら言う。
「じゃあ、連中はどこに?」
 クリバックが聞く。
「たぶん、王宮に一度戻ったんだろう。宰相は、ほとんど王宮の外に出ること
はなかったからな。それから、『風の船』でも使ってここに来るつもりなんだ
ろう」
 クレスタが言う。
「ここに来たことは本当に一度もないのか? 連中は金の魔神を復活させるた
めに、色々と陰で動いていたんだろう?」
「ま、ここにいないんだから、そういうことになるんと違う?」
 レブノスが等間隔に並ぶ石柱の一つにもたれかかりながら言った。
「ここでエタンダールが来るのを待つか」
 クリバックも座れそうな場所を捜す。そのとき、足元から鈍い衝撃が響いて
きた。
「地震かっ?」
[いや、金の魔神の本体の復活だ]
 魔剣が再び声を発する。
「何でだよ! エタンダールはまだここに来ていないのに」
 浮遊して不快な振動から身を避けるスウェルドが聞く。
[魔神の魂は既に復活している。その魂が本体を呼び起こしているのだ]
 魔剣がそう言い終わらない内に、本殿が内側に吸い込まれるように崩れ、そ
の中から闇色の気が放出される。
 その中から、ついに金の魔神が醜悪な姿を現した。大きさは十レードほども
あるだろうか。竜と人間が合成されたような容姿をしており、闇色の鱗の上に、
ご丁寧にも金色の鎧を付けている。
「あーあ、復活しちまった」
 レブノスが剣を抜く。
[いや、あれは金の魔神によって呼び起こされた本体に過ぎぬ。空を見よ]
 五人は金の魔神の頭上を見上げた。地上一ヘレードほどの上空に、闇色の気
が嵐の中心のように渦巻いていた。しかも、その渦はだんだん大きくなって、
降下してくるように見える。
「あれが、金の魔神の魂か」
[そうだ。魂と本体が一つになったときこそ、金の魔神の本当の復活だ]
「どうしたらいいの?」
 コトリンが魔剣に近寄って聞く。
[土の勇者よ。我を使え]
 魔剣が言う。
「土の勇者って、俺のことか?」
 クリバックが、自ら手にしている魔剣に聞き返した。
[その通りだ。そなたは、我が認めし土の勇者。金の魔神の魂を封印出来るの
は、そなたしかいない。そのために、我は魂の封印の地から離れ、そなたと共
にいたのだ]
「それで俺の後ろにずっと浮いていたんだな。それにしても、使えったって、
どうすりゃいいんだよ!」
 クリバックが喚く。
[再び我の中に魔神を封印するのだ]
 魔剣が、感情がこもっているのかいないのかさっぱり分からない口調で(口
なんかないのだが)言った。
「しゃあねえなぁ!」
 クリバックは覚悟を決め、魔剣を構え直した。魔剣が闇色の気を発し始める。
「よっしゃあ! スウェルド、クレスタ、レブノス! 援護を頼むぞ! 金の
魔神の本体をしばらく抑えててくれ」
「任せろ!」
 三人の声が重なる。
「コトリン! 力を借りたい。俺を『鳳凰の翼』で、金の魔神の魂のところま
で運んで欲しい」
「分かったわ」
 コトリンが「鳳凰の翼」の操縦席に飛び乗り、輝光石に呪文を唱え始めた。
クリバックが遅れて後ろに乗り込む。
「行くわよ!」
 コトリンの気合い一閃、「鳳凰の翼」は地面から離れて、まっしぐらに金の
魔神の魂めがけて飛翔する。
 それを見た金の魔神の本体が、手から稲妻を「鳳凰の翼」めがけて発射した。
コトリンは間一髪のところで機体を捻って攻撃をかわしたが、手摺りを掴み損
ねたクリバックは頭をしたたかに打ちつけていた。
「しっかりつかまってないと、振り落とされるわよ!」
 コトリンが血相を変えて振り返り、クリバックに怒鳴る。
「悪い。とにかく急いでくれ。このままじゃあ、『鳳凰の翼』ごと墜っこっち
まうぜ」

「お前の相手は俺達だ!」
 クレスタが、金の魔神の本体に向かって喚いた。それが聞こえたのかどうか、
「鳳凰の翼」を見ていた金の魔神の本体は、首をクレスタ達の方に向けた。
「『炎の牙』!」レブノスが呪文を唱えて剣を振るった。剣の先端から火球が
飛び出す。
 が、金の魔神は「金の盾」と呼ばれる魔道によって空気を振動させて、レブ
ノスの攻撃を防いだ。
 その隙を付いて、クレスタが金の魔神の本体の懐に飛び込んでいた。渾身の
力を込めて剣を左脚に突き刺す。
「グワォオオッ!」
 金の魔神の本体が悲鳴をあげた。しかし次の瞬間には、強烈な左脚の一撃に
よってクレスタを弾き飛ばしていた。
「くっそぉ!」
 五レードばかり弾かれて背中から地面に叩き付けられたクレスタが呻く。
「これならどうだっ!」
 スウェルドが飛び上がって金の魔神の顔面めがけて月水晶の槍を突き出した。
その一撃は金の魔神の右目の下を突いた。再び悲鳴。
「やったか」
 一瞬油断したスウェルドの右横から、金の魔神の左手が振り出されていた。
鈍い音と共にスウェルドは吹っ飛び、崩れかけた石柱の一つにぶつかった。ス
ウェルドは口から血を吐き出し、空を見上げた。
「畜生め! 急いでくれ、クリバック、コトリン……! そう長くは持たない」

「もっと速く!」
 クリバックが怒鳴る。
「慌てないで。もう目の前よ」
 確かにその通りだった。闇色の渦が眼前を覆っている。
「おい、魔剣! これからどうすりゃいいんだ」
 身体を「鳳凰の翼」から乗り出したクリバックが聞く。

3−16に続く




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