AWC うちの文芸部でやってること 3−13  永山


        
#4225/7701 連載
★タイトル (AZA     )  95/ 5/28   9:46  (200)
うちの文芸部でやってること 3−13  永山
★内容
 島は年中、陰気な雲に覆われ、晴れることがない。従って大地を覆う木々も
生命力に溢れた緑色ではなく、どれも灰色がかっている。さらに、魔力が影響
を与えているせいで、奇形化しているのだ。気温・湿度が不快なものでないの
は幸いだったが、クリバック達は薄気味の悪い森の中を突っ切る羽目になった
ことを後悔し始めていた。
「前は、ここまでひどくなかったのに……」
 コトリンが呟く。
「なあ、何もこんなうっとうしいところを歩いていかなくたって、クレスタ達
が乗ってきた、あの『鳳凰の翼』でひとっ飛びすればいいじゃないか。あれは
五人ぐらい乗れるぜ」
 クリバックがうんざりした調子で言う。
「そうもいかないのよ」
 コトリンが悲しげに眉をひそめる。「金の魔神が封印されている洞窟の周囲
には、結界がとびきり強烈にかけられているの。魔道は使えないわ」
「まあ、そうでなくちゃ、エタンダール達は今頃とっくに洞窟にたどり着いて、
金の魔神を復活させているだろうけどな」
 先頭を行くクリバックは、行く手を遮る木を闇曜石の剣で斬り払いながら、
自分を納得させるように言った。魔道士達も自分と同じように道なき道を切り
開きながら進んでいるのかと思うと滑稽だった。魔道が使えないのなら、進む
速度は自分達より遅いはずだ。クリバックはそう考えていた。腕自慢の魔道士
など、聞いたことがない。
「皮肉なもんだな。魔道の総本山で魔道が使えないなんて」
 スウェルドがぼやく。
「なあ、竜騎士さんよ。君の場合は魔道に関係なく飛べるんだろ。それなら、
先にすっ飛んでいってくれないか」
 レブノスが皮肉めかした口調で言う。
「冗談きついよ。俺一人で行っても、何の役にも立ちゃあしない」
 スウェルドは、妙に自信たっぷりに断言した。

 彼等は結局、薄気味悪い森の中で一夜を明かす羽目になった。
「ねえ、あなたはどうして戦うの?」
 木にもたれかかっていたコトリンが、焚火の番をしているクリバックに聞い
た。
「何でって……。まあ、今はこの剣を何とかしたいだけなんだけどな」
 クリバックは、相変わらず彼の背後に浮かぶ魔剣を指差した。
「この島に来れば何か分かると思ったんだが、この調子じゃ、どうにもなりそ
うにないぜ」
 クリバックは焚火の薪をつついた。
「そう……。この島の人の多くは、島の反対側に住んでいるから、話を聞けそ
うにないわねぇ。それにしても、その剣、どっかで見たような気がするんだけ
どなあ……」
 コトリンが自分の頭をコツコツと叩いた。彼女は自覚していないが、わずか
ながら記憶に障害を起こしているのだ。
「それよりも、君はどうするんだよ」
 木の根を枕に横になっていたスウェルドがむくりと起きあがり、コトリンの
方を向いて言った。
「どうするって……」
「だから、俺達と一緒にいていいのかってことだよ。俺達は金の魔神の復活を
阻止するためにここに来たんだから」
 スウェルドは思い詰めたような視線を真っ直ぐにコトリンの風色の瞳に向け
ていた。
「……分からないわ。私、本当は金の魔神を復活させて、この島を元に戻した
いんだけど」
「そんなことをすれば、大陸はどうなる。百年前の悪夢を甦らせる訳にはいか
ん!」
 クレスタが鋭い声を発し、コトリンはビクリと背筋を震わせた。
「まあまあ、落ち着いて」
 スウェルドが取りなす。
「そうよね。大陸をめちゃくちゃにしてグリミーカを救っても、仕方ないわよ
ね……」
 コトリンは自分に言い聞かせるように呟いた。
「なあ、コトリン」
 スウェルドが何か言いかけた。そのとき、レブノスの豪快ないびきが邪魔を
した。
「こいつだけは、何を考えているのかさっぱり分からん」
 クレスタが憮然とした表情でレブノスの寝顔を睨みつけた。
 それを見たコトリンがわずかに微笑んだのを、スウェルドは見逃さなかった。


7・金の魔神、魂を甦らす

 クリバック達五人は、太陽が昇るのも待ち遠しく、早朝に出発した。そして
可能な限り道を急ぎ、昼前には洞窟の入口がある、少し開けた場所にたどり着
いた。
 彼等にとって意外だったのは、洞窟の入口前に、竜巻に全身を包んだ男が地
上三レードほどの位置に浮かんでいたことだ。
「我は風の魔道士・ラファール! 貴様等も我等が悲願を邪魔だてする気か」
「じゃかましい! 叩っきってやる。お前は前々から気に食わなかったんだ」
 レブノスが吠える。
「ならば、小賢しい騎士共と同様、あの世に送ってくれるわ!」
「こいつが、あの騎士達を……。よし、俺が行く!」
 クリバックが地面を蹴り、闇曜石の剣を構えて突進した。ラファールが両手
を腰の横に構える。
「風の魔神よ、我が元に来たりてその力を示せぃ! ザン・ルブル・ゲッティ
ア!」
「危ない! 『風の刃』よ!」
 コトリンが叫ぶ。しかしその忠告は遅かった。「風の刃」−−雲色の気の固
まりがクリバックめがけて突っ込んできた。
「うぐっ!」
 クリバックはそれを剣で受けた。しかし、衝撃が両腕を通じて全身を駆け抜
け、ついに剣がポッキリと折れ、真後ろに弾き飛ばされた。皮鎧を身に着けて
いなければ、身体が真っ二つになっていたところだった。
「ちきしょうめ!」
 クリバックが呻きながら身体を起こす。ほとんど無意識のうちに、背後に浮
遊していた魔剣の柄を握っていた。びっくりするほど手になじむ。
「コトリン、これはどういうことだ。奴は魔道を使っているぞ」
 クレスタは水晶の細剣を構えてラファールの顔を睨みつけたまま、後ろにい
るコトリンに早口で聞いた。
「結界がほとんど解かれているんだわ。まずいわ、そろそろ、封印が……」
 コトリンの顔から血の気が引く。
 それを聞いたクレスタはいまいましげに顔を歪めるとラファールに斬りかか
った。しかし、ラファールは空へと逃れた。
「おのれっ!」
 クレスタはぎりぎりと歯ぎしりするが、どうにもならない。
「ようし、今度は俺が相手だ! コトリン、援護してくれ」
 スウェルドが月水晶の槍を構える。
「……分かったわ。炎の魔神よ、我が元に来たりてその力を示せ! ヴァル・
ランズ・スレブ! 『炎の槍』!」
 コトリンの左手の人差し指にはめられた炎色の指輪の輝きが数十倍に高まっ
た。それを振りかざすと、炎の柱がラファールめがけて伸びていく。
「その程度の攻撃で俺を倒せるかぁ!」
 ラファールの周囲を包んだ風の勢いが強まり、「炎の槍」を弾き返した。
「隙あり!」
 次の瞬間、ラファールの頭上からスウェルドの槍が突き出されていた。
「なにぃ!」
 天を仰いだラファールの胸に、月水晶の槍が深々と突き刺さっていた。
「おのれっ……! 貴様等ごときに」
 ラファールが声を絞り出す。竜巻が消え、彼は地面に仰向けに倒れ込んだ。
「空を飛べるのは、あんたの専売特許という訳じゃないんでね」
 槍を引き抜きながらスウェルドが言った。特に感慨は湧かない。人を殺すの
はこれが最初ではないし、恐らく最後でもない。スウェルドはそう思った。そ
゚゚ういう時代なのだ。
「これから、この魔剣が俺の武器か」
 クリバックが手にした魔剣を見て溜め息をつく。
「さあ、急ごう。封印が凅ネゥれたら大変だ」
 クレスタが手をパンと叩き、洞窟を指差した。
「かなわんなあ。天の属性の魔道士がいるんじゃ、俺の出番がねえな、こりゃ」
 レブノスがぼやく。彼は余りこの戦いに乗り気でないものの、活躍の場を奪
われては、いい気はしない。
ウ「あら、そんなことはないわよ」
 洞窟の中に向かって歩き出していたコトリンがくるりと振り返った。わずか
に笑みを見せる。
「子供の頃、万能は無能に等しい、ってよく言われたわ。四つの属性に関する
魔道全ての扱いが中途半端になっちゃうってこと。たぶんあなたの『炎の槍』
の方が威力があるはずよ」
「そんなもんかね」
 レブノスは頭の後ろに両手を組んだまま後に続いた。

 真っ暗な洞窟の中、レブノスが月水晶の大剣を魔道を用いて光らせ、明かり
の代わりにして五人は奥へ奥へと進んだ。
「こんな形で役に立つとはね」
 レブノスは溜め息をつく。
 やがて、奥の方から明かりが漏れ、レブノスの魔道が不要になった。
「エタンダール達か……」
 クリバックが駆け出した。四人が一瞬遅れて後に続く。
 洞窟の終点は、少し開けた空間になっていた。魔道によって、その空間内に
だけは光が満ちている。
 彼等の前を魔道士達が立ちふさがった。
「どけっ、こんなところじゃ、物騒な魔道は使えねえぞっ!」
 クリバックが魔剣の切っ先を魔道士達に向けて怒鳴る。そのとき、魔道士達
の後ろから、静かな声が響いてきた。
「随分と勇敢な若者達だな。だが、もはや戦う必要はない」
 魔道士達が左右に分かれ、エタンダールが前に進み出た。
「エタンダール……様?」
 コトリンがクリバックの前に出た。目の前に立つ魔道士に、九十年前のエタ
ンダールの面影を重ねようと目を細める。だが、琥珀色の瞳以外は、ほとんど
共通点を見い出せなかった。
「そなた、コトリンか?」
 エタンダールの声にわずかながら動揺の色が浮かぶ、何しろ、彼にとっては、
コトリンの顔を見るのは九十年ぶりなのだ。
「次元の隙間に捉えられたと思っていたが……」
「どういう訳か知りませんが、抜け出してこられたのです」
 コトリンは複雑な顔をして言った。
「そうか。コトリンよ、私は、いや、我々はついにやったのだ。封印を解く方
法が見つかったのだよ。私はそれを見つけるのに二十年もかかってしまった。
いや、かの地に渡ってから七十年もの間、私は記憶を失い、帝国の臣下につい
ていたのだ」
 泣きそうな顔をしているコトリンとは対照的に、エタンダールは芝居がかっ
た口調で話し始めた。
「見よ、かの封印を!」
 エタンダールは洞窟の一番奥に据え置かれた、一レード足らずの石製の球を
指差した。その石球の上部には、十クレードほどの切れ目がある。
「あの中に金の魔神は封印されている!」
「確か、でも、金の魔神は剣に封印されているはずでは」
 コトリンはそう言ってから、自分の言葉によって脳裏に電撃が走るのを感じ
ていた。クリバックの剣、あれは……!

「確かにそうだ。だが、より封印を強固なものとするために、我等の先代は、
魔剣からあの石に金の魔神の魂を移されたのだ。以前はあの石球にその魔剣が
突き刺されていたはずだが、今はどこへいったやら」
「その魔剣ってのは、ひょっとしてこれか」
 クリバックが二人の会話に割り込み、手にした剣をエタンダールの鼻先に突
き出す。
 エタンダールは一瞬顔色を変えたが、すぐに元の口調に戻っていた。
「ほお、そんなものを持っている者がおるとはな。だが、もはやそんなものは
何の意味も持たぬ。封印は既に解かれた。今は、鳥が卵からかえる如く、金の
魔神が復活するのを待つだけだ!」
「何だと!」
 クレスタが目を剥き、剣を構える。
「ほお、儂を斬るか。それもよかろう。だが、儂を斬ったところで、金の魔神
の復活は止められぬぞ!」
 エタンダールの言葉に呼応するかのように石球の表面にヒビが入った。その
ヒビは見る間に大きくなっていく。
「見よ! 今こそ金の魔神の復活だ」
 魔道士達からどよめきが起こる。突如、ヒビの隙間から闇色の煙が激しく噴
き出し、その場に居合わせた全員が煙になぎ倒された。
「うわぁ……!」
 悲鳴があちこちで起きる。クリバックは咄嗟に岩にしがみついて耐えた。

3−14に続く




前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE