AWC うちの文芸部でやってること 3−2  永山


        
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★タイトル (AZA     )  95/ 5/28   9:10  (192)
うちの文芸部でやってること 3−2  永山
★内容

 d.肉弾戦の有効性
 ここまで読んだ人の中には、「白刃きらめかせて戦う騎士や戦士の出る幕が
ないのでは」と感じた人もいるかも。しかし、彼等にも活躍の機会が全く無い
訳ではない。何しろ、工場制手工業が普及していなければ、矢や投石弾等の生
産性は極めて低い。従って、前述した間接支援兵器は、割と簡単に弾切れに陥
りやすい。そうなってしまえば後は、騎士や戦士の昔ながらの肉弾戦が再現さ
れるのだ。クルスク戦車戦(一九四三年)においては、互いに砲弾を撃ち尽く
したソ連・ドイツ両軍兵士は、最後には銃剣や拳で殴り合ったという話がある
ぐらいだから。
 また、これに関連するが、分業による大量生産の必要性を訴える軍師がいて
もいいだろう。人殺しの策を授けるだけが軍師ではない筈(経済力の増大は結
局軍事力の増大につながるから、同じか)。

●「思い切った作戦」について
 人間の想像力(創造力)には無限の可能性があるが、その全てを常に発揮出
来る訳ではない。むしろ、ごく一部だけを使って日々を過ごしていると言って
過言ではあるまい。従って、作中に半ば必然として登場してくるであろう「作
戦」も、何かを土台にした上で考えなくてはならない。どんなにつまらないも
のでも、それを無から生み出すのは並大抵の事ではないはずだからだ。

 a.「オランダ要塞」作戦
 参考文献「シミュレーション戦記・第二次世界大戦史5」(ケイブンシャ/
ストラテジック・オフィス編)より。
 オランダの国土の四分の一は海面下にあり、干拓によって地面となっている。
従って、堤防を破壊して海水を流し込めば、敵(具体的にはナチスドイツ)の
侵攻を食い止める事が出来る。
 地形を利用した策、というのは視覚的に判りやすい。言ってみれば策らしい
策という事になる。しかし、漫画等で見られるそれらの策は、崖の上から敵部
隊の頭上に岩を落とす、といった感じの戦術的なものが多い。国土の四分の一
を水浸しにするという、戦略的な策というのはなかなか見られない。また、判
りやすいだけに、読み手にそれほどの感銘を与えないかも知れない。何しろ読
み手は物語世界の地形を全く把握しておらず、いきなりおあつらえ向きの崖や
急流が出てきても興醒めだろう。これはまるで、推理小説において話のクライ
マックスになってから「犯人には実は双子の弟がおり……」などとやるのと同
じだからだ。読み手の意表はうまく突いてやらねばならない。

 b.首都奇襲
 シミュレーションゲーム「大戦略」などをやっていると、ついこの手の作戦
を実行したくなる。ゲームにおける勝利条件は「敵国の首都を占領する」だか
らだ。もしうまくいけば、主力部隊がほとんど交戦する前に決着がつく場合も
ある(大抵うまくいかないが)。
 物語世界においては飛行機や飛行船が登場する訳だから、それらを使って首
都奇襲(強襲)を行うのは不可能ではない。飛行船からの落下傘部隊降下、と
いった感じで。
 しかし、これがただ成功するのでは面白くない。先にも書いたように、何ら
かの錯誤が発生しない事には話がふくらまないのだ。
 そこで。「戦争論」で有名なクラウゼウィッツは次のように述べている。「
敵の野戦軍を粉砕した後の敵の首都占領は敵国を屈服させるが、敵野戦軍の健
在な限り、敵の領土や首都の占領は戦争終結をもたらさない。まず、敵の野戦
軍を撃破した後、その首都を占領せよ」と。現代では考えられない事だが、当
時(クラウゼウィッツは十七世紀の話を元に述べている)は、軍隊の一日の物
資消費量がそれほどでもなかったから、軍隊は完全に策源地である都市から完
全に切り離された状態でも存在し得たのだ。
 つまり、作戦が成功して敵国の首都を占領したのはいいが、敵の戦意が衰え
ず、逆に降下部隊が首都ごと包囲されてしまう、という状況を現出出来るわけ
だ。割と発展性のある話題だと島津は思っていたりするのだが。

 c.高速縦深打撃戦法
 いわゆる赤軍(ソ連)の基本ドクトリンである。「側面に構わずに、とにか
く前進せよ」という訳で、補給の続く限り、ひたすら前進するのだ。都市は彼
等にとっては攻撃目標ではなく、厄介な傷害物でしかないので、迂回出来る場
合はほったらかしてどんどん進んでいってしまう。だから、都市守備隊などは、
気付いた時には敵中に取り残されている羽目になる。
 この戦法は、相手に防衛線を張らせないという点で効果的ではあるが、残敵
掃討が不十分になるため、孤立した敵がゲリラ化して補給線を襲う可能性が出
てくる。
 もしこれを物語に組み込むなら、当然主人公側は取り残された都市の住人達
という事になるだろう。
 これは戦略レベルの話だが、戦術レベルでは、戦国時代の上杉軍の「車懸か
りの陣」や島津軍の「鉾矢形繰抜戦法」が派手であり、絵になりやすい。

●海へ
 今までは地上と空中を主として考えてきたが、飛行機だけでは話の創作が何
かと苦しいという事が判ってきたので、軌道を修正していく。海(あるいは湖)
を物語世界に加え、船を浮かべてしまおうという魂胆だ。船といってもただの
船ではない。全長二百メートルの巨大帆走戦艦とか、空母とかだ。空母は、帆
柱が林立している甲板にどうやって離発着するのかという問題がある。それで、
当初案では帆柱を軸線上から左右どちらかにずらして配置する事を考えていた。
しかし、飛行機や飛行船が飛ぶ世界に、船が相変わらずの帆船というのも芸は
ない。
 ここで、先ほど「塩水に反応する」とした昇華石の設定が生きてくる。つま
り、昇華石の反応を利用して推進力を得る艦を登場させればいいのだ。
 これと関連して、魚雷も考えられる。海面に着水すると同時に動き初めてく
れるのだから、設定としてはすっきりしていていい(航空機用の噴進弾をどう
やって点火して機体から切り離すのか、正直なところ考えあぐねているのだ。
機体から放り出すだけなら簡単なんだけどねえ)。
 こうなってくると、石炭文明ならぬ昇華石文明である。「経済大国・A国で
は昇華石の産出量が少なく、その多くを輸入に頼っていた。が、経済戦争でA
国に押されぎみのB国が、昇華石輸出国であるC国に圧力をかけ、A国に昇華
石が不足し始めた。昇華石の備蓄が完全に底をつく前に、A国は対B国戦を決
意した」てな感じで、正義も悪も無い戦争の発端として利用する事さえ可能だ。

●「龍王の淡海」にドロップキック
 うまい具合に古本屋で、第二回ファンタジーロマン大賞授賞作品である「龍
王の淡海」を手にいれる事が出来たので、不安と対抗心に心を揺り動かされな
がら読んでみた。その結果、幸いにも「酷似している」と言われるほど似てい
る訳ではない事が分かった。方向性がかなり違う。百八十度とは言わないまで
も百二十度くらい違うと思う。「龍王−−」に出てくる飛行機械はただの水上
グライダーで、空中戦のシーンが出てくる訳ではないからだ。無論、単なる方
向性の違いというだけで、けなしている訳ではない。
 しかしこれで、「兵器としての飛行機のシステマチックな運用」と「戦略論
を踏まえた上での敵味方の行動」の二点を強調する事で、「龍王−−」に対し
てアドバンテージを取れると思う(随分と強気やねえ。夜中に書く文章は強気
だ)。
 ここで「システマチックな運用」とは何ぞや? という疑問があると困るの
で、ここで補足しておく。発案者である彷徨君は、物語世界の飛行機を「例え
ば伝説の龍のように、選ばれた人しか乗れない存在ではなく、技術さえあれば
誰にでも扱える存在」として定義しているのだそうだ(島津も最近知った)。
そういう訳で、「輝光石を扱えるのは風色の少女だけで、従って飛行機に乗れ
るのも彼女だけ」という設定案は、この段階では完全に命脈を断たれる。
 つまり、物語が始まった時点で、飛行機は物語世界の住民にとっては「当然
存在するもの」として認知されているのだ。
 ただ、前にあげた「海を舞台に含める」は少しばかり苦しくなった。という
のも、「龍王−−」の中に、飛行船によって山脈を越えて湖に降り立つ軍艦の
描写があるからだ。
 余談ながら、ついでに「神々の砂漠」に水平チョップ、と行きたかったのだ
が、本を手にいれられなかったので今回はパス。首を洗って待っとけ(おお、
強気だ)!

●敵も味方もなく、悪も正義もなく
 優れた提案に満ちていた「永山文書」の中で、島津が最も気に入ったのは、
「どちらの側が主人公なのか、読者に判らない形式で書く」という案。これを
旨く使えれば、かなり斬新な物語を作れそうな予感がする。で、この案の優れ
ている点を箇条書きにしてみる。

 a.敵キャラクターを設定する必要がない
 敵というのは、基本的にはイヤな奴である。ただ主義主張が違うだけだとい
う意見もあるが、やっぱりけったくそ悪い連中でないと敵役などつとまらない
のだ。これは想像以上に大きな問題である。ある意味では、魅力的なキャラク
ターを作るよりも難しいかも。しかし、この案を採用すれば、味方キャラクタ
ーを二種類設定するだけで済む事になる。同じ位に魅力的なキャラクターを二
人、というのは大変かも知れないが、挑戦する価値はある。しかし、一人は風
色の少女の案をそのまま使うにしても、もう一人はどうすればいいだろう。光
の巫子とかか? 第一女性でないと駄目なのだろうか。もう一人の主人公は男
性にして、「敵味方を超えた愛」を描くか? うーん、そういうのは苦手なん
だが。

 b.どちらが勝つか読み手に判らない
 大抵の物語においては、主人公は負けない。仮に負けたとしても命までは失
わない。自らの命と引き換えに敵を倒す、という場合もあるかもしれないが、
それは物語の最後の最後のシーンに限定されるはず。何故か? それは、その
キャラクターが主人公だからだ。従って、読み手は主人公がどんなにピンチに
陥っても、結局はうまく切り抜けられるのだろうと、タカをくくってしまう。
が、この案に基づいた話ならば、ジレンマを解消出来るはず。「自分が主人公
と思っていたキャラクターは、実は敵キャラクターに過ぎないのかな?」と読
者に疑問を与え続けられるなら、自分が一度感情移入してしまったキャラクタ
ーを心の底から応援(?)してくれるに違いない。何しろ、どこで負けて死ん
でしまうか判らないのだから。

 c.山ほど考えたアイデアを没にする量が減る
 敵と味方、ではなく、二種類の主人公となれば、両者は立場は違うかも知れ
ないが、実力的には当然互角でなくてはならない。圧倒的な力で攻めまくって
いるほうを主人公だと思わせるのは骨が折れる作業だからだ(最近はその作業
が面倒臭くなったのか、めちゃくちゃに強い主人公、というのもよくあるパタ
ーンになっているようだが)。そうなれば、両者とも力の限りベストを尽くそ
うと努力する訳で、それぞれに新兵器や新戦術を続々と繰り出す事になるだろ
う。だから、エピソードが倍近く必要になってくる。

 無論、難点もある。何しろエピソードが倍近くにもなったら、文章量もそれ
に応じて増大する訳で、原稿用紙三百五十枚に詰め込めるかどうかが問題にな
ってくるだろう。両陣営に五分五分に文章量を配分するのも疲れる作業だと思
う。
 それでも、この案は発展性があると思う。だから、これから基本はこの線で
行ってみたい。アイデア大募集だ。この案で行く限り、アイデアの採用率はぐ
っと高いぞ。

●横文字に関する話
 個人的には、片仮名の多用は話の雰囲気を不必要に軽くするので可能な限り
使いたくない。が、その点について数冊ファンタジー系の小説を読んで研究し
た結果、「割りと何のためらいもなくメートル法や時間単位が使用されている」
事が判った。確かに、単位等で不必要に判り辛い話になっても困るし。
 もっとも、どうにも日本語に直せない横文字もある。列挙してみよう。
・ドレス(着物とは言えんだろう、やっぱり)
・テラス、バルコニー、ベランダなど
・マッチ
・ランプ、カンテラ(行灯に提灯という訳にはいかん)
・パン、ワインなどの食品
・ライバル、コンビ、ペア、カップル(好敵手、二人組。むぅ。どうも感じが
違う)
・プロペラ(これが使えないとなると、プロペラ機をどう表現するのかが大問
題だ)
・スロットルレバー、フットバー(航空用語)
・タガー、クロスボウ、プレートメイルなど、西洋の武器や防具
・コンパス、ペン、インクなど(まあこれは、両脚器、筆、墨汁と書けなくも
ないが……)
・スカーフ、ハンカチ、マフラー(手拭いに襟巻き、か。しかし手拭いという
のはどうも)
 さあ、どうするどうする? 使用を妥協するとなると、どこかに線を引かな
ければならない。うまい方法はないだろうか。

3−3に続く




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