AWC 「魔法のネットワーカーアクセス那奈(第4話)」#2/2/Tink


        
#4155/7701 連載
★タイトル (DRH     )  95/ 4/23   8:11  (168)
「魔法のネットワーカーアクセス那奈(第4話)」#2/2/Tink
★内容


 OPIDを使い、メンテナンスモードに入るが、この時間帯のネットはさすがにア
クセス人数が少なく、数名しかいなかった。
 あたしはログ記録を検索するが、ケイの文字は見つからなかった。
 今日はアクセスしていないのかな?
 しかし、ボードを見に行くと、ケイの書き込みがあった。
 日付は今日の3時過ぎ。
 アクセスしたのなら、ログ記録に残る筈なのに、記録は残っていない。
 一体どういう事なんだろう?
 過去に遡って見るが、やはりケイと言う会員がアクセスした痕跡は、一つも見つか
らなかった。
 最終ログインを調べて見ると、去年の末からアクセスしていないことになっている。
 でも、実際にはケイのIDでメッセージは書かれているのだ。
 あたしは訳がわからなかった。
「どうしたんだ?、こんな時間に」
 プチとポポがいつのまにか横にいて、モニターを覗き込んでいた。
「このケイって子、去年末からアクセスしてない事になってるの」
「アクセスしていない?」
「うん、書き込みしてるくせに痕跡が残ってないの。こんなことってあるのかな?」
 OPIDですら、アクセスすれば必ず痕跡は残るのに。
 一般IDで何故、痕跡が残らないのだろうか?
「そうか、何と無く読めてきたぞ」
「読めてきたって?」
「このケイって奴、魂がネットに入り込んでるんだよ」
「魂が?」
 魂がネットにアクセスするなんてことが、あるんだろうか?
「つまり、このケイって子が、死んだか植物人間になったかて、残留思念的な存在に
なったわけなのよ」
「じゃあお化け?」
 お化けだったら嫌だなあ。
 オカルト的な事は苦手なんだ。
「まあ、お化けみたいなもんだ」
「人間は精神力が他の生き物に比べてとても強いから、死んだ後でも思いだけが残る
ことがあるのよ」
 要するになにか悔いが残ってるってことか。
「じゃあ、この子はどうしてあげたらいいの?」
「思いを取ってあげることだな」
「どうやって?」
「そうね、那奈になってネットに潜るしか無いかしら?」
 ネットに潜るって言われても、水に潜るようにはいかないんだから、どうどうやっ
て潜ればいいのかなあ?
「どうやって潜ればいいの?」
「那奈の精神情報を一度電気的に分解して、データとしてネットに入ればいいの、取
りあえず変身して」
「分かった。ルチノウ」
 右手にはめていたブレスレットがバトンへと変化する。
「マジック・パラレル・ドリーム・アクセス」
 呪文を唱え終わると、虹色の光が滝のようにバトンの先から発して、あたしの体を
包み込む。
 すぐに光りは消え失せると、バトンはイヤリングへと変わっている。
 あたしはそのイヤリングを耳につけた。
「それでどうすればいいの?」
「後はモニターに手を当てて、ゆっくりと中へ入ればいいのよ」
 言われた通りにモニターに手を当てると、まるで水に手をつけているような感触と
共にすっぽりと手がモニターの中へと入ってしまった。
 そして、引きずり込まれるようにして、全身がモニターの中へと入っていった。

          ★

 凄い勢いで引っ張られていた。
 回りに見えるものは〇と一の羅列。
 細いパイプ状の中を、数字と一緒に飛んでいるのだ。
 やがて大きな門が見えて来た。
 すると、今まで凄い勢いで引っ張られて来たのが嘘のように、ゆっくりとした勢い
になり、やがて止まった。
 視覚的には慣れてきたのか、辺りは数字から認識できる物質へと変化して来ていた。
 門の手前までくると、仁王像のような門番が立っている。
「待て、お前のIDとパスワードを言え」
 あたしのIDとパスワードを告げると、ゆっくりと門は開き広場へと通された。
 広場を中心に色々な建物が放射状に立っていて、その間を郵便屋さんがデータを運
んでいた。これがあたしの認識力の限界なんだろう。
 あたしは、走り回っている郵便屋さんを一人捕まえて、ケイの事を聞いてみた。
「ねえ、この辺りでケイって子見かけなかった?」
「ああ、その子ならBBSの方で見かけたよ」
「BBSってどこかしら?」
「あの正面に見えるでかい建物がそうさ」
「ありがとう」
 郵便屋さんに言われた通りBBSの建物の中に入るが、部屋数が多すぎてどこにケ
イがいるのか分からない。
 一通り見て回ったが、それらしき人影は見つからなかった。
 入れ違いでどこかに行ってしまったのだろうか?
 ふいに後ろから声をかけられた。
「お姉さん、誰?」
 振り替えると、愛想の良い少年が立っていた。
「あなた、ケイ君?」
「そうだよ。どうして僕の名前しってるの?」
「探してたのよ。あたしは那奈、知ってるでしょ?」
「え?、本当に那奈さんなの?」
「ええ、本当よ」
 あたしがそう言うと、ケイは本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
「僕、那奈さんに会いたかったんだ」
「どうして?」
「だって僕、体弱くて入院ばかりしていたから友達いなくて、テレビばかりみてたん
だ、すると那奈さんが良くテレビに出ていて、すぐにファンになったよ。それでプラ
ンニングネットに行けば那奈さんに会えるかもって思ったんだ」
「そうなの、病気の具合はどうなの?」
「お医者さんは大丈夫だって言ってたけど、もう駄目だって分かってるんだ。でも、
那奈さんに会うまで死ねないって思って」
「どこの病院なの?」
「中央病院だよ」
 そう言い残すと少年の姿は薄くなり、やがて消えてしまった。

          ★

 次の日、あたしは中央病院に行くと、ケイ君が植物人間であることを知った。
 年末に、車の事故にあい、それ以来意識不明の状態が続いているらしい。
 面会謝絶なのだが、無理を言って病室へと通してもらう。
 ベッドには昨日元気だった少年が呼吸器をつけて横たわっていた。
 人間の思いは何て強いんだろうか。
 あたしに会いたい一心で、心だけがネットに入り込むなんて。
 ケイ君は、あたしがここにいるのが分かるのか、かすかに微笑んでくれたような気
がした。
「あたし、今度シングルCD出すんです。これ、ケイくんへのプレゼント」
 ケイ君のお母さんにCDを手渡すと、病院を後にした。
 日差しはますます強くなり、初夏の香を漂わせている。
 明日はいよいよ新曲の発売日だ。
 あたしは忙しくなるぞと、少し気合いを入れなおした。
 そう、色々な人達があたしの歌を待っていてくれてるんだ。
 その為にはもっと、もっと頑張らなきゃいけないのだ。
 ケイ君の為に、他の人達の為に、何よりも自分の為に----。

          ★

 新曲は発売と同時に飛ぶように売れていった。
 それに伴いテレビの仕事も多くなり、忙しさは前の比にならない。
 ただ、皆が那奈を求めている間は頑張るつもりだ。
 あたしは那奈なんだから。那奈はあたししかいないんだから。

「では、那奈さん期待の新曲「Dreaming Night」を歌ってもらいましょう」



「Dreaming Night」


 あの頃の君は
 心に深い傷を負い
 膝を抱えて泣いていたね

  そんな君が愛しくて
  抱き締めた日もあったよね

   壊れてしまいそうな
   君を守りたい
   願いがかなうまで
   僕は祈るよ

 Dreaming night 君といつの日か
 Happiness Day  過ごせるよね

 あの頃の僕は
 小さな不安を抱え
 眠れない夜もあったけど

  君と出会ってからは
  弱音だけははけなかった

   壊れてしまいそうな
   僕の心は
   君と会うときには
   強くなれた

 Dreaming night 君といつの日か
 Happiness Day  過ごせるよね


                                  (おわり)




前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 Tinkの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE