AWC 「魔法のネットワーカーアクセス那奈(第4話)」#1/2/Tink


        
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★タイトル (DRH     )  95/ 4/23   8: 9  (158)
「魔法のネットワーカーアクセス那奈(第4話)」#1/2/Tink
★内容

○少年の思い


 久々に雲の隙間から覗かせた太陽を、道端の水溜りが反射していた。
 じめじめとした長い梅雨も終わり、加速度をつけて夏へと向かっているのだ。
 この調子で、あっと言う間に夏休みになってくれればいいのに。
 そんなことをぼんやりと考えながら歩いていると、後ろから智広が声をかけてきた。
「おーい、由美」
 智広は、走って来たのか少し息が上がっている。
「どうしたの、智広?」
「おまえ最近付合悪いぞ、どうしたんだ?」
 最近那奈の仕事が忙しくて、遊んでいる暇なんて無かったのだ。
 もう少し仕事が減ってくれると嬉しいんだけどな。
「この間のテスト悪くて、勉強してるんだ」
 取りあえずは本当の事なんて言えないから、適当にごまかすしかないんだけど。
「勉強って、由美がか? 天変地異の前触れかもしれないな、こりゃあ」
「あたしだって勉強くらいするもん」
「まあ、そりゃそうか。話し変わるけどさ、この間ネットのオフでさ、那奈さん来て
たんだぞ。俺嬉しくってさー」
 那奈、那奈、那奈、那奈って。智広の頭の中には那奈のことしかないんじゃない?
 那奈はあたしなんだって、言えないのが悲しいよね。
「ふうん」
「こんど新曲出すみたいだから、那奈さん今、忙しいんだろうな」
 実際、てんてこまいになるほど忙しいんだけどね。
「智広って相変わらず那奈さんばっか」
「そ、そうか? そんなつもりは無いんだけどな」
「そうかなあ」
「まあ、勉強がんばれよ。分からない事あったら教えてやるから」
「うん、ありがとう」
 取りあえずは那奈のお仕事がんばらなきゃ、ね。

          ★

「撮影OKです。御苦労さまでしたー」
 ディレクターが撮影の終了を告げると、緊張間に包まれていたスタジオの中に和や
かなムードが戻って来た。
「那奈ちゃん、お疲れー。これ差し入れ」
 マネージャーの水木さんが、気を聞かせて清涼飲料水を買って来てくれたのだ。
「あ、ありがとうございます」
 あたしはプルリングを開けると、一気に飲み干してしまった。
 撮影はストロボやライトの光を直接受けるので、とても暑いのだ。
「今日はちょっと表情がぎこちなかったわよ。どうしたの?」
「いえ、なんでもないんです」
「そう? 疲れてるのかしらねえ。スケジュール調整してお休み作っておくわね」
 実際疲れもあるんだろうけど、那奈ばっかり言ってた智広の顔がちらつくのだ。
 ちょっと情緒不安定気味なのかなあ。
「とにかく無理しないでね、歌の売出はもうすぐなんだから」
「はい」
「じゃあいったん事務所に帰りましょう」
 水木さんが車を用意している間に、あたしは着替えを済ませ、帰る支度を始める。
「お先に失礼しまーす」
 スタジオの中で作業をしている人達に声をかけてから、スタジオを後にして、表に
用意してある車に乗り込んだ。
 さすがに疲れたのか、あたしは車に揺られながら深い眠りへと入っていった----。

          ★

 ネットは相変わらずの繁盛振りで、ホストからのアクセスでないと処理できない程
メッセージが膨らんでいた。
 回りに誰もいないのを確認してから、魔法でメッセージを書き込んでゆく。
 キーボードを通していたのでは、あたしくらいのタイプスピードだと何時間かかっ
ても返事を書ききることはできないだろう。
 ふと、一つの書き込みが目についた。
 違和感----。そう、不自然な所は無いのだが、何故か違和感を感じるのだ。
 それは、例えるならばあたしの書き込み。
 そう、誰もを引き付ける魔法の書き込みに似ているのだ。
 あたしの書き込みとは方向性は違うのだが、それは人を引き付ける書き込みなのだ。
 不思議な力を感じる。
 気のせいかもしれないけど。
 誰も気がつかないだろうけど。
 あたしはプロフィールを検索してみた。

ID  :PRA58022
ハンドル:ケイ
名前  :垣本 啓
誕生日 :5月21日

 変わったところは何一つ無い。
 しかし----。
 あたしは手帳を取り出し、IDとハンドル名を書き込んだ。

          ★

「ねえ、あたしみたいに魔法使える子って他にいるの?」
 自宅のベッドに腰かけて、プチとポポに聞いてみた。
「うーん。聞いたことないけどなー。ポポ、何か知ってるか?」
「あたしも知らないわ。まあ、可能性は無いことは無いと思うんだけど」
「ちょっと見てみて」
 あたしはプランニングネットの書き込みをプチとポポに見せてみた。
「これは魔法じゃないぜ」
「確かに何らかの力は感じるけど、確かにあたしたち妖精の扱う力じゃないみたい」
「じゃあ、魔法じゃないの?」
「まあ、そうなるかな」
「そうね」
 魔法じゃない力だとすると、どんな力なんだろう。
「どっちかって言うと、人間が扱う呪術的な力に近いかもな」
「そうね。超心理的な力みたいね」
 呪術や超心理的な力と言われても、あたしの扱う魔法とはどう違うかはわかんない
んだけど、あたしみたいな魔法使いが他にいた訳じゃあないのか。
 実際、どちらかと言うと負のイメージが強いんだけど、それが何を意味するのかも、
良くわからないのだ。
「ところで、那奈のお仕事は最近どう?」
「忙しくてたまんない。でも、そろそろ一段落着いたから少しは楽になるかなあ」
「新しい曲出すんだろ?、頑張れよ」
「うん、ありがと。新しい曲も売れればいいんだけどなあ」
「大丈夫だって、絶対売れる。那奈の力を信じろよ」
「うん」
 あたしは軽く肯いた。

          ★

 学校が終わり、事務所に急いで行くと、初回プレス分の新曲のシングルCDが上が
って来ていた。
「あ、那奈ちゃん。シングル上がって来たよ」
 社長の岡田さんがあたしに一枚手渡してくれた。
 脇においている段ボール箱の中にシングルCDが山積みになっていた。
 本当に売れてよ。お願い。
「あ、この写真使ったんですね」
 この一枚の為に何百枚も取るんだな。
 カメラマンの人も大変だあ。
「うん。あの中では一番良く取れてると思うよ」
「この所急がしかっただろ?、取りあえず来週の発売日までは、仕事は入れてないか
ら、那奈ちゃんもゆっくり休んで疲れを取っておいてね」
「ありがとうございます」
「何かあったらネットの方にMAILしとくから」
「はい、分かりました」
 これで、あの子の事もゆっくりと調べれる。
 気を使ってくれた水木さんと岡田さんに感謝しなくっちゃ。
 忙しいままじゃ、とても調べてなんていられないものね。
「じゃあ、今日はとりあえずそれだけ。あ、CDは持って行ってもいいから」
「はい」
 あたしはCDを三枚程貰ううと鞄の中へと押し込んだ----。

          ★

 夢を見た。
 暗い闇の中に、少年が膝を抱えて泣いている。
 あたしはどうする事もできず、ただ少年を見ているだけだった。
 少年の感情は、あたしの心をむさぼり食うように忍び込んでくる。
 切なく、悲しく、苦しかった。
 胸が張り裂けそうなのに、体が動かなかった。
 声も出なかった。
 そして、しばらくその状態が続き、目が覚めた----。

「夢……かあ」
 体をベッドから半分起こして時計を見ると、明け方の4時だった。
 パジャマが汗でしっとりと湿っていて、とても気持ちが悪い。
 少し寒気もする。
 風邪をひいてしまったのかも知れない。
 汗で湿ったパジャマを着替えると、少年の事が気になり出した。
 あれは誰なんだろうか?
 あたしはどうすればいいんだろうか?
 分からなかった。
 もしかしたら、あのケイって子と関係があるのかも知れないし、まったく関係無い
のかも知れない。
 一度気になり出すとほおっておけないので、とりあえずはプランニングネットへと
アクセスすることにした。




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