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★タイトル (KCH ) 95/ 3/21 13:24 ( 59)
古事記 上巻 伊邪那岐命・伊邪那美命 一、オノゴロ島(3)
★内容
できたてほやほやのオノゴロ島に広大な屋敷をお立てになったのはそれから
まもなくのことです。
屋敷を造る慌ただしさから開放され、ようやく落ち着きを取り戻したころ、
「なぁ、イザナミ。あなたの身体とはどのようになっているんだ?」
ぶしつけにイザナキノミコト(下界に降りたためにこのように表記させても
らいます)が傍らでのんびりと海原を眺めていたイザナミノミコトにたずねま
した。
「どういうことです?」
イザナミノミコトは顔を海原に向けたままたずねかえします。
「いやぁ、今ふと思ったことなんだよ。気に障ったんだったら、別に答えなく
てもいいよ」
「……私の身体はだんだんとできていきました。けれども、このからだと成り
あわないところがただ一つだけあるんです」
顔を赤らめながらイザナミノミコト。
イザナミノミコトのいっていることがわかり、イザナキノミコトも頬を朱に
染めます。
「……私の身体もねだんだんとできあがっていったよ。……でもイザナミと違
うのは、私の場合このからだと成り余るところが……一つあるのだよ」
しばらく間を置いて、
「イザナミ。あなたの身体が成りあわないのであれば、私の成り余っていると
ころで補おうではないか。そうしてこの海原に島を、地面を造り出していこう
ではないか」
長い沈黙が続きました。
イザナミノミコトが更に顔を赤らめていうことには、
「……そうですね」
イザナキノミコトはその答えを聞き、顔を引き締めていいました。
「そ、それなら、あそこに立てた聖なる柱を回り、そこでお互いに出会おう」
といい、屋敷のそばに立てた一本の柱を指差します。
二人は立ち上がり、柱をぐるりと回りはじめ、ちょうど反対側でお互いに出
会います。
イザナミノミコトが先に、
「ああ、なんて素敵な御方……」
すかさずイザナキノミコトが、
「なんてきれいな少女であろうか」
そして沈黙。
イザナキノミコトがしまったという顔をして、
「イザナミ、先に声をかけたらだめじゃないか」
と、正面にいる少女にいいます。
イザナミノミコトは、
「先に言ってしまったものはしかたがないではありませんか。でもこれで私達
夫婦ですね」
「そうだな」
イザナキノミコトは夫婦になって早々に喧嘩をすることはあるまいと思い、
そのまま素のことはうやむやにしてしまいました。
それから十月十日後、イザナミノミコトは子供を産みました。
が、
「おいっ!これは不具の子だぞっ!」
イザナキノミコトが横たわっているイザナミノミコトに叫びます。
「……そんな……」
かすれた声でイザナミノミコト。
疲労とショックでそのまま気を失ってしまいました。
翌日夫婦はこの子を葦の船にのせ、海原へ捨ててしまいました。
後にこの子は水蛭子(ヒルコ)と呼ばれるようになります。
さてそれから九ヶ月ばかりたって、イザナミノミコトはもう一人子供を産み
ました。
しかしながら、その子供は未熟児で、これまた海原へと捨ててしまいました。
この子は淡島(アワシマ)と呼ばれるようになります。