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「おお、我が君の御手にその剣を」(7)完 カズキ
★内容
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「様子はどうだ。」
「変わりは有りません。自分から何かをすることはありませんが、何
をされても決して逆らいません。」
「そうか。彼を国元に連れて行こうと思うのだが。」
「あの方はもう何も判りません。何処にいようと同じことかと。ジェ
ノールの残党に担ぎ出されるよりは、陛下の保護の元に居た方があの
方にとっては幸福でしょうな。しかしゲイト侯はよろしいのですか?
激しく反対されましょう。」
「今や私がマイセン4世だ。臣下の口出すところではない。」
「これはさし出た口を、申し訳有りません。」
「本当にもう正気を取り戻すことはないのか。」
「はい、おそらく....」
「何だ」
「はい、時々何やら呟いているようで....よく聞き取れないので
すが....」
彼女の影はいたるところに見いだされた。薄く色付いたガラスからこぼれ
る日差しに、色鮮やかな花に落ちた滴に、私の膝に掛けられた乾いた毛布の
香に....私の影の中にさえも彼女は潜んでいた。そしてその陰った青い
瞳で私を見つめるのだ。
青い瞳と鳶色の髪、白い衣からこぼれる肌は薄く光を放ち、背後には麗美
な翼が見える。私を優しく包み込む翼は、聖堂に描かれた天使の純白の翼と
異なり、淡い金色に彩られていた。
彼女の唇から秘やか囁きと、光の粒子が私の耳にそっとこぼれる。
「彼らの希望は不甲斐ない私のせいで潰えてしまいました。」
「エセル」
「幸運だったのは、暗き者達も幾つかの不注意な干渉を行った事です。その
結果、新しい時間軸が生まれました。」
「私は...」
「か細い未来の幻影を信じて、衛士達は私をこの高みへと導いたのです。」
「私はもう疲れたのだ。」
「今、新しい希望をあなたに託すといたしましょう。」
「頼む....私を休ませてくれ。」
「あなたは自らが進む道の闇を払わなければなりません。そしてかの君へと
続く道を選ぶのです。」
彼女の周りに幾人もの翼を持つ衛士達が静かに浮かび上がった。そしてそ
の背後には翼を持たぬ無数の人々、腹の裂かれた者、うじの涌く首を自ら抱
える者、錆び付いた鎖を体じゅうに纏う者達が、陽炎のように揺らいで無惨
な姿を晒している。
彼らは皆、切なる願いをその瞳に浮かべて静かに私を見つめていた。
「おお、我が君の御手にその剣を」 END
by カズキ