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「おお、我が君の御手にその剣を」(6) カズキ
★内容
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「陛下、マイセンの使者が城門を叩いております。」
私は長い物思いから我に帰った。
「降伏を勧めにか。」
「どうかお会いになって下さい。」
「通すがいい。勝ち誇るゲオルグめの言い草を聞いてやるとしよう。」
すぐに4人の使者が我々の前に通された。フードを被った者を囲むように
して立つ彼らは、一段高い所に構える私を見上げている。フードの男が軽く
会釈をすると話始めた。
「ベセルーン陛下。謁見の名誉に預かり光栄に存じます。陛下の戦いぶりに
は我が主人、ゲオルグ殿下も感銘を受けて....」
「顔を見せるがいい。」
「....しかしながらこれ以上の戦は我々双方にとって.....」
「顔を見せよ。」
使者の間に目に見えて緊張が走った。気の早いホレスが剣のつかに手をか
けるのが見えたので、私はそれを横目で制した。
使者がゆっくりとフードを外し、ゲオルグの良く知る顔が現れると広い広
間にどよめきが走った。ジェノールの兵は誰も敵の指揮官自らが使者となる
とは思いもよらなかったのだ。しかしこの男を良く知る私には、それも当然
の事に思えた。久しぶりに見るゲオルグの頬は痩け、目の下に深い隈が刻ま
れている。口元には皮肉な笑みを浮かべているものの、眉間のしわに内心の
焦燥が現れていた。
「久しいな。」
「自らこんな所に来るとは、相変わらずと言うべきか。」
「おまえに言われたくはないな。まったく、何をしでかしてくれたんだ。」
そう言ってゲオルグは低く笑った。
「おめでとうと言うべきなのだろうな。まさかこうもあっさりとけりがつく
とは思わなかったよ。」
「そうだな。にらみ合いの末に和睦というのがいい所だと思っていたのだが。
ゲルンの田園地帯でも貰おうと考えていたのに、計算違いだよ。」
「ゲルンをか?この強突張りが。」
私達は二人、陰鬱な笑みを浮かべた。
「降伏しろ、ベセルーン。もう他に手はない。何とか草原沿いの領土ぐらい
は与えてやろう。」
「ありがたいお情けだな。貧者への施しか。」
「ベセルーン。マイセン国は一兵卒に至るまでアッコンでの借りは忘れてい
ない。おまえの勇断が無ければ我々はあの時に壊滅していた。」
「エセルはどうなる。」
「あれは落ち着いてから、正式に嫁がせよう。」
「嘘だな。」
ゲオルグの唇から笑みが消えた。
「全てを魔女の咎にするつもりだな。そうでもしなければマイセンの国民は
納得しまい。魔女に騙された、哀れで愚かなベセルーンというわけか。」
「ベセル−ン!」
「ベセル−ン様。どうか兄の言うことを聞いて下さい。」
エセルが背後の垂れ幕の陰から静かに入ってきた。エセルは私の横に立つ
と、ゲオルグを見つめた。
「お兄さま 、私が陛下をたぶらかせたのです。3年前と同じように。」
彼女の目に兄を咎める物は微塵もなかったが、ゲオルグの心の軋みが私に
は伝わって来た。
「父の元に私を連れていって下さい。」
「陛下は殺されたんだぞ。売女め!」
ゲオルグの横に立つ兵士が突然叫んだ。
エセルは私を驚きの目で見た。そして何かに気を取られたように、何もな
い中空を青い目を見開いて凝視した。つかの間、その空間に巨大な鷲の翼が
瞬いて見えたのは私の気のせいだろうか。
「御心のままに....」
エセルはそう呟くと、無造作に私が膝の上に置いていた剣を取り、自らの
喉を突いた。
それから起こったことは一瞬だった。まずホレスが剣を抜きゲオルグに切
りかかった。ゲオルグは肩を押さえて後ずさり、そしてホールの外から何人
ものマイセンの兵士がなだれ込んだ。私の臣下は剣を抜いた者も、抜かなか
った者も、逃げようと背中を向けた者さえもマイセンの兵士によって切り倒
された。ホレスの既に命の無い体には、何度も何度も兵士の剣が刺され、後
には赤く染まった肉の塊だけが残った。
私は目の前の惨劇にも構わず、膝に乗ったエセルの髪をただ撫でていた。
美しいエセルの髪を撫でる私の手は、なぜか野莓で鮮やかに赤く染まってい
た。いつ野莓を食べたのだろう?どうしても私には思い出すことが出来なか
った。
「ベセルーン、何と言うことだ。私は知らなかったんだ。」
「殿下、殺しておしまいなさい。それがこの者のためです。ご覧なさ
い、すでに正気を失っている。」
「いかん。」
「この者を生かしておけばいずれ災いの元になりましょう、殿下。」
「だめだ、私が許さない。」
つづく
by カズキ