AWC 「おお、我が君の御手にその剣を」(2) カズキ


        
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「おお、我が君の御手にその剣を」(2) カズキ
★内容

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「何の事だ、地下牢の少女などと。酔っぱらって夢でも見たのだろう。しか
しなんと麗しい夢だ、羨ましい限りだよ。」
 馬上でゲオルグは例のごとくにやついている。
「とぼけるな、あれは夢ではない。」
「そんな夢の女より現実の姫ぎみはどうするのだ。ホレイショ嬢はおまえに
ぞっこんだぞ。」
「ゲオルグ、あの少女の罪は何だ。知っているのだろう。」
「ほれ、鹿が逃げる。ホレスの青二才に獲物を取られるぞ。」
 飛び出すゲオルグの牝馬の前に、私は自分の去勢馬を無理やり回し込んだ。
二体の馬体がぶつかり合い、遠くから女性の甲高い悲鳴が聞こえた。
「馬鹿な真似は止めろ、ベセルーン。何を考えている。」
「エセルとは何者だ。」
 ゲオルグは急に真剣な顔で私を見つめ、静かに言った。
「ベセルーン、あの娘の事はもう言うな。」
 そして息荒い牝馬を宥めながら取り巻き達の元に向かって行った。

「陛下、今日の狩はいかがでした。」
 私はいたずらっぽい笑みを浮かべるメディセルに苦笑した。
「知っておいでなのでしょう。意地の悪い方だ。」
「噂は聞いておりますわ。でも陛下ならシャツの後ろにこっそり雌鹿でも隠
しておいでかと思いまして。私にもおすそわけ頂けませんこと。」
「私にそんな才覚はありませんよ。そういう腹芸はどちらかというとゲオル
グの方が得意でしょう。」
 私とメディセルは顔を見合わせて笑った。
「陛下はよくご存じですこと。」
「メディセル嬢こそ。」
「私は常に殿下のお側におりますから。でも大抵の方は殿下の豪快な振舞い
に騙されてしまいますのよ。」
「そうですな。良く判ります。」
「でも殿下の本性を知っているせいで、私は殿下に嫌われていますの。」
「では私も嫌われているのでしょうな。」
「陛下が嫌われてるなんてとんでもない。陛下がいらっしゃると知って殿下
がどれほど喜んだことか。手づから宴会の料理の味見までされたのですよ。
料理番の嘆くことったらなかったわ。どうかあの雉料理をお試しになって下
さいませ。」
 彼女はくすくす笑っている。年は20と聞いているが、その様はまるでい
たずら好きの少年のようだ。そこで私は彼女にそう告げた。
「まるであなたはいたずら好きの少年のようですね。」
「あら、それは誉め言葉なのかしら。でも陛下、私の耳は老婆の耳なのです
よ。」
 両の耳たぶを引っ張る彼女を私は不思議そうに見つめた。
「何か面白い話でもあるのですか。」
「あらら、陛下も噂好きの彼女達と同じなのですね。いつも何か面白いこと
はないかと耳をそば立てている。」
 少し離れた所では、この城の姫ぎみ達が私達の方を伺っていた。彼女達の
中にホレイショ嬢が居るのが遠くからも見えた。
「しつけがなってませんな、彼女達も私も。困ったものだ。」
「この城に私よりしつけの悪い娘など居ませんわ。厩の雌ロバの方がまだま
しなのですって。識者の申すところによりますとね。」
「いくらなんでもそれはひどい。私がそんな識者は鞭打ってやりましょう。」
「私のお父様を?」
 困った顔をした私を彼女は楽しそうに見つめた。
「陛下をあまり困らせたら後でゲオルグ殿下に怒られてしまいますわね。で
は話を変えましょう。エセル様の話はお気にめすかしら?」

 彼女の提案で私達はバルコニーに移った。秋の夜の涼しい風は火照った肌
に心地よかった。
「殿下から聞いたのではありませんよ。おしゃべりな誰かさんからです。お
気を悪くされたかしら。」
「いえ。」
「エセル様の事、お知りになりたい?」
「ええ、お願いします。」
 彼女は少し不安そうに私を伺っている。
「あまり長いことここに居ると、いらぬ疑いをかけられますよ。」
「私は構いませんけど...ごめんなさい。少しふざけすぎたみたいね。」
 私は彼女を安心させるために口元に笑みを浮かべた。彼女の心遣いが嬉し
かったせいもある。メディセルは見た目の奔放さとは違い、内心は遥かに繊
細なのだ。
「お願いします。」
「ええ...。」

「エセル様はゲオルグ殿下の妹君なのです。」
「そんな、なぜ...」
「黙ってお聞きになって下さい。エセル様は美しい少女です、ご存じでしょ
うが。彼女の父、つまりマイセン3世はそんな彼女を溺愛しました。彼女の
中に亡き皇后の面影を見い出したのかもしれません。しかし3年前、全てが
変わりました。エセル様は地下牢に幽閉され、マイセン3世は病の床に伏せ
り、ご存じの通り今では殆ど隠匿の身です。3年前に何があったのか私は知
りません。」
「嘘です。あなたは知っている。」
「つまらない噂はいくつも流れています。そのほとんどは忌まわしい、陛下
のお耳に入れる価値さえ無いものです。」
「噂でも構わない、私は知りたい。」
 メディセルはその青い目で私を見据えた。
「今日は平気なのですね。」
「えっ」
「昨日までは私が見つめると、陛下は戸惑っておいでだったのに。私の自惚
れだったのかしら。」
「あなたの美しさは昨日も今日も変わりませんよ。」
「気休めはよろしくてよ。陛下、私はもう参ります。あそこの姫達の相手を
どうかなさって下さい。そんな気分では無いのかも知れませんが、どうか少
しだけでもお願いします。つまらない話でお耳を汚して申し訳有りません。」
「まだ話は終わっていません。」
「もう終わりです。それからこんな話を他の者にしないで下さい。ゲオルグ
殿下が悲しみますし、それに決してあなたは知りたいことを得ることは出来
ません。エセル様とマイセン3世陛下以外誰もこれ以上の事は知りませんか
ら。」
 メディセルは好奇の目を向ける人々の間を抜け、夜会の催された広間ら出
て行った。一人残された私は、バルコニーから望まれる月に彼女の美しい髪
を見い出していた。

                                            つづく
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 てな訳で、この話は7〜9話程度におさめる予定です。読んで下さった方、
見捨てずにもう暫くお付き合い下さい m(_,_)m。

                               by カズキ




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