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ちょっと恐い話 第三話 登季島
★内容
二十世紀はじめ、ロシアの怪僧ラスプーチンは、祈祷に
よって皇太子の病気を直したという超能力を皇后に信じさ
せることに成功し、やがて宮廷内で絶対の権力をふるうよ
うになる。そしてそれは帝政下では、国政をも支配するこ
とを意味していた。しかし、ラスプーチンにはやがて性的
乱行や酒乱の評判がたち、市民の厳しい目が向けられたが、
彼は批判的な人物の追放や新聞記事の差し止めで対抗した。
閣僚のひんぱんな交代劇はその象徴とされている。
しかし、そのようなやり方の権力が長続きするはずもな
く、ラスプーチンは一九一六年に暗殺される。暗殺をした
のは貴族であり、正義感からというよりは政治的色彩の強
いものだった。伝説によれば、多量の毒薬を飲まされても
ラスプーチンは死なず、驚いた貴族が多数の銃弾を浴びせ、
川へ放り投げたが、何と彼の死因は溺死であったと言われ
ている。
橋口達也は、ホテルの一室で、以上のことを部下の仁科
由里子に語ってみせた。由里子が恐い話をしてよとせがみ、
達也がじゃあ、と言って話し出したのである。達也は大学
で西洋史を専攻していたから、この手の話をするのに困ら
なかった。由里子は
「きゃあ、恐い」
とかわいく言って達也の腕をとると、達也はその顔をの
ぞき込み、そしてそれからベットに押し倒した。
二人ともお決まりの行為が終わるとしばらくはぐったり
としていたが、やがて達也が
「さあ、そろそろ帰ったほうがいい」
と言った。達也には妻子のいる家庭があり、由里子には
厳格な父親が待つ門限があった。そのため二人がいっしょ
にその手のところを出ることはなかったのである。
翌日、連絡もなくいつまでたっても出勤しない由里子の
ことが課内で話題になった。達也は努めて無関心を装って
いたが、誰かが
「きのうの晩から帰ってなくて、家では捜索願いを出そう
かと迷っているそうです」
と言い、達也の顔から血の気が引いた。
やがて多摩川で由里子の死体が発見されたらしい、とい
う報が会社に届いた。課内は大騒ぎになり、現場にさっそ
く数人の社員が急行することとなった。
死体はやはり由里子だった。数日後、警官が橋口達也の
もとを訪れて言った。
「睡眠薬を飲み、手首を切っていますが、死因は溺死でし
てね・・・。ところで橋口さん、由里子さんが亡くなった
あの晩、あなたは会社を出た後、どちらかに立ち寄られま
したか・・・」
警官の厳しい目が達也に向けられた。
おわり