AWC 掲示板(BBS)最高傑作集84


        
#3785/7701 連載
★タイトル (KCF     )  94/ 7/23   8:20  (194)
掲示板(BBS)最高傑作集84
★内容

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
将 棋 [7/23]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 日曜の昼前、ふとテレビをつけてみると、将棋の番組を放送していました。私
は中学生の頃、将棋には多少興味があったので、その将棋番組はけっこう見たも
のです。しかし、高校に入学してからは日曜は昼間まで寝るという習慣が身につ
いてしまい、それ以来まったく見ていませんでした。
 ですから、非常に懐かしく感じました。が、それとともに、将棋は完全に時代
遅れになったな、と改めて実感いたしました。放送時間が日曜の午前中というハ
ンディだけでなく、チャンネルが誰も見やしないNHKの教育番組なのですから、
衰退の一途をたどったのはいたしかたないところです。
 私は放送を見ながら、近い将来、将棋というものが完全になくなってしまうの
ではないかという危機感すら抱きました。
  人気急落という点では、プロ野球も同じです。日本で最もメジャーであったこ
のプロスポーツも、人気の点ではサッカーのJリーグに完全に負けてしまいまし
た。何十年もの歴史を持つプロ野球が発足したばかりのJリーグの後塵を拝して
いるのです。こんなことになってしまった原因はいくつも考えられますが、代表
的なものは以下に挙げる5つだと思われます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
原因1:試合中、非常に静か
原因2:ユニフォームが地味すぎる
原因3:動きがあまりに少ない
原因4:プレーヤーに「覇気」だとか「戦闘心」といったものが感じられない
原因5:反則が少ない
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 これでは観客やテレビ観戦者にアピールするわけがなく、野球に対する人気が
なくなったのは当然と言えましょう。誰でも納得できます。
 ところで、上に列挙した野球の人気低下の主な原因を見て、頭のいい人は次の
ように思ったはずです。

「あれ? これらは野球よりも、将棋のほうがもっと当てはまるのでは?」

 まったくその通りです。上に挙げたものは、将棋の特徴そのものです。よく分
からないという頭の悪い方もいるかも知れませんので、ひとつずつ詳しく解説し
てみます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
原因1:試合中、非常に静か
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  将棋の場合は、「試合」ではなく「対局」と言うので、ここは「対局中、非常
に静か」と書き換えて考えます。
 まさにそうですね。将棋の対局場所というのは恐ろしいほど静かなものです。
将棋番組で、テレビの画面を見ずに音声だけを聞いていたら、何もやっていない
と思ってしまうのではないでしょうか。静寂そのものです。
 かろうじて聞こえるのは、棋士(将棋をする人)が駒を将棋盤に置くときに部
屋内に響く「パシッ!」という乾いた音だけです。それでも、プロの棋士達の多
くは軽量で体力のない人達なので、その音は非常に弱く、神経を集中していない
と聞き漏らしてしまうことでしょう。
 もし、身長が2メートル、体重130キロ、腕周りが60センチもある棋士が
いたとしたらどうでしょう。その巨漢が駒を盤上に叩きつけたときの音は、「パ
シッ!」では済みません。おそらく「バシッ!」、いや「バキッ!」でしょう。
つまり、将棋盤が中央でまっ二つに割れるのです。
 将棋盤が折れたら対局を続行するのが不可能なため、「引き分け再対局」にな
ると思う人が多いかも知れませんが、違います。対戦相手が恐れをなして逃げて
しまうからです。こうなると、「途中放棄」と見なされ巨漢棋士の勝ちです。と
なると、このような体格の棋士がこの「将棋盤割り」を繰り返せば、日本将棋協
会認定の6大タイトル全部を独占しかねません。しかし、実際には この6つの
タイトルをすべて持っている人はいません。どうしてでしょうか。もちろん、こ
れほどデカイ棋士がいないからですが、万が一いたとしても、対戦相手が何らか
の対策を講じるため、タイトルの独占は起こらないでしょう。
 その対策とは、たとえば、駒を将棋盤に叩きつける前に巨漢棋士の肘(ひじ)
を手で押さえてしまうことが考えられます。こうすれば、叩きつける力は半減す
るので将棋盤が割られることはありません。
 このとき、相手の肘ではなく手のひらを押さえにかかると危険です。手のひら
では、相手が振り下ろす腕を押さえきれず、駒と共に盤上に叩きつけられ骨折し
てしまう可能性があるからです。ですから肘を押さえなければいけません。
 他の対策としては、巨漢棋士が駒を将棋盤に叩きつける直前に、
「あ! 駒が手から落ちそうだ!」
と叫ぶ方法があります。こう言われた巨漢棋士は、不意をつかれ、駒を叩きつけ
ようとする手に力が100%入りません。もちろん、これでは、将棋盤は割れま
せん。
 この方法を聞いて、漫画「巨人の星」の中の、巨人軍入団テストで、速球に押
されてボテボテのピッチャーゴロを打たされ、やけくそになって「靴の紐がほど
けてる!」と叫んで投手の星飛馬に動揺を与え、一塁セーフになろうとした「ハ
ヤミ」とかいう非常に性格の悪い登場人物を思い浮かべた人も多いと思います。
結局は、星飛馬が「摩送球」という、父・星一鉄が編みだした危険な送球を行い、
ハヤミをアウトにすることができたのですが、あのハヤミの悪どいやり方は20
年以上たった今でも私は許せません。
  対局中、確かに音は少ないのですが、人の声はかなり聞こえます。テレビの将
棋では、棋士が一手さすごとに、将棋盤の脇に座っている女の人が、「先手、さ
んいち飛車」というように、どう駒が動かされたかを声に出して言います。その
女性のとなりには、もうひとり女の人がいて、「○○九段、残り5分になりまし
た」というように、対局中の棋士に持ち時間の残りを伝えます。棋士は、自分の
持ち時間を使いきると、相手が打ってから30秒以内に自分の駒を動かさなけれ
ばならなくなります。そうなると、残り時間を読み上げる女性は、今度は、「・・
・・・・15秒・・・・・・20秒・・・・・・25秒、6、7、8、9」と秒読みを開始します。
 このように、終盤になると女の人の声が頻繁に聞こえてきますが、こういった
声は女性の声ですし、別に怒鳴るわけではないので、将棋会場内がうるさくてし
かたがないなどという状態になるわけではありません。
  棋士自身がしゃべることもあります。「んー」「そうか」「よし」「しまった」
などといった発言です。もちろん、これは単なる独り言にすぎません。誰かに向
かって話しているわけではありません。
 テレビでは、棋士が相手に対し、「それ、ちょっと待った!」などと言うこと
は決してありません。皆さんは、テレビでプロの棋士が「待った」をしたのを見
たことはないはずです。誰もが知っての通り、「待った」は許されていません。
でも、これはプロだからということではありません。テレビに映っているためで
す。カメラがなければ、プロの場合、「待った」は3回までできると友人が申し
てました。アマチュアの場合は、5回までだそうです。
 また、棋士が対局相手に対し、「おまえ、口臭がくさいぞ! ちゃんと歯を磨
いてんのかよ?」などと言うこともありません。実際には、こう言いたくなる棋
士(つまり口臭の強い棋士)もたくさんいるのですが、言ってはいけないのです。
理由はもちろん失礼にあたるからです。
 口臭の強い相手と将棋をさすときは大変です。なにしろ、対局中は、顔と顔を
至近距離で向かい合わせ続けるのですから。終盤に入り、熱がこもってくると、
棋士の顔と顔の距離が10センチ以下に縮まることもよくあります。これではさ
すがに、たまらないでしょう。接戦になり、対局が長引いたら困りますね。
 たまに、テレビで、プロの棋士が鼻をつまんで将棋盤に向かっているのを見か
けるかも知れません。あれは間違いなく相手の口臭を嗅がないようにしているの
です。対局相手の口臭が強かった場合には、涙を流しながら将棋をさしているこ
ともあります。
 鼻の場合には、指でつまんで匂いをカットすることができますが、目をふさぐ
わけにはいきません。将棋盤が見えなかったら、将棋をさすことができないから
です。ですから、どんなに相手の口臭が強くても、我慢して目を開け、戦うしか
ないのです。それはもう満身総意の将棋になります。
 対局相手の口臭が超強烈だった場合、途中で、棋士が失神してしまうというケ
ースもあります。こうなったら、もちろん失神した方の「TKO負け」になりま
す。
 しかし、将棋の実力ではなく、相手の口臭で負けるのなんて誰でも嫌なもので
す。そこで、最近の棋士達は、さまざまな対策を行っています。
 一番手っとり早いのが、相手の棋士の口の中にノンスメル(消臭剤)を入れる
ことです。テレビにはノンスメルを口にくわえた棋士が映り、ちょっと変な気が
しますが、口臭で勝敗が決ってしまうのを防止するには仕方のないことです。相
手の口臭が半端でなかった場合は、もちろん、ジャアントノンスメル(ノンスメ
ルの大型版)を口にぶち込んでやります。口が小さくて、強引にぶち込んだため
に相手の顎が外れてしまったこともよくあるようですが、こうなった責任はそも
そも口臭が強かったことにあるので、問題になることはないようです。
 あるいは、トイレで使う、あの、名前は忘れましたが、昔、「臭い、臭い。臭
い匂いは元から断たなきゃダメ!」というコマーシャルでやっていた例の薬液。
あれをスポイトで相手の口に注入するのも最近では流行っているそうです。でも、
これにはちょっとばかし問題があります。口臭棋士が口に入れられた薬液で素直
に口をすすいでくれれば非常に効果はあるのですが、スポイトで注入されるやい
なや飲んでしまうとどうしようもなくなるのです。したがって、棋士達は多量の
薬液を用意しているという話です。相手が飲み込んだら、もう一度薬液を注入す
るのです。また飲み込んだら、再び薬液をスポイトで相手の口に注入します。こ
れを繰り返しているうちに、やがて胃袋が一杯になり、口臭棋士も諦めるのです。
 このように、ノンスメルや「臭い、臭い。臭い匂いは元から断たなきゃダメ!」
を使ったやり方には素晴らしいものがあります。しかし、対局相手が年上、先輩
棋士であった場合には、これらの方法は使いづらいですね。ちょっと失礼すぎま
す。そこで、先輩棋士達と将棋をさす場合には、違う対策を行う必要があります。
一番いいのが、ガスマスクをかぶる方法です。これなら相手棋士に苦痛を与えた
りしないので、年上の人だろうが、先輩だろうが気にする必要はありません。
 さて、対局中の言葉に話を戻しますが、「秒読み係の女は俺がナンパするから、
おまえはもう一方の女で我慢しろ!」「嫌だよ。秒読み女は俺がいただく」など
といった会話が棋士同士で交わされることもありません。理由は簡単です。将棋
番組を放送しているのがNHKだからです。NHKでは、このような発言は不謹
慎と決めつけ、以後、そうした言葉を吐いた棋士を番組に出さなくしてしまうの
です。これでは棋士は困ります。プロの棋士達のほとんどはテレビに出るために
苦しい修行に耐え、厳しい競争に勝ちプロになったのですから。将棋を放送して
いるのはNHKだけですので、そのNHKから見放されたら絶望です。「テレビ
に出るためだけなら、何も必死になってプロの棋士になる必要などないのでは?」
と思う人がいるかもしれませんが、違います。彼らは将棋でしかテレビに出れな
いのです。思い浮かべて下さい、プロの棋士達のことを。あの顔でタレントにな
れると思いますか。あの体格でプロスポーツの選手として活躍できると思います
か。確かに、あの思考力があれば、優秀な学者とか研究者とかにはなれるかも知
れません。しかし、学者とか研究者とかではテレビに出るのは不可能です。だか
ら、彼らにとってはテレビに出るには、将棋のプロになって将棋NHK杯に出場
するしかなかったのです。そして、やっとこさテレビに出れるようになったとき、
NHKに嫌われ、干されてしまっては目も当てられません。だからナンパの話は
しないのです。
  このように対局中は、棋士が話をしないため静かなのですが、彼らが洟(はな)
をかみ、ズズズズズという音がテレビから聞こえることはよくあります。そのと
きは、棋士が鼻にティッシュペーパーを当てているところがテレビに映ってしま
います。こういった少しばかし下品な場面は放映すべきことではないのでしょう
が、生理現象なのでしかたないのでしょう。
 さすがに、プロの棋士達は礼儀をわきまえているので、ほとんどの人は洟をか
んだ後すぐにティッシュペーパーをポケットなどにしまいこんでいます。席を外
して、ごみ箱に捨てに行く人もいます。洟をかんだ後のティッシュをカメラに向
かって広げるといった野蛮な行動に出る人は滅多にいません。また、広げたティ
ッシュにへばりついている洟クソを指でつまんで口に運んでいるシーンがお茶の
間のテレビに映し出されたという話もあまり聞いたことがありません。
  プロの棋士の中には、洟をかむといった習慣がなく、普段は人差指で洟クソを
ほじくっているという人も当然います。こういう人達の場合は、もちろん、鼻の
穴に右手の人差指を第二関節まで深々と突っ込んだ姿がテレビに登場してしまう
わけですが、これは青少年の教育にとってあまり好ましいものとはいえません。
左手で覆い隠しながら行うべきです。
 鼻をほじくったときに爪を立てすぎたため、鼻血が出てしまったということも
往々にしてあります。このような場合は、その後、脱脂綿を鼻の穴に詰めたまま
将棋を続行しなくてはなりません。これはかなり恥ずかしいことです。棋士はテ
レビカメラを気にするため、勝負に集中できないでしょう。
 洟クソのほじくり方がかなり荒っぽかった場合は、鼻血はなかなか止まりませ
ん。鼻に詰めた脱脂綿もすぐに真っ赤になり、やがては鼻の穴から血がポタポタ
と垂れてくるでしょう。そうなると、将棋盤が血だらけになり、「流血将棋」と
なります。
  このように、洟をかまずにほじくると、勝負の展開が予想もつかぬものとなる
可能性があります。これは、たとえ鼻血が出なかったとしても同じです。思った
通りの洟クソがほじくり出せても、将棋の内容は変わるのです。

(「掲示板(BBS)最高傑作集85」に続く)





前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 フヒハの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE