AWC Long Night(6)    うちだ


        
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★タイトル (TEM     )  93/11/20   7:28  ( 71)
Long Night(6)    うちだ
★内容

「知らなかった」聡は愕然と黙り込んだ後、つぶやいた。「のぞみちゃんだっ
たなんて知らなかったんだ・・・」
「でも私は知ってた」のぞみはソファを立ち上がり、聡に背を向けた。「って
言っても覚えてないか・・・昔のことだものね」
「そうさ」と聡。「昔のことだよ」
「あんたに言われたかないわね」のぞみはソファに座っている聡を睨みつけ大
声を出した。「あの時二人でいたくせに、あんたたち、逃げたじゃない。・・・
ねえ、好きであんなことされてると思った? 子供の私が、好き好んで」
聡がそれを遮る。「・・・・怖かったんだ相手は大人だし、俺ら子供だったし。
俺、知らなくて、だけど、今なら、今なら俺、命投げ出したって助けるよ!」
「今だったら、自力で逃げるわよ。さもなきゃ相手にもそれ相応の侮辱だって
してやれる。別に助けなんて必要ないわ。私、あの時に助けてほしかった。相
手は知らない大人で、私は一人で、本当に怖かった。あんたたちが逃げた後、
男もそそくさ逃げていったよ。きっと誰か助けを呼んで来てくれるって思った。
でも、あれっきりだったね」
のぞみは冷ややかに言った。聡は溜め息をついた。
「何言われても、しょうがないよな。俺だってヤになっちゃうよ。あの時俺は
怖じけづいて逃げた。その事実は今何を言っても消せないんだから」
「そうだよ。何言ってもムダだよ」のぞみは顔をそむけて吐き出すように言っ
た。聡はソファから立ち上がって、のぞみの前に立った。
「でも今、のぞみちゃんが助けなんかいらないって言っても、ここで同じ奴が
出てきたら、俺は自分の命に替えても守ろうと思うよ。この気持ちに嘘はない」
聡の言葉に、顔をそむけたままののぞみが答えた。
「・・・・大丈夫よ。誰も来ないわ。電話をソファの下から出して隠したのも、
猫を吊したのも私だもの」
「嘘?」聡は絶句する。
「だって聡くん。電話は隠しても、壁に電話線のコンセントがあるんだから、
電話があるならこの部屋だって分かるよ。ソファーだって、私たちずっと座っ
てたし、聡くんが2階に行ってる間にでもちょっと探せば、気付いても不思議
はないでしょ?」
「そ、そりゃまあ、そうだろうな、うん・・・黒猫も、って?」
のぞみはうつむいた。「ここに入る直前、外で聡くんを待ってる間に、黒猫が
いるの見付けたの。飼い猫みたいで、人なれしてた。私、擦り寄ってくるその
猫の首を持ってるナイフで刺した。それを転がってた棒にくくりつけた」
「何で? 何でそんなことまで・・・」聡の声がかすれる。
「確かめたかった」とのぞみ。
「じゃあこれは初めから全部、計画だったわけ?」聡は自嘲的に笑った。「あ
の時の子供が俺だかどうか確かめるために、そのために? 俺が伊藤の別荘で
ドライブに誘う時・・・それともこの旅行に来る時点から? 全部が全部、計
画だったってワケだ」
「違う」のぞみが激しく頭を振った。「私だって忘れてたよ。少なくともここ
に来るまでは忘れてた。ずっと忘れようとしてきたからほんとに忘れたと思っ
た。聡くんのこと、アテにして頼っちゃおうかなって思ったもの。二人でドラ
イブしてあのまま送り狼だって何だって、聡くんなら構わないって思ったよ。
誰もあてになんかしないって心に誓ったことも、忘れようと思ってた」
のぞみは聡を見た。「なのに、この建物の前に来て、忘れたはずのことまで思
い出して怖かった。同じだよ。聡くんは覚えてないかもしれないけど、昔見た
あの家と、この家は造りが同じなの。聡くんのことわりといいなって思ってた
から、あの時私を助けてくれなかったサトルくんじゃないって、どうしても確
かめたかった。絶対違うって確証が欲しかった」
「あの黒板を書いたのも、のぞみちゃん?」
のぞみはコクリとうなずいた。
「そうか」と聡。聡の袖についていたのは、のぞみの手についていたチョーク
の粉だった。「で・・・どうする? あの時の子供が俺だって分かって今、の
ぞみちゃんは、俺をどうしたいの?」
「・・・分かんない」のぞみは虚空に視線を漂わせた。「もしかしたらずっと
分からないままでいられたかもしれないのに、こんなイヤな思いまでして確か
めなきゃよかったって思ってる。それにもう、そんな昔のことなんかどうだっ
ていいよ」
「だったら」
聡の言葉を遮ってのぞみが言った。「だけどもう、確かめちゃったから。猫を
殺したわ。猫を押さえた左手にもナイフを刺した右手にもすごい手ごたえがあっ
た。猫はイヤな声出して死んだよ。その首を縛って、棒にくくりつけた。落ち
着いてたわ。ちゃんと手順ふんでそんなことしてる自分が怖くて怖くて・・・・
それでいて私、平然と聡くんと喋れたでしょ。そういうこと、できる人じゃな
いって自分で思ってたのに・・・」のぞみが笑った。「実際平気なんだよ。分
かる? 聡くんが思いもしないようなひどいことだって、怖い怖いって言いな
がらできるって事、私は確かめちゃったんだよ。後戻りはできないわ」

                               つづく




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