AWC Long Nighit(1)    うちだ


        
#3339/7701 連載
★タイトル (TEM     )  93/ 9/24  20:58  ( 51)
Long Nighit(1)    うちだ
★内容

 車体に雨が当たる音と息切れするような危ういエンジン音に紛れてカーステ
レオのCharaの声は切れ切れにしか聞こえない。舗装されていない細い山
道をでこぼこと聡の車は走っていた。雨あしはひどく、フロントガラスに叩き
つけられている。助手席ののぞみはステレオのボリュームをしぼって、言った。
「ねえ、前が見にくくない?ちょっと車止めて少し雨がやむのまとうよ」
ぷるるるるるん。
その言葉に答えるように車がイヤな音をたてて止まった。
「あ、止まった」と聡。
「嘘、うそー。止めたんじゃなくて? ホントに止まっちゃったの?」
聡はアクセルを踏んだ。キーをまわした。ブレーキを踏んだ。どれもすかすか
と手ごたえなかった。「くそ、篠崎のヤツ」聡はハンドルをばんと叩いた。
「何それー」のぞみが助手席で弾けたように笑った。「なんでここで篠崎クン
が恨まれちゃうワケー?」
「このボロスターレット、篠崎から借りたんだよ」
「あ、そうなんだ」のぞみはまだ笑っている。
「ちぇ」聡はふて腐れたように窓の外に目を向けた。最悪な状況ではあったが
のぞみの機嫌は別に悪くなっていないようなので、聡もつられて少しだけほほ
笑んだ。彼はのぞみのおおらかさが好きだった。

最初行くのを渋っていた一泊旅行に、“やっぱり行く”と聡が言ったのは、の
ぞみもその旅行に行くと知ったからだ。どうやら大学の仲間内の伊藤という女
の子のイトコの別荘を借りたものらしい。朝から十人、車三台でドライブがて
らあちこちへ寄って、昼過ぎに別荘についた。夕飯から飲み会になだれ込んで、
それからはUNO・大富豪というスキー合宿の夜のような色気のない展開になっ
た。夜中の一時過ぎてそろそろ二、三人が眠りだした頃、聡はのぞみをドライ
ブに誘った。のぞみは拍子抜けするくらい、あっさりと頷いた。

「そういえば聡くんて、家どの辺り?」
「俺? JRの多々良線てあるだろ、あの合歓木(ねむのき)町ってトコ」
「へえ、そこ、私も小さい頃にちょっとだけ住んでたよ」
「嘘お? いつ頃? 合歓木のどこに? 元町、本町?」
「んーと、小学生の低学年の頃だよ。合歓木小笠町に。でも私、転校ばっかり
で、いたのはほんのちょっとの間だけ」
「あ、なんだあ。俺、合歓木中町で、学区が違うから会ってないな、きっと。
のぞみちゃんみたいに可愛いコがいたら、放っておかなかったのになー」
「まーたまた。うまいんだからー」
止まってしまった車の中でとりとめのない話をするうちに、通り雨だったのだ
ろう。先程の雨は嘘のようにあがり、雲間から夜空がのぞいた。
「ちょっと車見てみる」聡が車を降りた。
「分かるの?」
小馬鹿にしたようなのぞみの言い方に聡はムッとして言い返した。
「ちょっとはねっ」
聡は車の外に出た。空気がひんやりとしている。エンジンルームを開けた。む
わあっと熱気が流れ出す。「うわ」
原因は一目瞭然だった。バッテリー液が少ない。聡は別荘で篠崎からこの車を
借りる時点で言われていたのだ。「まあ、かなり危ういけど、一晩くらい走る
だろうよ。あとは保証できないけどさ」聡は非常停止板をトランクから出しな
がら、“今日で一千年目の亀”を買う落語かなにかの話を思い出して苦笑した。

                             つづく




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