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天邪降臨 序章 01 みのうら
★内容
序章
SECT 1
しかし炎は迫っていた。
あきらを捨てていくことは出来ない。足手まといだろうが、何だろうが。
「あきら!!」
叫んだ。
「あきら!!!」
もう一度。炎が耳元を過ぎていく。轟々と。
手を延ばした。届かない。遠すぎる。
「あきら!!!」
齢五百年を越えようというが、大木が、二人の間で燃えている。向こうは火の海だ。逃
げられない。戻れない。来るしかない。
「あきら!!!」
泣きじゃくる、小さな子供。朱音の、残された、たったひとつのもの。
姉として過ごした、たった一月の間。
父も母もいない。育ててくれた祖父は目の前で死んだ。
肉親だと、引き合わされてからたったの一月。
ああ、だけど。
朱音は炎の中で目を凝らす。思い出す。
ああ、ひとめ会って理解した。
同じ女の胎内から生まれた、あたしのきょうだい。この世でたった一人、あたしとお
なじもの。
「あきら」
朱音は再び叫ぶ。時間がない。炎に紛れて奴らが来る。
炎を吸い込み、咳き込んだ。
あきらは、しゃがみ込んだままだ。
そして姉は決心した。ちからを使って、敵を呼び寄せることになろうとも。
炎からあきらを救わなければ。
心が決まってからは、一瞬になった。右手を振り上げ、倒木に叩き付ける。
じうと、手のひらが焼ける間もなく。
木は、存在しなくなった。
「あきら」
焼けていないほうの、左手を差し出す。子供が顔を上げた。朱音とよく似た顔で、朱
音ならけっして浮かべようもない表情で、朱音を見ている。
「おねえちゃん」
子供らしい、素直な瞳。姉も、こうなっただろうか。あきらのように、普通に育てら
れていれば。
一族の長として、また現人神として生きていなければ。
あきらの手を取る朱音は、あきらと二つも違わないと見えた。ただ炎が彼女の頬に投
げかける影が、その瞳をひどく大人びた、途方も無く年老い疲れたふうに見せていた。
「あきら」
何度目か、名前を呼ぶ。
さあ、立って。
と、言葉は次げなかった。