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★タイトル (WMH ) 93/ 8/30 6:43 (115)
おかしまんΩ[5]/有松乃栄
★内容
いつになったら、悪役出てくるやら。
☆★☆★☆
キャベツの苦悩 (作詞/凡野凡 作曲/井上町子 歌/お赤飯)
昨日うちの食卓に 一ヶ月ぶりにキャベツが並んだ
いろどり鮮やかグリーンが 僕らの心を癒してくれる
「パパ、今日はごちそうだね」って 僕が言ったらパパは笑って
僕に「時代の流れが変わる時はこんなもんだぞ、健一」と言った
そんなものなのかと 僕は思った
高いキャベツ 安いキャベツ
良いキャベツ 悪いキャベツ
普通のキャベツ おまけのキャベツ
僕らのキャベツ 君たちのキャベツ
串かつ屋さんも困っていると思うけれど ここは胸張ってがんばって
このメチャクチャな 季節驍フ流れを乗り越えてほしい
☆★☆★☆
「なんや、上の歌は……」
岡史満が言った。例によって、パターン通り、福良書店が舞台である。
「前回の二人が出した、自主制作のテープだって。花宮地区中心に、ちょこちょ
こ流行ってるみたいよ」
福良愛子が言う。こいつら、よくつるんどるな。
「あいつら、お赤飯て言うのか。NHKみんなのうたに出てきそうな、名前や
な」
「それにしても、暇ね」
「この店は、いつも暇なんかい……」
ふいに自動ドアの開く音がして、客が入ってくる。これも、パターン通りだ。
「こんにちは」
「あら、花子ちゃんのお母さん」
坂上玩具店の花子ちゃんの母、坂上悦子(さかうえ・えつこ)の姿がそこにあっ
た。
「女性信心と、女性エイトと、隔週刊女性と、苦笑ください」
「はいはい。また大量に買っていかれるんですねえ」
世間話をおりまぜながら、愛子が棚から雑誌を取る。接客のプロフェッショナ
ルである。
「ええ。私、このテの芸能ゴシップ雑誌は毎号読まないと、イライラしてしょ
うがないんですの」
「そうでしょうねえ」
史満が、そう返事をしたのには訳があった。坂上悦子には、実は、80年代初
期にアイドル歌手として活躍していたという、華々しい経歴があったのだ。ファー
ストシングル『人生うらんじゃう』からラストシングル『メタクソ節』まで、カ
ルトな名曲を世に出し、B級アイドルのカリスマ的存在をかもし出していたが、
突然、結婚引退を発表し、多くのファンを騒がせたものであった。
今でも、多数のアイドルマニアや、アサヒ芸能『芸能界あの人は今』の取材班
などが、わざわざ悦子を訪ねて、この花宮にやってくるぐらいだ。
史満はそんな悦子を見て、かすかに頭上からスポットライトが当たっているよ
うな気がした。
「うわあ、ホンマにあたっとるっ!」
見れば、悦子の体がすっぽり入るぐらいの、円筒形の光のカーテンが、上から
照らしだされている。
史満は、おそるおそる天井を見た。
どういう訳か、天井が透けて見え、上空には銀色に光る大きな円盤が、一本の
光線を発し、悦子を照らしていたのだ。
円盤はやがて、悦子の体を機内に呼び寄せ、光がとだえたかと思うと、ふおん、
ふおんと、どこか遠くへと飛び去ってしまった。
「な、なんだっ?」
「うーん、第3話をひきずってるだけのネタみたいね……」
二人は、この不条理な展開を無視することに決め、何事もなかったかのように
振るまった。
「暇ねえ」
「愚痴しか言えんのかい」
ぶいーん。自動ドアが開く。同じような顔をした、三つあみの若い女二人が入っ
てくる。しかし、その格好は異様なもので、片方は魚屋の黒いエプロン、片方は
かっぽう着を着て、右手にオタマを持っている。
「な、なんだっ?」
史満がうろたえていると、二人は史満と愛子の正面の壁に立ち、そして一礼し
た。
『はい、どーもー』
『私達、マヨドレ言いましてねー。コンビ組んで、18年になるんですけどね』
『ちょ、ちょう待ちいな。ほな、あたしらベテランかいな』
『何言うてんねんな。あたしら、姉妹やんか。姉妹言うたら、コンビも同然。
妹のあたしが生まれて、18年やから、18年コンビやんか』
『まあねー。言うことムチャクチャなんですよ。この妹』
『何がムチャクチャやねんな』
『こないだもね、二人で喫茶店入ったんですよ。んで、私がレモンスカッシュ
たのもう思ってね、
あの、もし……レスカをくださいません?
って、注文したんですよ』
『待ちいや、姉ちゃん。何が、あの、もし……や。よう、そんな上品ぶった嘘
つくなあ』
『何言うてんのよ。いつも、そんな感じやんか』
『よう言うわ、家でいつも、お父さんの前でもきったないタンクトップってい
うか、親父が着るみたいなランニング着て、ゴローンて横なって、ボリボリ、ケ
ツかいて、
良子、新聞とれや。
って、あたしはあんたの嫁ハンか!』
『やかましわ! そこまで親父クサないわい。そんなんより、あんた、私が、
レスカをくださいません?
なんて言ってるのにやで、この子、トマトジュース好きなんですよ』
『そう、あたし、トマトジュースに目がないんですよ』
『二日酔いのオッサンか、あんたは』
『ほっとけや!』
『んでねー、この子、私がレモンスカッシユをレスカって略したん、聞いてね、
注文取りにきた、ウエイトレスに、
ト。トちょうだい。ト。
って、わかるかーいっ』
『ええやないの。略してるんやんか』
『略しすぎや! かわいそうに、店のねえちゃん、目ぇ点になっとんねん。意
味通じひんもんやから、この子も、ムキになって、
トやト。トー、トー、ト。
って、あんたはニワトリかーいっ』
バシイと、胸にツッコミが入る。その音が、店内に響きわたる。
「な、なんやこいつら……」
唖然とする、史満と愛子であった。
(つづく)