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The Last War 4 − 1 Marchin Muller
★内容
第三章 暴走[失われたリング]
1
西暦二0二三年十二月四日 ニトムズ少佐は軍最高指令官アドリア ライト事務
総長に配転願いを提出した。それは、先日キャンプ地で発生した事件の責任を取る
という形であった。
十二月五日十時 エンジン音に包まれた真っ赤なスポーツカーが車のまばらなフ
リーウェイを突き進む。そのスポーツカーにはニトムズ少佐が乗っていた。スピー
ドメーターは六0マイルを指している。青色と茶褐色の水平線の向こうまで真っ直
ぐに道路が続いている。前方から道路の右につながるランプロードが姿を現した。
ニトムズはそのランプロードに車を進めた。ニトムズは翌月に結婚を控えていた。
彼の目的地はエドワーズ空軍基地で、そこには彼の婚約者がいるのだ。基地に近づ
くにつれて車の数が増えて、路肩に駐車している車が多くなった。今日は、基地で
航空ショーが行われる予定になっているのだ。この航空ショーではブルーエンジェ
ルスのアクロバット飛行とともにジェットエンジェルスの初めての公開飛行が目玉
になっている。長い車列が前方の基地の方まで連なり、車の流れはついに止まって
しまった。何人かの男が車から頭を出して前の方を見ている。その上空をジェット
戦闘機二機が斜め一列編隊/エシュロン編隊/で通過すると、その後を追うように
爆音が頭上を通過して行った。
十二月四日 ジェットエンジェルスは最後の訓練飛行を行っていた。
「レイリー中尉、右ターンに入るのが二秒遅いわ。もう一度、ダイヤモンド編隊
からよ」
「了解!」
編隊長機に乗るのは先日まで二番機に乗る筈だったマリー レオンハルト大尉で
ある。彼女はドイツ空軍のエースであった。国連軍創設にあたって、国連軍に志願
していたのだ。しかし、二九歳という若さで編隊長となったのは、先日の予期せぬ
事件があったからである。
そして、彼女が編隊長に命じられたのはわずか三日前であった。
2
十二月一日 基地内の一室に女性ばかり四人が集まって喋っている。
「どうなるのかなあ、これから」
「リーダー、そんなにしょげないで。ねっねっ」
ショートカットの頭を振りながら呟く木原さとみに草本浩子が顔をのぞき込みな
がらなだめる。浩子は自衛隊時代からさとみのことを“リーダー”の愛称で呼んで
いた。
「少佐は来ないのかしら」
「きっと、佐知子の替わりを探しているのね」
そこにいる四人は、ともにジェットエンジェルスのパイロットである。
「これからどうすればいいの? ショーまであと四日しかないのよ」
「すぐ見つかるわよ」
「落とし物みたいに言わないで!」ジェーンは立ち上がり、それまでたまってい
た怒りを浩子とさとみにぶちまけた。
「何を怒っているの? 私たちに八つ当たりしてもどうしようもないでしょ」
「白井佐知子はあんた達の仲間でしょう」
「そうよ、彼女は私たちの仲間よ。あなたにとってもね」
どうも、日本人対欧米人の戦いの構図になっているようだ。ジェーンはアメリカ
空軍の少尉であった。彼女はニトムズ少佐に引き抜かれ、ジェットエンジェルスの
六番機に乗る事になっていた。
「あのエロ女のせいで、チームは滅茶苦茶にされたのよ」
「なにも悪いのは彼女だけじゃないわ。私たちにも責任がある筈よ」
白井佐知子は浩子やさとみと同じく自衛隊から派遣されていた。国連軍では三人
とも少尉であった。佐知子もジェットエンジェルスの四番機に乗る事も決まってい
たのだ。しかし、あの事件があって、ニトムズ少佐は彼女の任を解いた。
「あの馬鹿さえいなければ、修司は死ななかったわ」
「やめなさい! もう、それくらいにして!」マリー レオンハルト大尉が止め
にはいった。
「何言ってるの、マリーあんただって被害者でしょう」
「私は被害者でも何でもない」マリーは三人と反対の方を向いて座った。
「なによいいこぶって……。あんたの婚約者は遅いわね」ジェーンはマリーの黒
長髪に向かって呟いた。
「あの事件は終わったの。今はチームを再建しなければならないのに……」
「……」四人は黙り込んだ。
数分後、ニトムズ少佐が部屋にはいってきた。その後に続いて二人の女性が入っ
てきた。二人の胸にはジェットエンジェルスのロゴが銀色に輝いている。一瞬、さ
とみと浩子はお互いの目を見合い、それから、マリーの方に視線を送った。マリー
は少佐の方を見やったままで、彼女の青い瞳は止まっている。そんなマリーの左脇
をジェーンが右肘でつついた。マリーが敬礼すると三人もそれに倣った。
「新人だ。白井少尉の後任のジェニファー ジョーンズ少尉、そしてジャニス
レイリー中尉だ。宜しく頼む」
「少佐! どういうことですか?」ジェーンが訳が分からず聞きただす。
「私はこのチームから身を引く事にした。編隊長はレオンハルト大尉に任せる」
「マリー、知っていたの?」
マリーは軽くうなずいた。
「二番機はレイリー中尉、三番機は木原少尉、四番機はジョーズ少尉、五番機は
草本少尉、六番機はコナー少尉…ということでいいな、大尉」
「はい!」
「これで文字どおりエンジェルスになったな。では、後は頼んだよ」
少佐は六人の敬礼に見送られて部屋から出ていった。そして、部屋から出るとき
一言、背中越しに言い放った。
「堕天使になるなよ」
浩子とさとみは、ほぼ同時に呟いた。
「きっついなあ…」「少佐……」
3
十二月五日十三時十六分 エドワーズ空軍基地の滑走路脇には一0万人近い観衆
がどよめき立っていた。上空にはブルーエンジェルスの機体が舞っている。青い機
体が七色の煙で青い空を引き裂いていた。低空飛行と急上昇、宙返りを繰り返して、
青空には白煙で描かれた花が咲いていた。観衆は拍手と歓声を送った。
地上ではジェットエンジェルスが準備をしている。
「各機、計器チェック」
「二番機異常なし」
「三番機OK」
「四番機OK」
「五番機問題なし」
「六番機OK、マリー、フィアンセにいいとこ見せなきゃね!」
「エンジン始動!」
大尉は白いヘルメットを叩き、周囲に発進の合図を送った。
ブルーエンジェルスがアクロバット飛行を終えて滑走路の向こう側から降りてき
た。キャノピーに太陽光線が反射されてキラキラ輝いている。数個のダイヤモンド
が空から舞い降りてきたようだ。青い機体がジェットエンジェルスの隣に次々と並
ぶ。
「管制塔、こちらはジェットエンジェルス、離陸許可願います」
「九番滑走路に移動して下さい。離陸準備」
「了解」
ジェットエンジェルスの赤く塗られた機体が誘導路を進んで行く。日も高く上り
滑走路からは陽炎がのぼり、赤い機体の真ん中の白いラインがはっきり見えないほ
ど揺らめいている。
「管制塔、離陸準備完了」
「順次発進願います」
「了解、各機フルスロットル」
「発進!」
滑走路をトロトロと進み始める。真ん中には一番機、その右には二番、三番機、
左には四、五番機、少し遅れて後ろに六番機が続いていた。赤いベースに白いライ
ンが入った機体は、初飛行からもう四0年近くなる往年の名機F/A18ホーネッ
ト 中型の戦闘攻撃機であった。双発のジェットエンジンに二枚の尾翼というその
機体は当時の戦闘機の主流であった。観客の目の前を左から右へ赤い機体が轟音と
ともに通り過ぎていった。そして滑走路から機頭を擡げた。機体は後方に白い渦流
を残しつつ上昇していった。前の五機はブーメラン状にフィンガーチップ編隊を組
んでいる。続く六番機は僅かに遅れていたが、やがて編隊に追いついた。六番機は
一番機の後方上空に位置を取りダイヤモンド編隊となった。編隊は反転して観客の
いる滑走路に向かって超低空で進入してきた。
「はじめるよ!」
「一、二、三、ゴー」
一番機は直進し他の五機は左右と上に散開した。
観客は歓声を贈る。しかし、ジェットの轟音にかき消された。五番機が頭上五0
mを通過したとき、誰もがその轟音に耳を押さえた。そして、心地よい恐怖感に身
を屈めた。
「キャー」一0万人の歓声と拍手が続いた。
観客の左手で集結した六機は、編隊を横一列のラインアブリーストに変えて滑走
路に戻ってきた。水平反転、宙返りを繰り返す。そして、六機がタイミングをずら
して宙返りをする。さらに宙返り、反転の後に、観客の目の前に戻ってくる。観客
は右から左から、そして、後方から前方からと現れては通過ぎていく真紅の機体を
目で追い、頭を前後、左右させていた。
そして、このショーの最高の見せ場の公開実射である。観客から滑走路をはさん
で反対側に戦車が走っている。それは今では旧式となったM60A戦車であった。観
客の右手上空から降下してくるF/A18ホーネットの機体から黄白色の触手が延
びたかと思うとM60は爆炎を上げていた。と、同時にF/A18にも異常が起こ
っていた。
「え!」それがマリーの最後の言葉だった。
ジェットエンジェルスが編隊飛行して観客の上空に近づいて来たとき突然ジェッ
トエンジェルス一番機が炎に包まれた。観客席の中に火の玉と化した一番機が落ち
ていった。そこは、悲痛な叫びの海となった。あるものはにげまどいあるものは炎
に飲み込まれた。
「キャー」それは、数分前の歓声とは異なる叫び声であった。数万の人々が右往
左往していた。
この事故は一時間のうちに全世界に報道された。航空ショーで起こった史上最大
の事故として……。
しかし、数時間後、撮影されたビデオで編隊長機のコックピットから炎が上がる
瞬間が確認された。そして、この一件は事故ではなく事件と訂正された。