AWC 掲示板(BBS)最高傑作集61


        
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★タイトル (KCF     )  93/ 6/12  17:59  (198)
掲示板(BBS)最高傑作集61
★内容

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洋式便器の便座の形 [5/29]
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 寒さの厳しい冬の日は、洋式便器に座るときに便座が非常に冷たく感じますね。
そんな便座に両方のケツをくっつけたくないため、冬の間じゅうずーと、私は右
のケツを浮かしながら用を足していました。それが原因で私は慢性の腰痛になっ
てしまいました。

 今回は洋式便器の便座の形について講義いたします。

  皆さんは、どうして便座があのように「馬蹄(ウマのひづめ)形」をしている
かご存じでしょうか。この理由を知っている人は、日本ではおそらく私を含めて
数人しかいないでしょう。
 実を言うと、私も3年前まで知らなかったのです。3年前に、オーストラリア
人の女性から教えてもらって初めてその理由を知ったのです。

 私が「便座が馬蹄形をしている理由」を知ったのは、忘れもしないオーストラ
リア北部のクイーンズランド州の州都、ブリスベーンにある「バックパッカーズ
ホステル」という安宿のキッチンにおいてでした。

 その日、私はいつものようにキッチンでサンドイッチを作っていました。キッ
チンには8人ほどの泊まり客がいましたが、東洋人は私一人だけで、他はすべて
白人でした。
 私がパンにバターを塗り、ハムをはさんで口に入れようとした瞬間、見知らぬ
白人の男が私に質問してきたのです。

「君は、どうして便座があのような馬蹄形をしているか知っているかね?」

 意表を突く質問でした。
 質問をしたその白人は、私がサンドイッチを食べようとした時にキッチンに入
ってきて、その質問を私にしたわけではありません。そうであったのなら私はジ
ョークとして軽く受け流したのでしょうが、実際には、彼は私がキッチンに来た
ときは既に今いる場所に座っていました。ブスッとした表情をし、非常に感じの
悪い人だったのですが、あいにく他の場所が空いていなかったので、私はその白
人の前に座ったのです。そして、私がサンドイッチを作っている時には目をそら
しておきながら、食べようとした瞬間を捉えて私にその質問を浴びせかけてきた
のです。
 私は完全に答えに窮してしまいました。
 そういえば生まれてから彼に指摘されるまで、便座がどうして馬蹄形をしてい
るのかを私は真剣に考えたことはありませんでした。幼い頃から何万回とケツを
じかに接してきた便座の形について、なんら疑問を持たなかったとは。
 私はそんなことを知らないのは、日本人の恥だと思い、苦し紛れではありまし
たが、その場で私なりの答を述べてみました。

「人間は基本的に馬が好きなんだ。」

 まったくというか、全然答えになっていませんでした。
 そのときキッチンにいた外人は、みんな非常に親切な人達でした。誰ひとりと
して、
「何だよ、その答は?」
だとか、
「頭がおかしいんじゃないの?」
と言う人はいませんでした。私に質問した男以外はみんな食事中で、私が答を述
べたときには一瞬、食べるのをやめたのですが、すぐに彼らは元の動作に戻りま
した。彼らは、私が便座の形に関する質問に答えたのではなく、単にひとりごと
を言ったと解釈してくれたみたいです。
 便座の質問をしてきた男も、
「今のは、聞かなかったことにする。」
と言って、私への心配りを示してくれました。
 私はその後、考えに考え抜きましたが、どうしても「馬」と「便器」との接点
を見つけることはできませんでした。
 結局、私は30分後に降参し、彼に頭を下げて言いました。
「たいへん申し訳ございません。正直なことを言うと、私は知らないのです。ど
うかお願いです。真実をお聞かせ願いませんでしょうか。」
 彼は、「ふん!」と言って私を嘲笑し、言葉には出しませんでしたが、
「知らないんだったら最初から知らないと答えればいいのに・・・・・・待たせやがっ
て。」という露骨な表情をしました。
  私は彼のその態度にむっとしました。どうして私は、サンドイッチを食べよう
としていたときにあんな質問をされ、謝り、さらに真実を教えてくれるようお願
いしなくてはいけないのでしょうか。
 がしかし、私が「便座が馬蹄形をしている理由」を言えなかったのも事実です。
今そこで、真実を習っておかなければ、私はそれを知らずに一生を過ごしてしま
う危険性があります。また、日本に帰ってから、子供達に同じ質問をされたとき、
答えられなかったら非常に恥ずかしい思いをしなければなりません。そこで私は
彼に対する怒りを堪え、再び頭を下げながらお願いしました。
「お願いです。どうか『便座が馬蹄形をしている理由』をお教えください。」
 彼はオーストラリアなまりの非常に強い英語で私に言いました。
「俺も知らないんだ。」

 私は流しに包丁を探しに行きました。しかし、普通なら包丁の1丁や2丁くら
いすぐ見つかるのでしょうが、私が相当逆上していたのと、その安宿のキッチン
がきちんと整頓されていなかったため、なかなか見つけることができませんでし
た。
 私を侮辱した白人は、
「お前は、何を探しているんだ?」
と言って、私が包丁でその男を切り刻んでやろうと考えるほど激怒しているとい
うことに気付いていないようでした。
 やがて、私は、流しの中の、洗わずに山と積まれた食器の下に、刃渡り20セ
ンチほどの包丁を見つけてしまいました。私は山積みの皿を流しの外へ出し、右
手で包丁を掴んで振り返り、私を侮辱した男を睨みつけてやりました。
 私を侮辱した白人は、私が激高して、これから何をしようとしているかに気付
いたらしく、体をぶるぶると震わせ、おびえた声で叫びました。
「ちょっと待ってくれ! さっきのは冗談だ! 頼む! 許してくれ!」
  周りにいた他の宿泊客も、青ざめて言いました。
「早まるな! 彼も謝っているじゃないか!」
 私は、みんなの声にはいっさい耳を傾けず、私を侮辱した男のところへ包丁を
振りかざしながら突進しました。
「キャー!」
  女性の宿泊客が悲鳴をあげました。私を侮辱した白人はすでに死を覚悟したの
か、胸の前で十字を切り、目をつぶって「アーメン!」とつぶやいていました。
 私はもちろん、本気で彼を刺し殺そうなどと思ってはいませんでした。ただ、
とんでもない侮辱を受けたので、仕返しに彼を脅してやろうと思っただけです。
ですから、私は、彼の目の前で、振りかざしていた包丁を降ろし、さっき食べよ
うとしていたサンドイッチの耳をその包丁で切り落としながら言いました。
「私たち日本人は、サンドイッチを作るときは、パンの耳を切るのです。みなさ
ん、どうかなさいましたか?」
 私は、みんなが
「なんだ。そうだったのかー。」
と言いながら、胸をほっとなで下ろすものと思っていたのですが、実際には違い
ました。
 便座質問男は、閉じていた目を開け、私を睨みつけながらこう言いました。
「なんというもったいないことを! 日本人はパンの耳を捨てているのか?」
 他の人達もその男に同調し、
「国内で生産される食料では足りないから、日本は大量に国外から食料品を輸入
しているんだろ! それを捨てているなんて!」
「アフリカでは毎日、数万人の子供達が食べる物がなくて餓死しているというの
に!」
「日本人の野郎! ふざけやがって!」
と言い、拳を握って私を睨みつけてきました。
 非常にまずいことになってしまいました。このままでは、私は、日本人の代表
として、また、パンの耳を捨てるという悪習を持つ日本人全員への見せしめとし
て、そして、すべての日本人の責任をとらされて、みんなから殴り殺されかねま
せん。
 ここでは私に集中したみんなの非難を何とか和らげる以外にありません。外国
ではこのような場合、ジョークが一番有効です。
 そこで、私は、みんなの笑いを誘うため、捨てようとしていたパンの耳をムシ
ャムシャと食いまくり、バターが塗られハムがはさまれたサンドイッチのメイン
の部分を残飯入れのポリバケツに捨てました。
 みんなはこのギャグに対し、
「うわっはっはっは!」
と大爆笑してくれるものだと私は予想していたのですが、実際には誰も笑いませ
んでした。
 逆に、みんなの怒りは頂点に達したらしく、
「これほどふざけた奴は絶対に生かしておけない!」
と叫びながら、私がパンの耳を切り落とした包丁に手を伸ばしてきたのです。
 私は、「これを奪われたらみんなに体をズタズタに切り刻まれてしまう!」と
思い、素早く包丁を取り上げようとしたのですが、私の目の前に座っていた便座
質問男が私より一瞬早くそれを手にしてしまったのです。
 仕方がないので、私は速攻で残飯入れのポリバケツにダッシュし、バケツの中
から、さっき私が捨てた耳なしサンドイッチを拾い上げ、
「もう味は十分に染み込んだかな?」
と言って、私がサンドイッチを残飯入れのポリバケツに入れたのは捨てるためで
なく、実はサンドイッチに「残飯の味付け」を行うためだったとみんなに思わせ
ることにしました。
 すぐにみんなは、
「日本では、サンドイッチのそういう味付けの仕方があったのか。」
と言って納得してくれました。私の作戦はまんまと功を奏しました。

 私はこれで一見落着だと思っていましたが、そうではありませんでした。
 しばらくすると、私が残飯の味の染み込んだサンドイッチをなかなか食べない
ことに疑問を抱き始めた便座質問男が、
「どうしてそのサンドイッチ食べないんだ。時間がたつと染み込んだ味が薄れて
しまうぞ。」
と、私に嬉しくもなんともない忠告をしてきたのです。
 ここで、私が
「実はあれはウソでした。」
などと言おうものなら、今度は完璧にみんなから包丁でズタズタに切り刻まれ、
バラバラになった死体を残飯入れのポリバケツに放り込まれ、翌日に生ゴミとし
てゴミ置き場に出されてしまいます。
 仕方がないので私は、
「あ! 忘れてた。」
と言って、残飯の味がほどよく染み込んだサンドイッチにガブリつきました。
 パンやバターやハムの味とはまったく異なる、非常に酸っぱい味が私の口いっ
ぱいに広がりました。私は「何だ、この味は?」と不審に思ったのですが、みん
なが見ているため、何とか我慢して半分だけは食べました。しかし、あまりに異
様な味がするので、私は「変だなあ。」と思い、食べかけのサンドイッチをひっ
くり返してみました。
 サンドイッチの裏側にはピンク色のアイリッシュ・ドレッシングのような、ね
ばねばした液体がべっとりとついており、そのドレッシングの中には数本のラー
メンが見えました。

「サンドイッチに、酸味がかったラーメン入りドレッシング」

 私の口にはどうしても合いません。
 それにしても、どうしてドレッシングの中にラーメンが入っていたのでしょう
か。オーストラリアでは日本と違い、ラーメンはあまり見かけません。確かに中
国系の人もいて、オーストラリア人はラーメンをまったく食べないとは言い切れ
ませんが、あまり見られないのは事実です。もっともそこは外国人がたくさん泊
まる安宿でしたので、外国人の宿泊客が前日にでもラーメンを食べたのかもしれ
ませんが。

 しばらくすると、キッチンに香港人の宿泊者がやってきました。私は彼を見て
昨晩のことを思い出しました。私は前日の夜は相当酔っぱらっていたのですっか
り忘れてしまっていたのです。その香港人は前日から同じ宿に宿泊していたので
す。
 昨晩、私は近くのパブで飲み、べろんべろんに酔っぱらって宿に帰ってきまし
た。キッチンに入るとその香港人がラーメンを食べており、私は最初、彼が日本
人だと思ったので声をかけたのです。
 彼は日本について少しばかり興味を持っていたので、すぐに私と友達になるこ
とができました。そこで私は、パブから帰る途中で買ったビールの栓を開け、そ
の香港人と一緒に飲み始めました。
 飲んでいる途中、その香港人に、
「酒を飲むときの日本の風習を教えてくれ。」
と言われたので、私は大学生など若者に人気のある「一気」を紹介してあげまし
た。
      (「掲示板(BBS)最高傑作集62」に続く)




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