#1280/1336 短編
★タイトル (XVB ) 00/ 8/ 9 22: 5 ( 74)
ルルンパ星の宝石 $フィン
★内容
宇宙からの観光船から美しい瑠璃色に見える惑星ルルンパ、宇宙の楽園とうたわ
れるルルンパ星へようこそいらっしゃいました。これといった産業の発達していな
いこの星の暮らしはお客様からの収入によってまかなわれているといってよいでし
ょう。
まず宇宙湾から降りて、お客様が初めに気がつくのは少し汗ばむほどの気温なの
に、この星の大気にすがすがしいハッカにも似た清涼感漂う薫りが含まれているこ
とでしょう。この薫りはこの星で育てられるバロンバロンの樹が大きくなり赤い花
が受粉するために使う薫りなのです。今取ろうとしたお客様、赤い花を手にとって
存分に薫りを堪能してください。なにせこの星のほとんどの樹が少しの薫りの違い
があってもバロンバロンなのですから、花を獲ったからといって刑法で罰せられる
こともなければ、星外に宇宙服を着たまま放り出されるといったこともありません。
次に目を惹くのは地球では見られなくなった黄色い太陽です。太陽が照りつけて、
どこまでも青い空、あそこでは白い入道雲まで出ています。これは他の星のように
ドームで創る人工のものとは違い天然のものです。天然といえば、この大きく広が
る海も天然のものです。地球では第四次宇宙大戦で海は放射能にまみれて赤茶けた
地肌を見せるだけとなりましたが、ここルルンパ星では昔のままの姿の天然の海で
ご存分に遊んでもらってイルカの餌付け風景やサンゴショウでのマーメイドショウ
が見られることを約束します。
お子様をお連れの親御さん、お子様がどこか変な場所に入り込むのじゃないかと
の心配は杞憂のものとなりましょう。お子様には観光客向けに訓練された原住民の
子供がつきっきりでになって野山を駆け巡り、三日も経つとどれが自分の子かわか
らないほどに野性的な子供に変貌します。―ここだけの話なのですが自分の子だと
思って連れ返った子供が実は原住民の子供だったと笑えない冗談まででてくるぐら
いです―。
さて、夕焼けを見ながら、お食事を致しましょう。これはバロンバロンの花の蜜
で作ったジュースです。そしてバロンバロンに寄生するナイトガロンの幼虫のから
揚げです。バロンバロンはこの星の象徴的な樹木です。建築用材に使われるのはも
ちろん、香辛料、香水、食物、精力剤その他もろもろこの星にとっての生活必需品
といわざるを得ないでしょう。
もう一つ、この星の特産と言えば、ナイトガロンの成虫です。先ほども申しまし
たとおり、ナイトガロンの幼虫はから揚げ、酢味噌、焼き物、味噌汁の具など、和
洋、中どれをとってもおいしく食べられます。それに成虫の価値といったら……百
年間バロンバロンの樹に幼虫として過ごし、成虫となるのはたったの数日だけなの
です。ナイトガロンこそ名実ともにルルンパ星の宝と言ってもいいでしょう。ほら
あちこちで赤、青、緑の光が見えますね。あれはナイトガロンが発する光です。一
匹一匹が違った遺伝子配列を持ち、雄雌がお互いに求愛するときに発する光が固体
ごとに違う上にバロンバロンの樹によっても色が変わってくるというもので、一匹
として同じ色のものはありません。ガイドブックでうたわれているとおり他の星で
はナイトガロンの成虫は一匹100万ピープルもの高値で売買されていますが、ル
ルンパ星では100分の1の1万ピープルという安値で観光客ならどなたでも買う
ことができます。ナイトガロンは甲虫科に属し、一千年前に他の星から今は滅んで
しまった前銀河帝国の輸送船にまぎれ込んだ虫だと言われていますが、バロンバロ
ンの変質遺伝子を吸収してあのように光る虫になったそうです。ナイトガロンをお
買いになることをおすすめいたします。さもないと後で買ってなかったことに後悔
することになるでしょう。あちらでたたずむお客様はもうすでに服一杯にナイトガ
ロンの成虫をたからせて、宝石をちりばめた中世の王女様のドレスのように輝いて
います。
とはいえ原住民の嫉妬にはお気をつけください。ナイトガロンの成虫をこれだけ
身にまとえるというのはわたくしどもでも一部の富豪階級だけです。ですから観光
エリア以外の貧民層が棲むスラム街には決して入り込まないことです。そこには数
千匹ものナイトガロンをまとったお客さまをまぶしそうに見る貧民どもがいます。
貧民街の原住民は一応に寿命が短いのです。それはなぜかは後ほどご説明いたしま
すが、彼らは幼虫を食べることはできてもナイトガロンの成虫を買うお金がないも
のですからなんとか成虫を得ようとお客様のご迷惑のかかるような……例えば、ポ
ン引き、引ったくり、スリ、ときには強盗までやってのける不届き者までいるので
す。
みなさま夜も更けてまいりました。身体中にナイトガロンをたからせていますね。
それでいいのです。そうしなければならないのです。その訳は明日この星を出発す
るときのお聞かせするとして、当ルルンパ星の最高級ホテルで美しいナイトガロン
と一緒に良い夢を御覧下さい。
みなさま朝です。ナイトガロンはどうなりました。ははぁ起きたら全部死んでい
た。どうしてくれるのですって……いや、これでいいのです。実はこの楽園のよう
なルルンパ星にも唯一欠点がございます。実はこの星に最初から生えていたバロン
バロンの樹には大量の放射能が含んでおりましてね。この放射能が変質遺伝子の元
となりナイトガロンの光の元だったのです。そしてナイトガロンはみなさまがバロ
ンバロンの放射能除去のために必要なのがナイトガロンの成虫だったのです。生き
たナイトガロンを地球に持っていけば放射能で汚染された地域が再活性化できるの
ですが、環境が違うために1千万分の1しかナイトガロンが生き残る可能性がない
のです。そのうえ変質遺伝子のためにこの星でしか繁殖ができないようになってお
ります。バロンバロンの樹の放射能を取り込みナイトガロンはたった数日だけ発光
してお客さまの命を救うために命をなくしてしまう。なんて哀しくて美しい虫なの
でしょう。だからこそ彼らはルルンパ星の宝石と言えるのです。