AWC 宣戦布告14《時空犯罪》        平山成藤3.5.6.4


        
#990/1336 短編
★タイトル (UJC     )  98/ 1/30  17:41  ( 92)
宣戦布告14《時空犯罪》        平山成藤3.5.6.4
★内容


 男が歌舞伎町のゴミ溜め場で酔いつぶれていた。なにをするという風
でもなく、ただ街角のネオンサインを見つめている。

 そんな男の前に、OL風の女が立ち現れてきた。
「−−ぶざまね」
 女は男に言い放った。
「ぶざまね。未来の広尾次長さん」
 女はそう言いながら男の前にひざまずくと、ハンドバックからピスト
ルを取り出して突きつけた。

 男は最初、なにかの冗談だと思った。
 たしかに彼の名は広尾だったが、またも大学受験に失敗してしまった
哀れな浪人生でしかない。命を狙われる心当たりがあるはずもなく、ピ
ストルを突きつけられても殺されるという現実感が沸いてこなかった。
 女は言う。
「今日あなたを殺すつもりで来たんだけど、あまりに無様な次長さんを
見てたらやる気が失せたわ。どう?今年も大学受験に失敗した感想は?
 あなたじゃ一生大学は無理ね。大卒の切符がなけりゃあ、あなたの大
蔵省官僚次長としての未来も消滅。−−ぁああ、いい気味」
 女はそう吐き捨てるや、一人悦にひたった。

 広尾はなんのことだかさっぱり訳が分からなかった。女はまるでタイ
ムマシンでも使って未来からやって来たようなことを言っている。将来
自分が大蔵省の官僚になるようなことまで言っているのだが、経済ド素
人である彼にそんな未来は想像できなかった。今の彼は明日のメシ代に
も困る苦学生でしかない。
「まるでわかってないようね?」
 女は勝ち誇ったように言い捨てた。
「あなたの人生もこれまでってことよ」
 女は余裕の表情をみせながら、広尾の鼻先でピストルをちらつかせて
みせた。
「私はあなたに殺された女なの。もっとも未来の広尾次長さんだけどね。
『金曜日はユカちゃん』ってさんざん弄んでくれたじゃない?官官接待
に体まで奉仕して口封じに消されるなんて私もいいツラの皮よね。

−−でも未来にはクローン技術もあればタイムマシンもあるの。私はク
ローンになってでも生き残り、こうして過去のあなたに復讐しにきたわ。
あなたの未来をむちゃくちゃにするためにね!」
 女は怒りもあらわに立ち上がるや、男を見下して見据えた。
「これが私の宣戦布告なの−−お分かり?」

「誰なんだ?」
 広尾はとりあえず聞き返した。が、話が唐突すぎて、女が自分に対し
て怒りをあらわにする理由すらよく飲み込めないでいた。
「覚えてないの?−−当然よね」
 女は訳分からないことを言いつつも、余裕の笑いを浮かべてみせた。
「私はあなたのかわいい部下だった青緑ユカ−−知るわけないわよね。
未来の広尾次長さんだった人。
 でももうあなたは大学生にもなれないの。私が八方に手を尽くして大
学にも通れないようにしてやったから、あなたには官僚の席は絶対やっ
てこないわ。
 きっと職にも就けないわね。一生そのゴミ溜め場で寝てるがいいわ!」
 ユカはそう言い捨てると、足早にその場を立ち去ろうとした。
 が、それを
「まてよ」
と広尾が止めた。言われて思わず、ユカは立ち止まった。が、振り返り
はしない。
「なにカン違いしてるのか知らんが、俺がその官僚とやらになるんだっ
たら、お前なんか絶対に部下にするものか。お前と同じように、大学に
も通れないようにしてやる」

−−それはただの捨てゼリフだった。

 だがその瞬間、女の頭のなかで何かがはじけ、ユカは唐突に我を忘れ
てしまった。急に茫然自失となってしまい、手にしていたピストルがや
たらと気になった。
 ユカは我を忘れてしまったが、実は我を忘れたどころではなかった。
自分が今何をしているのかすら分からなくなってしまい、なぜピストル
を手にしているのかすらも分からなくなってしまっていたのである。な
にげない広尾の言葉は一瞬にして、青緑ユカの官僚としての未来を完全
に抹消させてしまっていたのだ。
−−当然、ユカが若き広尾を殺さねばならない理由も記憶とともに消滅
してしまっていた。

 唐突に未来が変わって、ユカはなにも分からないままにピストルを見
つめていたが、しばらくして、そのまま街中を歩きだした。ゴミ溜め場
に寝そべったままの広尾に気づくこともなく歩きだしてしまったのであ
るが、今のユカは広尾と出会うこともなくなったユカであり、気づいて
も振り返ることもしなかったであろう。
 ユカは街を歩きながら、自分がなぜピストルを持っていなければなら
ないのか思い出そうとしたが、どうしてもそれができなかった。ピスト
ルはまるでおもちゃのようであったがずっしりとして手に重く、ニセ物
とも思えなかった。
 とりあえずユカはそれを交番に届け出ることにした。が、はっきりと
自分のことを言うことができず、そのまま警察に補導されてしまった。

−−教訓−−
殺しに捨てゼリフはいらない





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