#977/1336 短編
★タイトル (UJC ) 98/ 1/ 4 22:27 (157)
当座サギましておめでとうございます。 平山成藤2.0.3
★内容
日付は12月31日から1月1日へと変わった。
「おおう。新年だ」
「いやぁ〜、ついに越年してしまいましたね」
「いつまで続くんだろうな」
「最初、もって3カ月とか言われていたのに、まだ続いてる」
「1カ月とか年内解決とか言ってた人もいましたけど、知らぬ間に年度
内解決にのびてましたね」
「某国の年度末は8月だから、じきにそっちになるぞ」
「また『みんな少しずつアメリカなんだ』ですか?正月のお祝いも今年
で最後かな」
「来年からは全員がサンタのメリーちゃんで年越しだな。和服厳禁」
「ボディコン標準装備ですか?戦隊モノになっちゃいますよ」
「誰にも分からんギャグはいうな。よし、初詣だ」
「え、どこへ行くんですか?」
「原宿駅だよ」
−−そう言って会社員Aが連れてきたのは、原宿駅にある明治神宮では
なく、竹下通りのはずれにある東郷神社であった。
会社員Aは言った。
「男だったら、東郷神社だ。分かるな?」
「分かりません」
会社員Bは言い切った。
「ネタが東京ローカル過ぎて分かりませんよ。もうここは結婚式場になっ
てんじゃないですか?」
その言葉にAが切れた。
「バカ者。貴様それでも帝国軍人かっ!恥を知れぃっ!」
「うわっ、狂った。だから私は軍人じゃないですよ。あなたも私もただ
のサラリーマン」
「馬鹿者。三船敏郎氏亡き後、次の東郷元帥閣下を誰にするか選ばねば
ならないこの重要なときに、東郷神社に詣でもしないとは何事か!恥を
知れ。国賊め。手打ちにしてくれるわっ!!」
そう言うや、Aは軍刀を抜く構えをみせた。
Bは驚いて後ずさる。
「うわぁつ!そんなん、どうでもいいでしょう。それに帝国軍人にはそ
んなこと決めるぐらいしかすることがないんですか?すなおに表参道で
ご来光を拝んでから明治神宮へお参りしましょうよ」
「馬鹿者。そんな町娘でもしているようなこと、してたまるか。死んで
も大江戸八百八町下賎の身には落ちんぞ」
「なんですか。いきなり、それは。いつのまにサムライになったんです
か?」
「日本男児たる者、いつも心は七人の侍だ」
「………」
「−−分かりました。行きましょう。とりあえず、表参道にでも。町娘
がいっぱいいますよ。町娘って女子高生のことですか?最近落ち目です
けど、まだいっぱいいますよ」
「なに?」突然、Aの目つきが変わった。
「よし。その女子校生とやらを拝みにいくか。成敗してくれる」
「勝手に成敗はよくないです。けど、とにかく表参道へ出ましょう」
Bはそう言うと、Aの体を押すようにしながら表参道へ引っぱっていっ
た。
しかし、この冬休み、制服を着た女子高生などはいるはずもなく、皆
冬服の重装備でご来光を待っていた。
「最近は女も軍服を着るようになったのか」
Aが女性物のコートを見ていった。
「あれはファッションですよ」
Bは言ったが、
「なに、ファッショか。まあいい。富国強兵、元気な子供を産めば国も
安泰だ」
とAはカン違いして勝手に納得してしまった。
「母が軍事に興味をもてば子供も立派な軍人に育つ。いいことだ」
「よくないですよ」
Bは口をはさんだが、Aは聞き耳をもたなかった。
「−−しかし、日の出にはまだ時間があるな」とA。
「先に東郷神社でお参りだ」
「いいですけど、明治神宮へも行きましょうよ」
「だれが町人と同じことするものか」
しかし明治神宮へ行きたいBはここで一計を案じた。
「でも、神宮にはかわいい巫女さんたちがいっぱい待ってるそうですよ」
「なに?」
突然、Aの顔付きが変わった。にわかに顔がエロエロしてきだす。
「よし。行くぞ。成敗してくれる」
そう言うや、Aは表参道を明治神宮へ向けて直進しだした。どうも動
機が不純なサムライであった。
しかしである。
『−−新年サギましておめでとうございます−−』
明治神宮へ入ると、通り道のゲートにはこんな垂れ幕が掲げられてい
た。
「なんなんだ?」とA。
「新春からいきなり劇場モノか」
「やめましょう−−」
BはAに言った。
「そのほうがいいかもな」
「きっと巫女さんがサンタのメリーちゃんになってますよ。神主は黒服
だったりして」
「ありうる。−−帰ろう。元旦から死ぬ思いをするのもなんだ」
「東郷神社にしましょう。そっちでいいや」
「そっちでもいいとは何事だ!」
その言葉にAがまた怒りだし、Bの首をしめたが、東郷神社へ行くと
いうことに異存はなかった。
しかしである。
『−−新年あげまん指定おめでとうございます−−』
東郷神社の入り口には、知らぬ間にこの垂れ幕が掲げられていた。
「やめましょう−−」
とBがまた言いだして逃げようとした。
が、Aはそれを引きとめた。
「いや、大丈夫だ。サギネタじゃない。ここには女子学生会館もあるん
だ。ここの女子学生はみんな男を立てる素晴らしい大和撫子ということ
だろう。心配ない」
東郷神社でお参りしたいAは必死に弁護したが、すでにBは及び腰だっ
た。ちなみに東郷神社(東郷記念会館)の横には、東郷女子学生会館と
いうものがある。
「前から思ってたんですけど、なんで軍神の神社に女子だけに限定して
る学生会館があるんですか?少し変ですよ。ただのエッチだったんじゃ
ないですか?東郷さん」
その言葉にAがまた変容した。
「馬鹿者。ただのシノギだ。神社も経営があるんだ。それに女は国の宝。
軍神がお守りして当然だ」
「それで女子高生だけ守るっていうですか」
「バカモン。ゆりかごから墓場まで、すべての女子高生を守ろうという
のだ」
「やはり、女子高生だけか...」
どこからともなくBの口からその言葉がもれてきた。が、女子学生と
言おうとしたのだという言い逃れは一切認めなかった。
ちなみに朝早いので、東郷神社はまだ無人だった。
神社自体はそれほど大きくもない、ただの神社である。その横につな
がっている東郷記念会館で行う結婚式のためにあるといってよい。
二人は警戒しながら神社へ入っていったのであるが、どこからか突然
黒服が現れてくるということもなく、社へ到達することができた。
「−−やはり、お参りするなら東郷神社だな。そうだろう?」
東郷神社を前にして、柏手を打ちながらAは語った。
「そうですか?」
結果的にここに来てしまったのではあったが、なんか納得のいかない
ままに神を拝んでいるBであった。
「ここで拝めば戦争に勝ったも同然だ」
とAは虚勢を張って言う。
「だから戦争してませんよ」
Bは言い返したが、今のAに何をいっても無駄だった。
「おっと、日が明けた」
Aがなにかごまかすように初日の出に気付き、後ろを振り返った。
「ご来光を見逃しちゃいましたね」
あまりすがすがしくはない初日の出ではあったが、そんなありきたり
の朝日を見つめるAの瞳はどこか遠く、崇高で清々しかった。
Aがその初日の出にむかって言い放つ。
「ニッポンの夜明けじゃのう」
「誰なんですか?あんたは」
突然口調がオヤジくさくなったAに、Bは聞き返したが、Aはじっと
遠くを見つめたまま、いつまでも自分の世界に浸りつづけて誰も相手に
することがなかった。
こうして今年もよく分からないままに、年は明けたのであった。
−−教訓−−
自然現象、盆正月を選ばず