AWC 当座出題者まで死んでしまうクイズ2  平山成藤2.0.2


        
#902/1336 短編
★タイトル (UJC     )  97/ 9/18   2:52  (171)
当座出題者まで死んでしまうクイズ2  平山成藤2.0.2
★内容

《うわぁああああああああああーーっっ!!》
 また上から人が落ちてきた。今度はあの爽やかだった若者たちだ。
「出題者も死んでしまうクイズ……」
 Bは心せずつぶやいた。
 Aは下を確かめようとしてらせん階段の下をのぞき込んでみたが、吸い込ま
れてしまいそうでやめてしまった。
「こりゃ、俺たちが殺されることもあるわな」
 Aは他人事なふうに言った。冗談ではすまされない事態であるが、二人はす
でにそれなりの備えはしていた。カバンにピストルは常備してある。
 やたら長い階段のはてに、やがて劇場らしきものが見えてきた。
 だがその前には、一匹のネズミが二人を待ち構えていた。
 ネズミの前には○×のプラカードが置いてある。もしかして、ネズミが出題
してくるというのか。
「チュチュ、チューチュンチュン」
 いきなりネズミは鳴きだした。出題である。
「チュチュチュチュチュチュルチュチュ、チュチュチューチュチェチュイ?
 チュチュチュ?チュチュチュ?」
 これは出題なのか?AとBは回答に困ってしまった。出題内容がまったく分
からない。
 しかしネズミは回答を待つかのように、じっと二人をにらみ続けていた。
 どうするか迷ったが、Aは問題はこの前と同じ『この下に劇場はあるか?』
であるとヤマを踏み、『○』のプラカードを取り上げてみせた。
「チュチュー」
 ネスミは嬉しそうに鳴いた。
 AもBもこれは正解だと確信してそこを通り抜けようとした。
 が、それを劇場から黒服の人間が現れてきて阻止した。
「はずれだ」
 黒服はそう言い捨てるや二人を取り押さえ、ロビー脇のトイレに放り込んで
しまった。
「見て分からねえのか?ここは劇場に決まってるだろ。正解は『×』だ」
 と、黒服はていねいに説明してやった。問題は、ネズミ語で『この先にある
のは、劇場ではない。○か?×か?』であった。とても人間に分かったもので
はない。
「不正解者は罰ゲームとして、ここの便所を全部洗ってからの敗者復活戦だ。
せいぜい頑張りな」
 黒服はそう吐き捨てると、トイレを締め切って二人を厳しく睨みつけた。
「さっきの逆を出題するとは卑怯な!」
「サギだ!」
 二人は悪態をついたが、黒服はまったく相手にしなかった。黒服の監視の下、
二人は便所掃除をするしかなかった。
 黒服に睨まれている以上、便所掃除に手を抜くことはできなかった。が、幸
いにして便所はそれほど広くなく、便器も10は越えていない。すぐに済むはず
である。二人は掃除用具入れからブラシを取り出すると、黒服が納得するまで
便器を丹念に洗っていった。
 こうして便所掃除を終え、ブラシを戻そうと掃除用具入れの扉を開けると、
そこではシルクハットの男が大便をしていた。
「あ、間違った。失礼」
 Aは少しあわてて扉を閉めようとしたが、男は便器に座ったまま、やにわに
出題をしてきた。
「よしここで敗者復活戦だ」とその男。
 クサい匂いがただよう中、いきなり敗者復活戦が始まったのだ。確かそこは
掃除用具入れであったはずだが、そんなことはどうでもよかった。
「では問題」とその男。
「1916年に一般相対性理論を発表したことでしられるアインシュタインが、静
的宇宙の方程式の解決策としてこれを導入し、のちに『我が人生最大の失敗』
と言わしめた斥力のことを別名なんというか?」
「○×じゃないのか?」
 Aは文句をつけたが、シルクハットの男は無視だった。
 だがBは、問題をきいてニヤニヤと笑いだしていた。
「知ってますよ、これ。別名でしょ?別名はラムダ項−−」
 ブブー。どこかで音が響いた。
「ばすれ」
 とシルクハットの男。シルクハットの上がフタのように開き、大きな×の印
がバーンとあがった。
「あ、残念。ハズレはもう一度便所掃除だ」
 黒服が言い、Bの首根っこをつかみあげた。
「あ、いや。違う。宇宙項ですよ!だから別名がラムダ項。宇宙論しらないん
ですか?うわっっ!」
 黒服はBのクレームなどには聞く耳も持たず、二人をトイレから引きずり出
してしまった。
「次は女子トイレだ。前よりもっと丹念にみがけよ」
 黒服はそう言いながら、二人を女子トイレに押し込もうとした。
「うわ。やめてください。宇宙項だ。宇宙項なら絶対正解だ。宇宙論しらない
んですか?宇宙の斥力を表す定数はラムダでしょ!だからラムダ項!」
 Bは必死に訴えたが、
「最初にそう言わなかったのが悪い」
とシルクハットの男は言って、まるで相手にしなかった。
 二人は黒服とともに女子トイレに押し込まれてしまった。
 というわけで、二人は女子トイレも洗うしかなかった。
 だがしばらくして、劇場の支配人らしき人物がシルクハットの男を連れてあ
やまりにきた。
「大変申し訳ございませんでした」と、その支配人。
「先ほど、お客様の苦情を当方でお調べしましたところ、宇宙項はラムダ項で
も正解であることが判明いたしました。ウチのほうの間違いで、お客様に大変
なご迷惑をかけてしまいました。お詫びといってはなんでございますが、これ
から劇場のほうへご招待いたしますので、どうぞこちらへ」
 支配人は平謝りしながら、二人を劇場へ連れていった。シルクハットの男は
平伏しながら何も言わず、ずっとトイレに残っていた。どうもトイレの男らし
い。
 二人がトイレから出ると、トイレからなにかピストルの発砲音のようなもの
が聞こえ、タイルのへしゃげる音と、なにかモノがどさっと落ちる音が聞こえ
てきたのだが、支配人が「ささ。どうぞ」と無理やり引っ張っていくので、そ
れがなにかを確かめることはできなかった。ただ、あの黒服がなにかを懐にし
まいながらトイレから出てくるところは見ることができた。だがシルクハット
の男が出てくるところは見ることができず、そのまま劇場に押し込まれてしまっ
た。
 なんかトイレの中が気になって仕方なかったが、ともあれ、こうして会社員
二人は劇場へと到達したのであった。
「−−−しかし、久しぶりの劇場だな」
 Aが感想をもらした。
 当座サギサギ以来の出来事である。
「劇場壊れてなかったんですね」とB。
「これでやっと劇が観られるというものだ」
 二人の感動もひとしおだった。
 しかしである。
「これですべてが終わると思ったら、あまーい!!!」
 突然、どこからか女の絶叫がとどろき、舞台の下から男女ペアがせりあがっ
てきた。男はあの支配人である。
「なんなんだ?」
 と驚いている二人の前で、舞台はせり上がり、コロシアムのような階段状列
席へと変わっていった。そのすべてに、黒服がずらりと並んでいる。
「ここからが本番」
 支配人は、先ほどとはちがう高飛車な態度で言い放った。
「こんなに簡単に劇が観られるとでも思ってるの?」
 女のほうもかなりの女王様モードで言い放った。
「簡単だと?ここのらせん階段を降りてくるだけでも十分に苦労してるんだが」
 Aがクレームをつけたが、
「答えるのは質問されたときだけ!」
と女は頭ごなしに言い放って相手にしなかった。
「こいつら、自分たちがどれだけ苦労してるか全然見てないで言ってますよ。
絶対」
 BがAにささやいた。すると
「そこ。喋るな!」
 黒服の1人がほえて脅した。
「本番は全部で3万2千768問−−!」
 支配人が言い放った。
「なんなんだ。その数は!」
「ハンパすぎるぞ!」
「うるさい。全部答えられなかったらそこでアウト。言い直し、敗者復活など
は一切認めない。ではスタート!」
「第1問」
 女が出題を始めて、強制的にクイズは始まってしまった。
 問題は○×式、口頭形式など様々で、答えられないと床が抜け、回答者はど
こかへ落ちていってしまうというものだった。一回の間違いも許さない、とて
もブラッディなクイズだ。
 こんな超危険なクイズに誰が参加するものかと思うところだが、なぜか会場
は満員御礼だった。しかしあまりにもブラッディなクイズに次々と回答者は奈
落の暗闇へと落ちていき、あっという間に残りは会社員二人だけとなってしまっ
た。
 だが、奈落へ落ちるのはなにも回答者だけではなかった。
「−−では第604問。隋二代の皇帝で大運河などを建築したことで知られるのは
?」
 という出題があったときである。
「ようだい」
 Bは自信をもって答えた。が、しかし、
 ブブー
となぜか不正解のブザーが鳴り、
「惜しい!正解は煬帝(ようてい)または楊広」
と女は解答してしまった。
「待て!俺も知ってる。二代は煬帝(ようだい)だろ?」
 Aがクレームをつけると、辺りが騒然としだしてきた。
 先ほどの間違いもある。黒服たちはお互いの顔を見合って支配人の指示を伺
うことにした。
《うわっっ!!!》
 突然、支配人の床が抜け、なぜか支配人が奈落の底に落ちてしまった。支配
人がこの問題を作っていたのだ。
「あ、死んじゃった」とB。
「これからどうなるんでしょうねえ?」
 二人はそう問い交わしながら、出題席に残る女のほうを見つめた。
 が、女は何事もなかったかのように問題を出し続けた。
「−−帰ってきたぞ!」
 しばらくして支配人は地獄から這い上がってきたが、その顔は屈辱でゆがん
でいるのか、とても醜くみえた。
「これからは俺のことを支配人Rと呼ぶがいい」
 頼みもしないのに支配人は自己紹介をした。
 だがこの支配人Rも、『漢代、淮南王・劉安が編纂した思想書は何か?』と
いう問題の解答を淮南子(わいなんし)としたため、また自らの問題で滅び去
ることになった。正しくは(えなんじ)である。
 前と似たような身の滅ぼし方をしてしまった支配人Rは、二度と復活してく
ることがなかった。




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