AWC 当座出題者まで死んでしまうクイズ1  平山成藤2.0.2


        
#901/1336 短編
★タイトル (UJC     )  97/ 9/18   2:47  (132)
当座出題者まで死んでしまうクイズ1  平山成藤2.0.2
★内容

『当座出題者まで死んでしまうクイズをタダ今上演いたしております』

 あの看板がまた劇場前に立った。
「行くか…」
 会社員Aが会社員Bに語った。
「出題者まで死んでしまうんだから、回答者は絶対殺されちゃいますよ」
 Bは反対したが、AはBの肩をたたき、
「わかった。わかった」
と言うだけで、そのまま劇場の中へ連れ込んでしまった。
 誰かか殺されてみないと、実際に人が死んでいるのかどうか判らないもので
ある。

 入り口には前と同じく、チケット売り場があった。
 Aがチケット売り場に近づくと、いきなりそこのおばさんがクイズを始めた。
「では、ここで第1問。ここはチケット売り場である。○か×か?」
「いきなりここからクイズか?」
 とAはボヤいたが、おばさんは聞き耳を持たなかった。
「もしかして、もうここで殺されるかもしれないってことじゃないですか?」
 Bは逃げ腰になっていたが、Aはこの質問に迷わず答えた。
「ここは違っとー売り場だ。『×』」

 ぶぶー
「チケット売り場に決まってるでしょ。正解は『○』」

 チケットおばさんの言い方は非情であった。
「失格者はバツとしてそこでフラダンスを踊ってもらいます」
 すると売り場から売り子壌たちが次々と現れてきて会社員二人の服をひっぺ
がし、ココヤシのビキニだけというあられな姿にしてしまった。
「次の失格者が出てくるまでそこで踊っててね。ばいばーい」
 売り子壌はそう言うと、またどこかへ行ってしまった。
 チケット売り場の横には『らせん階段行き』というプラカードが立っており、
なぜか花輪の首飾りまでおいてあった。
「まるでどこかのウルトラクイズじゃないか!」
 Aは吠えたが、
「喋ってないでちゃんと踊る。ちゃんとしないとオマンマあげないよ」
とチケットおばさんに言われてしまった。
「いらない。いらない。こんなところのオマンマなんか」
 Bは苦笑しながら言ったが、チケットおばさんは相手にしなかった。もう失
格者なのでどうすることもできなかった。二人はみようみまねでフラダンスを
踊るしかなかった。
 それから客が何人かここを訪れることはあったが、しかし、こんなところで
いきなり間違える人間など一人もいなかった。いきなりのクイズに戸惑うこと
はあっても、誰もここがチケット売り場でないと思わないものはいなかったの
である。
 いつまでも二人はフラダンスをおどらされ続け、一日たって、ここを金券ショ
ップと勘違いしたパチンコ帰りのオッサンが引っ掛かり、ようやく解放された。

「−−えらい目にあった」
 Aはスーツの乱れを直しながら言った。
「もうあきらめて帰りましょうよ」
 BはAを引きとめようとしたが、しかし二人はもうらせん階段まで来てしまっ
ていた。
「では第2問!」
 いきなり、階段前に立っていた警備員が喋りだした。
「警備員まで出題者か」とA。
 しかし警備員は回答者の苦情は聞き流していた。警備員の後ろではズラおや
じがカルメンを踊っている。
「第2問。このらせん階段の下に劇場はある。○か×か?」
「あるに決まってるだろ?」
 Aは思わず答えてしまった。
「本当か?」
 警備員は問いただしてきた。
「なかったらタダのサギだろ」
 そう言い返された警備員は悔しそうである。
「通っていいぞ」
 警備員は小さく言い捨てると、二人に道を開けた。
「引っかからんかった」警備員は悔しそうにつぶやいている。
「帰ったほうがいいんじゃないですか?ヤバそうですよ」
 BはAを引きとめようとしたが、Aは無視してらせん階段を降りていった。

 しばらくらせん階段を降りていくと、下からジャージ姿の軽快な格好をした
若者たちが駆けつけてきた。
「おはようごさいまーす!」
 若者たちは元気よく二人にあいさつした。
「なんだ?もう夜だぞ」
 妙にさわやかな奴らに二人は対応に困ってしまったが、向こうはそんなこと
は気にも止めていなかった。
「心とからだの健康をお祈りして、ここでクイズです」
「第3問」
「やっぱり出題者か!」
 二人は吠えたが、向こうはまったく無反応なもので、ニコニコ顔をキープし
ていた。人のいうことなど全く聞いてない。
「第3問、いいですか?いいですね。ではいきます。
 この下に劇場はある。○か×か?」
 さっきと全く同じ質問である。前の人間と同じ質問を出さないように連絡を
取っていなかったのか?
 しかしこの若者たちは、出題を読み上げて得意満面の表情だ。
「どうかな?○かな?×かな?」
 若者の一人がオーバーアクションで問いただした。この若者も爽やかな笑顔
を絶やすことがない。
 別の若者はまっさらな純白のジャージを取り出してきて、二人にこれを着ろ
とばかりに見せつけてきた。負けたらこの爽やかな集団に仲間入りしなければ
ならないというのか。
「『○』」
 Bは答えた。だが、若者たちには聞こえなかったようで、満面の笑顔のまま
二人の回答を待ち続けていた。

 と、そのとき、急に上から
《うわぁああああああああああーーっっ!!》
という絶叫とともに、誰かが真っ逆さまに落ちていくのがみえた。

「心とからだの健康を心からお祈りしまーす!」
 若者たちは、落ちてゆく者に元気のいいエールを送ってみせた。
「−−で、あなたたちの回答は?」
 振り向きざま、若者たちは会社員二人につめ寄った。
「だから『○』だ」
 なんなんだ?と思いつつも、Aは答えた。
 しかし若者たちには聞こえなかったようで、そのまま二人の回答を待ち続け
ていた。
「私たちは劇を見にきてるんですよ。だから『○』」
 Bがはっきりと答えると、若者たちはとてもつまらなそうな顔をした。
「よろしければ、貴方たちのお心を浄化させていただけませんか?」
 若者はいきなりそう言いだすや、二人に手をかざしてきた。
「邪念が巣くってますよ」
 別の若者はさらに訳分からないことをいってきた。
「おい。爽やかじゃないぞ」
 Aがひるまずに言い返すと、若者たちははっとしたのか
「心とからだの健康をお祈りしていまーす」
とエールを送りながら、どこかへ行ってしまった。
 結局、なんだかよく分からない奴らであった。
「−−さっきの。飛び降り自殺じゃないですか?」
 BはAに問いただした。
「こんな時代に爽やかな奴らなんて精神異常者ですよ。ヤバイですよ。帰りま
しょうよ」
 BはAをいさめたが、
「戻って地上に出られるとはかぎらんぞ」
とAは逆に脅すようなことを言って相手にしなかった。
 二人に急に当座サギサギサギの世界が思い出されてきた。異常な世界に妙な
現実感があって困った。二人は基本的に、劇を観ようとしていただけである。
これまでのところ、観劇できたのは最初のちょっとだけで、終わりはみたこと
もないのであるが。




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