AWC 魔法のお菓子   穂波恵美


        
#836/1336 短編
★タイトル (PRN     )  97/ 8/ 3  20: 9  ( 58)
魔法のお菓子   穂波恵美
★内容
「えーっと、たまごにミルク、それとおさとう!」
 ママもパパも、今はいない。
 お仕事で遅くなるって言ってたから、しばらくお台所は、プリシア一人で使える。
 いつもは、一人でお留守番って言われるとさみしくなっちゃって、パパとママを困
らせちゃうけど、今日はプリシアはよいこの返事をした。
 だって、今日は「魔法のお菓子」を作るんだもの!

 プリシアは、やねうらで見つけた本をポンとたたいた。むずかしい言葉もいくつか
あったけど、だいたいのことは分かった。
 本の表紙には、「優しいお菓子のおまじない」って書いてあった。「おまじない」
って何かママに聞いたら、「魔法の事よ」って教えてくれた。「魔法」は、プリシア
も知ってる。リュウサのことを、みんな時々「魔法使いの生き残り」って言ってた。

 リュウサ、プリシアはリュウサが大好き。リュウサはとっても優しい。リュウサは
半年前にこの村に来た。パパもママもいなくて、「捨て子」だったのを、プリシアの
パパが引き取ってきたらしい。今は、メリーおじいさんの家で働いている。
 まっ黒の目と髪をしていて、お友達の中には黒い目や髪なんてこわいって言う子も
いるけど、プリシアはステキだと思った。いっこ年上のお兄さんだから、本当はリュ
ウサって呼びすてにしちゃダメなんだけど、リュウサは笑って「いいよ」って言って
くれた。
 リュウサは、自分のことを「ノロワレタ子供」って言ってた。「魔法」を使える人
たちが、ひどいことをして、この世界を一度こわしかけてしまったって。リュウサは
自分が「魔法使い」であることが、イヤみたいだ。だから、プリシアは魔法のお菓子
を作ってあげることにした。プリシアも「魔法」が使えることが分かったら、きっと
リュウサは自分のことをもっと好きになれると思う。

「たまごはまぜたし、えっと、おさとうをコップに半分入れて……」
 ミルクを二回にわけて入れる。カシャカシャかきまぜると、最初はきいろと白だっ
たボールの中身が、だんだんクリームみたいな色になってきた。
「よし!最後のしあげ」
 プリシアは、用意しておいたお花をもってきて、キスをした。それから花びらをハ
チミツにつける。
「あれ、このお花どうやって入れるんだろ?」
 本には、「誰にも見られないように相手のことを考えながら花をまぜる」って書い
てある。でも、「相手」ってなんだろう。
 プリシアは、しばらく考えたけど、分からなかったからそのままお花をボールに入
れた。ちょっと心配だけど、誰にも見られてないし、たぶんだいじょうぶだと思う。
 最後にカップに「魔法のお菓子」をつめると、オーブンに入れる。あとは、コゲメ
がつくまで焼けばそれでできあがり!

「リュウサ、これあげる」
 次の日、プリシアはバスケットに「魔法のお菓子」をつめてリュウサにプレゼント
した。
「これ、なあに?」
 リュウサは、ちょっと困ったように首をかしげてバスケットの中をのぞき込んだ。
「えーと、「魔法のお菓子」なんだけど……」
 プリシアも、ちょっと困って声が小さくなってしまう。コゲメはついた、と思うん
だけど、まっ黒になってしまったのだ。
 あんまり、お菓子には見えないかもしれない。
「あのね、プリシアも魔法が使えるから、それリュウサに知ってほしくて作ったんだ
けど、ちょっと失敗しちゃったかもしれなくて、なんかあんまり……」
 言っているうちにだんだん自信がなくなってきて、プリシアはリュウサの顔が見ら
れなくなってしまった。
 リュウサはくすくす笑って「魔法のお菓子」を一つ取り出した。
 そのままぱくりと口に入れる。
「うん、「魔法のお菓子」だね、ありがとうプリシア」
 リュウサは、プリシアににっこり笑いかけてくれた。
 その笑顔を見て、プリシアは思った。やっぱり、プリシアはリュウサが大好き! 




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