#824/1336 短編
★タイトル (UJC ) 97/ 7/19 5:22 ( 59)
当座サギ’ 平山成藤1.0.4
★内容
『当座サギをタダ今上演しております』
とある劇場の立て看板にはそう書かれていた。
「当座詐欺?」と会社員A。
「当劇団ではなんかの詐欺を上演してるってことじゃないですか?」と会社員B。
気になった会社員2人は劇場の掲示板をみて内容を知ろうとした。掲示板には
『当座サギをタダ今上演しております。
役者と観客が一体となって繰り広げる今までにないスタイルの新演劇
どちらが役者でどちらが観客か分からなくなってしまうほどのスリルとサスペンス!』
とだけ書かれたポスターが貼られていた。
会社員2人は入るかどうかためらったが、ヒマな二人は思わず入ってしまった。
ぐるぐるとどこまでも落ちていくらせん階段のはてに、その劇場はあった。
その入り口は古びてせまく、入りづらかった。ロビーは薄暗く、場内は真っ暗だった。
手探りで席を探さなればならなかったが、それでもなんとか見つけることができた。
しかしこんな訳分からない演劇だというのに、場内は満員盛況である。
ほどなくしてブザーが鳴りだし、場内にアナウンスがはいった。上演開始である。
『当座サギをタダ今上演しております。始まります』
「あれが題名だったのか!!」
会社員AもBも驚いたが、とりあえずは黙って見守ることにした。
上演はおもしろく、内容は題名どおり、サギ師のものである。
特にサギに遭った被害者を演じる役者の演技などは真に迫っていて、
おもわず呑み込まれそうになるほどだった。
話が進むうちに観客の中にサギをはたらいた犯人が隠れていることが判っていき、
それがバレるやいなや、客席からヤクザが飛び出してきて、いきなり役者に襲いか
かってきた。
「おお!!これがどちらが役者か分からなくなるスリルとサスペンス!!!」
と観客の会社員2人も驚いている間に、観客席から警官役も出現、
ヤクザと激しい銃撃戦を演じて両者ともいずこかへと消え去っていってしまった。
最後には救急隊員までやってきて、負傷者を幕内に連れていく念の入りようである。
ここで幕が引き、第一幕は終了した。
『これで第一幕が終わりました』
と場内アナウンスが入った。
「おお、なんかすごい展開だったな」と会社員A。
「銃撃戦なんかホントにリアルでしたね?」と会社員B。
「あっちじゃ、観客まで担架で運ばれてますよ」
という方向には、いきなりの銃撃戦で泡を吹いた観客が奥へ運ばれていっていた。
なんか血のような赤いにじみが垣間みえていたが、それを気にする客はいなかった。
ほかの客たちは休憩の間、席を離れ、ジュースを飲んだり、タバコを吸ったりと、
思い思いのことをしてくつろいでいる。
あの会社員2人も適当にくつろいで、話の続きが始まるのを待っていた。
が、いつまで経っても第二幕が始まることはなかった。
長い休憩だなと思いつつも、二人はいつまでも待ち続けたが、いつまでも始まるこ
とはなかった。
次第に客もいなくなり、会社員2人だけが客席に残った。が、話が再開されること
はなかった。意固地になった二人はいつまでも待ち続けた。ここであきらめたら、
今までの我慢がすべて水の泡である。次の開演時までネバるつもりであった。
だが前の観客がいなくなるまで、次の上演が開かれることはなかったのであった。
《当座サギ・終》
−−教訓−−
タイプ206。これは本物のエイリアスではありません(うぅぷすっ!)