AWC 当座サリン           平山成藤1.0.4


        
#823/1336 短編
★タイトル (UJC     )  97/ 7/16   3:24  ( 64)
当座サリン           平山成藤1.0.4
★内容

『当座サリンをタダ今散布しております』

あの劇場にこの立て看板があった。
「ついに開き直ったか!」
と会社員Aが喜々として言い放った。
「だからってわざわざ入ってみることはないでしょう?」
と会社員BはAを引きとめたが、二人の足は自然と劇場へ引き込まれていった。
ぐるぐるとどこまでも下りる階段の下に劇場はあった。
また改装されて、さらに内装が豪華になっている。入り口のポスターには

『当座サリンをタダ今散布しております。
−−−ついに新章に突入!
終わりなきアバターとニキビスの戦いに終止符が打たれるときがきた!!
もう知りません。もはやどこで上演してるかすらもよく分かりません』

とあった。どうも、いくところまでいってしまっているようだったが、
相変わらず話に終わりがあるのかどうか分からなかった。
「本気でサリンばらまく気ですかね?」
会社員Bがきいた。だが会社員Aは
「そんなことあるわけないだろう?あんなもの、一般人がどうやって作るんだ?」
と言って相手にしなかった。
が、劇場の売店にはガスマスクが売られており、店員が
「世界各国のガスマスクを取りそろえておりまーす。おひとつどうぞー」
なとど声をかけていたりした。
だが会社員Aはかまわず中へ入っていった。改装された入り口は入りやすかった。
場内も明るく、簡単に空席を見つけることができた。
「やっと言うことをきくようになったな」
会社員Aはご満悦である。
やがてブザーがなり、場内アナウンスが入った。

『当座サリンをタダ今散布しております。始まります』

アナウンスはなにか禁止する訳でもなく、そのまま幕は上がっていった。
だが幕が上がっていつまでたっても、だれも舞台に現れてはこなかった。
ほどなくして不意に、後ろで《どっぷん?》という音がした。
振り返ると、出入り口が液体の入った巨大なビニール袋でふさがれてしまっていた。
観客全員に恐怖が駆け抜けた。
会社員Bがあわててビニール袋でふさがれた出入り口に駆け寄り、その足元にステッ
キが一本落ちているのを見つけた。その横には紙切れも落ちている。紙切れにはワー
プロで、

『ここののビビニニーールノレ袋袋はは二二重重構講造造でですすノノ
出出るる際際ははスステテッッキキでで袋袋をを二ニ度度突突いいてて下下ささいい』

と書かれていた。なぜ二文字続けているのか気になったが、裏表に同じように二文
字続けて書いているのがもっと気になった。しかも文字化けしている。
ビニール袋の中が本当にサリンかどうか定かではなかったが、ビニール袋の向こう
では、受付嬢が笑顔で手を振っているのが液体にゆれて見えた。
だれもビニール袋を突こうという者はいなかったが、ビニール袋を突き破らないと
誰も外に出ることはできなかった。
観客の中にはガスマスクを買った者がいて、そいつが袋を突き破ろうとしたが、マ
スクを持っていない者に阻止されてしまった。しばらく持つ者と持たざる者の間で
にらみ合いが続いていたが、実はこの劇場にはひそかにネズミが隠れすんでいたり
していた。ネズミはにらみ合いの合間をぬってビニール袋へ張りつき、外へ出よう
と袋をかじっていたのである……

−−−追悼
       サリン被害者友の会/私はあのとき地下鉄丸の内線を利用していた

                           《当座サリン・終》
−−教訓−−
タイプ42。ファイルシステムマップがゴミ箱です





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